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狐憑きの少女と謎の十字架

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数年前、俺は拝み屋紛いのことをしていた時期があった。

仕事がないニート状態で、身内の不幸が続いていたせいもあり、何かに打ち込む気力もなく、ただ日々を過ごしていた。そんなある日、中学時代の悪友AがSNSに仕事の愚痴をこぼしているのを見て、久しぶりに飲みに誘った。そこでAの愚痴を聞いてみると、彼はカウンセラーをしているが、心霊現象に悩む相談者が多く、どう対応すればいいか困っているということだった。

その頃はオカルトブームで、こっくりさんや肝試しが流行っていた。特に女子学生たちがそうした話題に敏感だった。Aはオカルトを信じていなかったが、仕事上無視するわけにもいかず、毎日のように奇妙な相談を受けて精神的にまいっていた。

俺は「そんなの近場の人とかに相談しちまえよ」と言ったが、Aは冗談交じりに「だったらお前が拝み屋の真似事でもしてくれよ」と言い出した。当時の俺は特にやることもなく、面白半分でその話に乗ることにした。Aの提案で、和服や数珠、経文、聖書、十字架といった道具を揃え、真剣に拝み屋として活動することになった。

数か月後、Aはカウンセリングに来た人々に「半年先なら拝み屋を紹介できる」と言って、予約を入れていた。俺の拝み屋としての仕事が始まったのはその頃だ。仕事の内容は主に「こっくりさん」や「狐憑き」といった相談だった。

狐憑きの少女との出会い

こっくりさんに取りつかれたとされる中学生の少女の相談があった。その場合、俺は祝詞を唱えて狐の声を聴くという儀式を行った。しかし、実際には狐の声というのは取りつかれたと思い込んでいる子の心の声だった。多くの場合、その子供たちは何かしらの悩みやストレスを抱えていた。

例えば、ある少女は「親との確執がある」といった悩みを抱えており、「我を閉じ込める者が気に食わぬ」と言った。俺は芝居がかった言い回しで「ならば汝の求めることはなんぞ」と応じることで、除霊のパフォーマンスを行った。こうした手法は精神科でも用いられることがあるという。「思い込みを上書きする」手法である。

悩みを聞き出し、説得することで除霊を完了させることができれば、家族に対して「お子さんはこういう不満を持っていて、そこに付け込まれたようです」と説明し、解決策を提案した。報酬は受け取らず、「お金はお子さんとお食事に使ってください」と言った。信頼を得るためのパフォーマンスだった。

中二病との戦い

厄介なケースもあった。中二病をこじらせた子供の場合、その妄想を正面から否定し、親の前で「この通り、貴女のお子さんは話が通じます」と説明した。年齢特有の問題であると理解し、時間が解決してくれると伝えた。

また、思い込みでリミッターが外れたタイプもいた。ある少女は悪魔に取りつかれたと信じていたが、その力はとても中学生とは思えないほど強かった。相手によって道具を使い分け、悪魔には聖書、幽霊にはお経、こっくりさんには祝詞を使った。しかし、この少女は俺の右腕を折るほどの力を持っていた。

本当にやばいケース

本当にやばいケースもあった。ある女性が家に入った瞬間から気温が下がり、祝詞を唱えると蝋燭の火の勢いが増すといった現象が起こった。最終的に高名な霊媒師や神社を紹介するしかなかった。

結局、拝み屋を廃業することにしたのは、このやばいケースが原因だった。帰宅後も奇妙な現象が続き、家財道具一式を手放して逃げ出した。引っ越した後に怪現象は収まった。

Aとはいまだに付き合いがあり、たまにまた拝み屋をやってくれないかと頼まれるが、断っている。霊感がない俺でも感じるほどやばいものがいるとわかったからだ。

後日談

それから数年後、俺は普通の生活を取り戻していた。しかし、ある日Aから電話がかかってきた。「お前に話したいことがある」と言われ、再び飲みに誘われた。Aは以前と変わらず、カウンセラーとして働いていたが、最近奇妙な相談が増えていると言う。

俺たちが飲み屋で再会すると、Aは真剣な表情で話し始めた。「お前が拝み屋を辞めた後、俺のところに奇妙な相談が続いてるんだ。中には、以前お前が対応した子たちもいる」と。彼らの中には、一度は解決したはずの問題が再発し、さらに深刻化しているケースもあったという。

Aは続けた。「特に気になるのは、狐憑きだったあの少女だ。彼女の親がまた相談に来たんだ。今度は悪魔に取りつかれたって言ってさ。」俺は驚きと共に、一抹の不安を感じた。まさか、あの時の対処が不十分だったのか。

Aはさらに言った。「実は最近、俺自身も変なことが起きてるんだ。家の中で物が勝手に動いたり、夜中に奇妙な音が聞こえたりする。」俺は背筋が凍る思いをした。まさか、あの時の怪現象がAにまで影響を及ぼしているのか。

俺はAに対して「もう一度拝み屋をやってくれないか」と頼まれたが、断るしかなかった。俺は二度とあの恐怖を味わいたくなかったのだ。しかし、Aの表情には切実さがあふれていた。「俺も限界なんだ。どうか助けてくれ。」

その後、俺はどうすべきか悩んだが、結局Aを助けるために再び拝み屋として活動することを決意した。再び和服を身にまとい、数珠や経文を手にした俺は、再び未知の恐怖に立ち向かうことになった。

Aの家を訪れた俺は、家の中に不穏な気配を感じた。あの時の少女が再び訪れるかもしれないという不安が頭をよぎった。俺は深呼吸をし、再び祝詞を唱え始めた。蝋燭の火が揺れ、部屋の温度が下がる中、俺は再び未知の恐怖と向き合うことになった。

この経験を通じて、俺は幽霊や悪魔が本当に存在するのか、あるいはすべてが思い込みに過ぎないのか、改めて考えさせられた。だが一つだけ確かなことは、この世にはまだ解明されていない未知の力が存在するということだった。

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