短編 カルト宗教

バイト先の新人からの相談【ゆっくり朗読】4900

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俺が警備員のバイトをしていた時の話。

休日に家にいたら、自分の携帯が鳴った。

出てみると、警備員仲間の渡嘉敷だった。

話を聞くと、どうやら俺に相談したい事があるようだった。

渡嘉敷は新人の警備員で、その時は俺と同じ現場に配置されていた。

その現場は何ヶ月にもわたって県道を作っている所で、二十人くらいの警備員が四、五人のグループに別れて交通整理などをしていた。

他の現場には無い独自のルールなどがあり、新人には少し難しい所だっだので、仕事に関する相談をしたいんだと思った。

渡嘉敷とはプライベートな話をした事は無かったが二つ返事で快諾し、飯を食いながら話を聞く事になった。

自転車で待ち合わせ場所の飲食店に行くと、渡嘉敷と俺の知らない男がいた。

男は短髪でスーツを着ており、一見すると警察官っぽい感じがした(以下、この男を『スーツ』と記す)。

その男よりも俺は、渡嘉敷の姿に驚いた。

渡嘉敷はいつも警備員のヘルメットか帽子を被っていたので気付かなかったが、渡嘉敷の頭髪は薄くなっており、明らかに俺より年上に見えた。

年齢を聞いてみたら、俺より十歳近く年上だった。

俺は今まで渡嘉敷を年下だと思っていて、『年下で新人からの相談は断れないだろ』みたいな感じでここに来たので、とにかく驚いた。

渡嘉敷も俺の私服と反応を見て、『あれ、年下だったの?』みたいな感じになっていた。

とにかく、この謎の三人で雑談をする事になった。

始めは普通の会話をしていたのだが、だんだんとスーツが『先祖』や『祈り』等の微妙なキーワードを使い出して、最終的には某新興宗教の勧誘になった。

どうやら、初めから俺を勧誘する為にここに呼び出したようだった。

スーツは、自分が信者になってから金運が上がって儲かった話を繰り返し、お布施が他の団体と違って任意かつ定額だとか語り、やたら金に関する事を強調していた。

渡嘉敷は、金運は上がってないものの、信者になってから自信がついたとか、毎日が充実している的な事を語っていた。

最後にスーツは、この近くにある教団施設を見学してみないかと言ってきた。

どんな施設なのか興味があったので行ってみることにした。

ちなみに、施設にはスーツの新車で行った。(車内で自慢していた)

施設は無駄に大きくて、高速のパーキングエリアにありそうな食堂もあった。

スーツの後ろを歩きながら周りを見ていると、スーツが受付で何かを話しだした。

そして、この紙に記入してくれと言ってきた。

紙を見ると、入信申し込み用紙だった。

見学に来ただけなんだけど……と思いつつ、これに記入すると入信の儀式的なものを受けられるとの事だったので、好奇心に負けて、携帯の番号と名前以外は適当に記入した。

入信の儀式的なものは、施設の二階にある三十畳くらいの和室で行われた。

その広い部屋に、俺と渡嘉敷とスーツの三人と、宗教団体の幹部っぽい奴一人の合計四人。

俺ら三人は正座をして、幹部っぽい奴が唱える題目を聞く。

時折渡嘉敷とスーツがお辞儀をするので、俺もそれに合わせてお辞儀をする。

こんな感じの事が十五分くらい続くだけで、特に変わった事はしなかった。

儀式的なものが終わり、足の痺れが回復した頃、スーツから数珠と経本と謎の機関紙を貰った。

そして、俺の自転車が置いてある場所までスーツの車で送ってもらい、家に帰った。

翌日の夜、渡嘉敷から携帯に電話がかかってきた。

もう渡嘉敷とは関わりたくなかったので、着信拒否に設定した。

仕事現場でも、渡嘉敷とは必要最低限の会話しかしないようにした。

一週間後、ふと着信拒否の履歴を見てみたら、渡嘉敷から毎日三回ほど着信があった。

一ヶ月後、着信拒否の履歴を見てみたら、回数は減っていたものの、毎日渡嘉敷からの着信があった。

俺は履歴を確認するのを止めた。

やがて警備員のバイトを辞め、渡嘉敷と会う事もなくなった。

二、三年後、家にいる時に携帯が鳴った。

知らない番号からの着信だったが、特に気にせず出てみた。

『僕の事、覚えてますか?』

誰だか判らず黙っていると、相手は警備員として一緒に働いていた的な事を語りだし、渡嘉敷だと判明した。

その瞬間、俺は爆笑してしまった。

お前何年電話し続けてるんだよ、馬鹿じゃねーの(笑)

そんな気持ちが爆発的に湧いてきて、俺はただただ笑った。

そして、気が付くと電話は切れていた。

今思うと、その電話を受けた少し前に携帯の機種変更をしていたので、そのせいで着信拒否の設定が外れてしまったのだと思う。

ちなみに、その日以降、渡嘉敷から電話がかかってくる事はなかった。

(了)

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