短編 怪談 ほんとにあった怖い話

遊女に憑依された女【ゆっくり朗読】

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俺の友人に聞いた話。

俺の友人Yから聞いた話なんだけど、良かったら聞いてくれ。

特定されないように多少アレンジするけど、実話だ。

Yは某新興宗教に入ってたんだけど、もう今は辞めたらしい。

そのYがまだ現役信者だった頃の話。

かれこれ十年くらい前のある日、Yは教団施設で責任者の話を聞いていた。

その日は、Yの他に三十代の男性信者Kと二十代の女性信者Mがいた。

平日だった事もあり、たまたまその日に仕事が休みだったYとK、それと無職のMだけが来ていた。

責任者の教会長は四十代の男性で、奥さんも子どももいる人だった。

体格が良く、性格は温和、顔も男前で話も上手い事から女性信者に人気があったらしい。

その日も、教会長は若い彼らにありがたい話をしていたそうだ。

和やかな雰囲気で話が進んでいたんだけど、Yは右隣に座っていたMの様子が気になりだした。

さっきまで普通に話を聞いていたのに、見てみると今は背中を丸めて下を向いている。

寝てるのかな?教会長が話しているのにヤバいじゃないか。

昨夜、ゲームでもやりすぎて寝不足なんだろうけど、まずいぞ。

そう思いながら、教会長の視線を確認すると、話を続けながらもMの方をじっと見ている。

Yは、まいったなと思いながらMの背中を叩いて起こそうとした、その時

「さわるなーーーーーー!」

えっ?

Yは思わずのけぞった。

Mの甲高い声が部屋中に響きわたった。

三人の男たちの視線がMに集まる。

普段はニコニコして美人とは言えないが愛嬌のあるMが、その時は目を吊り上げて怒った表情をしていた。

その迫力に負けて、気弱なYは思わず「ごめんなさい」と謝った。

「ふん!」といった感じで顔を背けたMは、おもむろに立ち上がって歩きだした。

そして、前に座っていた教会長の背中に回り、後ろから抱きついた。

「ねぇー、ねぇー、ねぇー、ねぇー」

そう言いながら、Mは両手で教会長の出っ張った腹をまさぐっている。

その手が股間に伸びたその時、「やめろ!」と叫んで教会長はMの体を払いのけようとした。

しかしMは、しっかりと腕を絡ませて離れようとしない。

「ねぇー、ねぇー、ねぇー、ねぇー」

と繰り返しながら絡みついているMの姿が、Yには獲物に絡みつく蛇に見えたらしい。

「おい、助けるぞ!」

Kにそう言われたYは、二人がかりでMの体を教会長から引き離した。

荒い息を立てながら、ぎらついた目で教会長を睨みつけるM。

すると今度は、無言で外に向かって歩き始めた。

驚いたYとKが手を離すと、「外に出しちゃだめだ!」と教会長が言うので、慌てて二人はMの腕をつかんだ。

しかし、小柄で華奢なはずのMは、大の大人の男を二人引きずって歩き続ける。

どこにそんな力があるのかと思うほどすごい力で引っ張られ、やむを得ず一緒に外に出た二人は、Mが行く方向についていくしかなかった。

教団施設はビルの二階で、外の道路は車道になっている。

車が往来する道路に突っ込もうとするMを、必死に食い止める二人。

その攻防が数分間続いたらしいが、突然Mの力が抜けて、すとんと地面にしゃがみこんだ。

「……もう、大丈夫……」

どうやら正気に戻ったようで、すまなそうにつぶやくMを連れて、YとKは教会長が待つ部屋に戻った。

教会長の話によると、どうやらMは遊女の霊に取り憑かれていたらしい。

Mはもともと霊感が強いのだが、このところ食欲がなく、さらには睡眠不足が続いて憑かれやすい状況にあったらしい。

体が弱ってしまうと、霊の支配を受けやすいと言う。

そのため、霊感が強い人が「食べない」「寝ない」と言うのは危険なんだそうだ。

しばらくして、連絡を受けたMの母親がやってきて、Mは帰っていった。

後からYが聞いた話によると、Mは精神病院に入れられたそうだ。

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