短編 家系にまつわる怖い話

明治時代のロマンス

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ちょっとすごい偶然がウチの家にもあったという話をします。

ウチの父方の曾祖母と、祖母のお姉さんの話です。

父方の祖母は結構良いとこのお嬢さんでした。

曾祖母は跡取り娘だったので、婿をとって家を継いだのですが、実は曾祖母には好きな人がいたんだとか。

家の為に泣く泣く恋人と別れ、その恋人も悲しみから他所に行ってしまうという、明治時代のロマンスがあったそうです。

さて 月日はたち、祖母のすぐ上のお姉さんの話になります。

昔の事だし、良いとこのお嬢さんだったので、皆結婚は親が決めてしまいます。

現にウチの祖母も、結婚式の日まで祖父に会った事がなかったそうです。

祖母のお姉さんにも許嫁がいたんですが、駆け落ちをしたんだそうです。

駆け落ちまでの経緯ですが、そのころ祖母の妹が結核になり、他所で療養することになり、お姉さんが療養所に一緒について行ったそうで、駆け落ちの相手はその療養所で働いていた人だったか、その付近の人だったそうです。

曾祖母もその時は相手を知らず、いざお姉さんの結婚となった時、曾祖母に好きな人がいると、お姉さんはそっと打ち明けたんだとか。

曾祖母にもロマンスがありました。

娘の気持ちが痛い程わかったんでしょう。

お金を用意して娘を逃がしてあげたそうです。

その後、祖母は結婚式目前でお姉さんが家を出て、蜂の巣を突いたような騒ぎを目の当りにして、お姉さんの駆け落ちを知ったそうです。

それから月日は流れ、戦争も終わって暫くたった時、祖母も結婚していて故郷を離れていたんですが、曾祖父が亡くなり故郷に帰った時、誰となくお姉さんの駆け落ちの話になり、曾祖母から上記の話しを聞いたんだとか。

そして、家を出たお姉さんのことを探そうとなったそうです。

どうやって探したかは省きます。結構な時間がかかったそうです。

お姉さんは東京にいたそうで、相手の人も健在で、お子さんもいました。

曾祖母は、自分が死ぬ前に娘に会えたことをそれは喜んだそうです。

お姉さんが家を出て30年近くたっていたんだとか。

そして駆け落ち相手が、なんと曾祖母の恋人の息子さんだったという、すごい偶然を知ったということです。

何でも、曾祖母の恋人は曾祖母と別れた後、神戸で働いていて結婚したとか。

その後、息子さんが産まれたのですが早くに亡くなり、息子さんはお母さんの実家で育ち、祖母のお姉さんと出会ったということです。

曾祖母はそれを聞いて、その不思議な巡り合わせに唯、涙したとか。

ずっと、「あの人と私の気持ちがそうさせたんだ」と言っていたそうです

という不思議な偶然の話です。ウチの祖母から聞きました。

祖母も親に決められた結婚をしたせいか、この話しをしてくれた時はもう、乙女みたいな感じでした。

お姉さんが少し羨ましかったそうです。

当時、駆け落ちがどのように見られていたかはよくわかりませんが、この場合は結婚目前までいっていた為、かなりのスキャンダルだったようです。

また、相手の家にしてみれば花嫁に直前で逃げられた為、面目は丸つぶれで、相手の人が怒鳴り込んできたんだとか。

祖母の家でも、親の監督不行で面目は潰れた状態。

双方にとってかなりの恥みたいです。

祖母の家のような状態で駆け落ちの男女が出てしまうと、家の信用問題になり、他の兄弟たちの縁談が破談になったり、縁談がこなくなったりしてしまうこともあるようです。

それと関係あるかわかりませんが、祖母は四国の出身ですが、嫁ぎ先は北陸です。

ひょっとしたらお姉さんのことがあり、嫁ぎ先がそんな遠方になったのかもしれません。

ここで、祖母のお姉さんの駆け落ち後の話になりますが

お姉さんはその後、数回手紙を曾祖母に匿名で送っていたそうです。

でも『東京に住んでいます』とは書いても、住所は書かなかったとか。(その為に、お姉さんを探すのにかなり手間取ったということ)

自分の幸せの為、親、兄弟、家、相手にとんでもない迷惑をかけた、という気持ちが強かったんではないでしょうか。

だからこそ住所は書かないでおいた。

それは、お姉さんの二度とは会えません、申し訳ありません、という気持ちの現れだったような気がします。

それを考えると、曾祖母のこの決断は相当な覚悟がいると思います。

娘の幸せと、かつての自分を合わせて、駆け落ちの後押しをしたわけですが、その為に沢山の人に迷惑をかけてしまうことを、多分、当の曾祖母が一番わかっていたわけですから……

(了)

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