短編 どんでん返し

★お菓子配り【ゆっくり朗読】n+

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つい先日、友人と映画を見に行った帰りに変な女に会った話。

493 :本当にあった怖い名無し:2023/08/16(水) 23:26:34.63 ID:V96b9oCV0

その日はレイトショーで映画を見てて、最寄りの駅に着いたのは22時半頃だった。
友人がそのまま家に泊まるって言い出したから、食料調達がてら、2人ですぐそばのコンビニに寄った。コンビニ前は塾帰りっぽい少年が五、六人たむろしてて、まあまあ騒がしかった。

その脇を通り過ぎて、朝飯と適当に酒とかつまみも買って退店。多分15分もかからなかったと思う。そしたら外がなんか異様に静かで、いつの間にか少年たちも居なくなってた。

一歩足を踏み出したとき、真横から突然声をかけられた。

「浴衣綺麗ですね〜お祭り帰りですか?」

振り返ると、ピンクのポロシャツを着た女が立っていた。
彼女は個包装のチョコのようなお菓子を差し出しながら、「よかったら、どうぞ」と言った。

普段着が和服の友人は、その日浴衣を着ていたので、お祭りから帰ったものと勘違いされたらしい。しかし、友人はその菓子を受け取ろうとはしなかった。

「いやいいです、いいです!いらないです!」と食い気味に断った。

普段は落ち着いた性格の友人が、異様に強い口調で拒否したのには驚かされた。私も控えめに「結構です」と伝えたが、女は簡単には納得しようとしなかった。

「どうぞ、どうぞ」と女は執拗に菓子を差し出してくる。一方的に押し付けられるようで、不安な気持ちが高まってきた。友人の表情は次第に緊張で引き締まり、顔面は蒼白になっていった。

「お友達ですか?カッコイイですね!よかったらあげます、もらってください」
「浴衣綺麗ですね〜お祭り帰りですかぁ?」
「よかったらどうぞ、あげます」
「お友達ですか?よかったらあげます」

女は*NPCのように同じ台詞を機械的に繰り返し、ひたすら菓子を差し出してくる。その姿に異様さを感じ、私たちは動揺を隠せなくなっていった。友人は完全に言葉も出ず、菓子を手渡されるのではないかと身構えていた。

※ノンプレイヤーキャラクター(英: non player character, NPC)とは、プレイヤーが操作しないキャラクターのことを指す語である。 プレイヤーに操作されるキャラクターを指す「プレイヤーキャラクター(PC)」の対義語である。

その手を引いて、私は小走りで逃げ出した。

すると、女も真横についてきて追ってくる姿があった。暗い路地を走り抜けるたびに、彼女が姿を現すのではないかと怯えが募った。まるで、刃物を隠し持っているのではないかと疑心暗鬼になってしまった。

20メートルほど進んだところで、私たちはちょうど街灯の下に出た。そこで初めて、女の顔を見ることになった。するとぞっとするような姿を目にした。細い目をにたり、口角をふくれあげた形相で、まるで絵に描いたような狂気に満ちた笑顔を浮かべていたのだ。

「あげます!! あげます!!!もらって!ください!!!!」

金切り声で叫びながら、女は能面のように歪んだ表情を見せた。人間離れした不気味な笑顔に、私たちは戦慄を覚えずにはいられなかった。もはや、制御不能な状況と理解し、友人の手を掴んだままダッシュで逃げた。

すると、走り出したタイミングで、女も突然走り出した。しかし、さっきまでの能面のような笑顔はぴたりと止まり、真剣な表情に変わっていた。私たちに見向きもせず、ただ真っ直ぐ横を走り抜けていく。

すれ違いざまに「これ!あげます!」という声が背後から聞こえた。たぶん、近くの居酒屋に入ったのだろう。あの店の人々にも同じ行為をしているのかもしれない。

私たちは必死で家路を急いだ。帰り道、物音がするたびに振り返り、あの女が姿を現すのではないかとびくびくしていた。夜の街路は至るところに危険が潜む気がして、決して振り返ろうとはしなかった。

