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舞々辻

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あたしが育った町は、新興住宅街として急速に発展した場所だった。農業が主な産業だった田舎が、あっという間に家々で埋め尽くされた。そこに住む人々も、古くからの住民と新しい住民が入り混じっていた。

しかし、その町の一角には、複雑に入り組んだ道路が存在していた。一見すると格子状の道路だが、正確な格子ではなく、まるで迷路のように入り組んでいる。その道は「舞々辻(まいまいつじ)」と呼ばれ、古くから住むお年寄りたちには特に親しまれていた。

お年寄りたちの話によると、戦国時代に敵が簡単に攻め込まれないように、このような複雑な地形になったという。歴史のロマンが詰まった話だが、あたしにとって舞々辻はただの迷いやすい道だった。

夏の夕暮れ、あたしは舞々辻に寄り添う小さな神社で幼馴染と遊ぶのが日課だった。蝉を捕まえたり、大きな柏の木に登って葉をもいだり、母に柏餅を作ってもらったりしていた。年に一度のお祭りには、装束姿の神主さんが現れ、その姿を見て神聖な気持ちになったものだ。

ある日の夕方、あたしは豆腐を買いに八百屋さんに行くよう頼まれた。いつもは舞々辻を避けて大通りを通るのだが、その日はどういうわけか舞々辻を通ることにした。雨が降りしきる中、周囲は薄暗く、街灯の明かりも頼りない。家々の明かりは漏れているが、雨音にかき消されて静かだった。

ふと前を歩く人の影が見えた。雨なのに傘をさしていない。その違和感に気づいた時、前を歩く人がゆっくりと振り返ろうとした。「見てはだめだ」という本能の警鐘が鳴ったが、脚がすくんで動けない。振り返るその人の顔が見える瞬間、何かに弾かれたようにあたしは走り出した。傘も鍋も投げ捨てて、必死に八百屋さんを目指した。

しかし、走っても走っても八百屋さんの明かりは見えない。迷ったのか?角をいくつも曲がった時、ぎゅっと両肩を掴まれた。耳元で女の人の抑えたような笑い声が聞こえる。「どこに行くの?逃げるところもないのに…」と震える唇が耳たぶに近づく。絶望の中、神社の明かりが見えた。気力を振り絞り、両肩の手を振りほどき、再び走り出す。鳥居をくぐり抜け、社務所の戸を開けると、優しそうなおじさんがいて、安心したあたしはそのまま意識を失った。

目が覚めると、お布団の中で心配そうに覗き込む両親の顔が見えた。あのおじさんが神主さんだったことに気づき、あたしは雨の中での出来事を話した。神主さんは表情を険しくし、話し終えると、重い口を開いた。

「舞々辻の名前の由来にはいくつかあるが、ここに伝わる話はこうだ。この地は戦国の時代、女子供が惨殺された戦場だった。幽霊が道に迷っている様子が舞を舞っているように見えるため、舞々辻と呼ばれるようになった。」

神主さんにお祓いをしてもらい、お守りもいただいた。それ以来、何事もなく過ごしたが、あたしは今でも舞々辻を避け、雨の日は決して通らないようにしている。あの恐怖の感触が、いまだに忘れられないから。

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