ようやく自宅へと戻り、戸締りを確認した。友人はすっかり顔面蒼白で、震えが止まらない様子だった。しばらくして、そっと口を開いた。

「お前、さっきのお菓子、貰ってないよな?」
「ああ、もちろん貰ってない。かばんの中を確認したが、何も入っていなかった」

友人の異常な反応に、私も強く疑問を感じていた。

「知ってる人だけど、知り合いではない」そう言って、友人は深刻な表情を浮かべた。
話しによると、以前勤めていた飲食店で、同じ女から菓子を渡された経験があるそうだ。

その時は、ただの菓子を差し出してくる変な人で、誰も相手にしてなかった。でも、ある日同僚のAさんがその菓子を受け取ったそうだ。

その後、女のAさんに対する執着は段々とエスカレートしていったようだ。最初は個包装のお菓子から始まり、次第にひと袋丸ごと、ケーキ一切れ、ついにはホールケーキまでAさんに無理矢理押し付けるようになった。

もちろん、Aさんはそんな異常な行為に戸惑い、ホールケーキを渡された時にはがっくりと肩を落とし、渾身の勇気を振り絞って断わったという。しかし、女はそれでも簡単には諦めようとしなかった。お菓子を断られるとこんどは手紙を渡し始めたのだ。

「Aさん、いらっしゃいますか?この手紙、Aさんにお渡しください」

店内が騒然とするのを見かねた同僚たちは、女が来店するとAさんに代わって「Aさんは休みです」と言い、にらみをきかせて追い返していた。が、彼女の執念は想像を絶するものがあった。毎日欠かさず店に通い、手紙かばんを差し出して店を去る、その作業を休むことなく続けていったそうだ。

中身が気になって手紙を開けた同僚もいたが、奇妙な文言の連続で何を伝えたいのかはわからなかった。だが、誰一人受け取ることはなく、結局はそのままゴミ箱に捨てられていった。

やがてAさんも、この恐ろしい体験から立ち直ることができず、その飲食店を無理やり退職することになってしまった。周りの人間にも理解されず、ただ一人でこの女との戦いに耐え抜いたのだ。

その後、女の姿を店先で見かけることはなくなった。

ある日を境に、ひとりでに姿を消したかのようにいなくなってしまったのである。

しかし、あの異様な出来事は、友人とAさんの心に深い傷を残したに違いない。コンビニの女の正体が本当にあの人物だったとしたら、また突然ターゲットを変えたのかもしれない。もしくは、新しい被害者を探していたのかもしれない。

「向こうも覚えてなかったっぽいから良かったけど……マジ次会っても何も貰うな。付け回されるぞ」

友人はくぎを刺すように、それ以上話すことは渋った。
あの出来事について、それ以上知りたくはなかったのだろう。確かに、あの女の能面のような不気味な笑顔を思い出すだけで、今でも私の心臓は高鳴りを隠せない。

人間の域を超えたあの歪んだ表情は、いまだに私の脳裏に焼き付いている。
動物と人間の境界線上を彷徨うような、異様で狂気に満ちた形相。しかしながら、その正体が本当に人間だったのかすら、この先二度と確かめる機会がないことを願うばかりだ。
夜の街路を歩く度に、物音ひとつに怯え、背後を気にしてしまう。あの日の恐怖体験は、決して私の心から消し去ることはできないだろう。ただひたすらに、あの化け物めいた笑顔と、二度と鉢合わせることのないよう、神に祈るしかない……

後日談

月日が流れ、あの出来事から一年が経過した頃、偶然にも私はその女性と再び出会った。場所は公園で、彼女は今度は誰もいないベンチに一人座っていた。彼女は相変わらずピンクのポロシャツを着ており、手にはお菓子の袋を握っている。彼女が私を見つけると、再びその不気味な笑顔を見せたが、今回はその背景を知る私は怖れずに彼女に近づいた。

話を聞くと、彼女は最近、精神的な病気を抱えていることが判明し、治療を受けていたという。その病気の一環で、他人とのコミュニケーションが困難であり、お菓子を通じて人々との接触を試みていたのだ。特に笑顔が怖く見えたのは、病気の影響で感情表現が歪んでしまっていたためだった。

彼女は病院で治療を受けながら、人々に喜びを与えるためにお菓子を配る活動を続けていたことを語った。これは彼女にとって、他人との壁を乗り越え、病気と闘う方法の一つであった。その活動は医師の助言のもと、治療の一環として推奨されているものだった。

私は彼女の話に心を打たれ、彼女が抱える孤独や戦いに共感した。私たちは公園で長い時間を過ごし、彼女の過去の行動がどのような背景から来ていたのかを理解した上で、新たな友情を育むことを誓った。

結局、恐怖と誤解が生んだ距離が、理解と共感によって埋められた。私たちの再会は、互いにとって意味のあるものとなり、彼女の笑顔も次第に自然なものへと変わっていったのだった。

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