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中編 r+ 山にまつわる怖い話 土着信仰

土着信仰~ヤマガミ様 r+6958

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俺の親の実家には、明治以前の遺骨が墓に入っていない。

その理由は、実家がある山奥の集落に仏教がなかなか定着しなかったからだ。この集落には独自の土着信仰が存在しており、それが仏教文化の浸透を妨げた要因となっていた。

というより、そもそも明治時代まで「寺」という概念すらなかったらしい。この土着信仰は、かなり特殊な性質を持っていた。それを知った俺は、あるホラーゲームの影響もあって学校のレポートの題材にこの信仰を選んだ。

そもそも土着信仰というものについて、俺はこう考えていた。外界とほとんど交わることのない集落の中で発生する集団催眠のようなものが発展したものだろう、と。そして実際、俺はその信仰をまったく信じていなかった。霊的なものにも縁がなかったし、まさかこの話を洒落怖スレに投稿することになるとも思っていなかった。

この土着信仰を簡単に説明すると、山を信仰の対象としたものだった。俺の祖先にあたる人々が住んでいたその集落は山々に囲まれており、当然のごとく海は遠く、生活は完全に山に依存していた。

食料のほとんどが山の恵みだった。魚は山の川で捕れるものに限られ、畑の作物も山から流れる川の水が不可欠だった。季節の山菜や、猪や熊などの獣の肉もまた山なしでは得られない命の糧だった。このような環境の中で、山を中心にした独自の輪廻思想が形成された。

この思想の要点はこうだ。山の恵みを受けて生活を営み、死後は山に還ることで山の養分となり、再び糧を生み出す存在になるというもの。この循環を大切にする彼らは、また独自の埋葬方法を生み出した。この埋葬方法については後ほど詳しく述べるとして、先に触れておきたいのは、山自体が神格化されていたわけではないということだ。

聞き込みを進めていく中でわかったのは、山に住む「神様」への信仰があり、それがこの輪廻思想の源になったということだった。その神様を、俺は簡単に「ヤマガミ」と呼ぶことにする。

しかし、このヤマガミという存在にはある問題があった。それは「山=神様」と見なせるかどうか、いわば鶏と卵の問題だった。もし山と神様が同一の存在であるならば、どちらが先でも矛盾はない。しかしそうでない場合、次のような疑問が生じる。

山が先にあって信仰された結果、神様が生み出されたのか。それとも神様がいたから山が信仰の対象となったのか。この問いに、俺は自分なりのアプローチで答えを出そうと考えた。

俺はこの問いを解明するため、まず集落内の人々に聞き込みを始めた。以前話を聞いた家を含め、あちこちの家を訪ねてヤマガミ様について詳しく尋ねてみた。その結果、集まったのは骨董品的な価値しか感じられない目撃情報ばかりだった。

「おじいちゃんのおじいちゃんが見たことがある、とおじいちゃんから聞いたよ」というような古びた話や、目撃者の詳細な記録をまとめた本のようなものも存在していた。しかし、この収集作業を通じて、興味深いことが二つわかった。

その前に、彼らが行っていた独自の埋葬方法について説明しよう。この集落では死者を棺桶に入れるところまでは普通だったが、その後の手順が異なっていた。故人の家族が棺桶を交代で担ぎ、近所の村人たちが鈴を鳴らしながら山の中腹にある割れ目まで運んでいく。そして、棺桶ごとその割れ目に投げ込むのだ。

この割れ目は非常に深く、底に落ちた棺桶は山と一体化し、死者は大地に還ると考えられていた。割れ目の淵には石の塔が建てられているだけで、墓というよりも儀式の場所に近いものだった。

さて、ここで明らかになった一つ目の事実。それは、この埋葬方法が普通の火葬や墓に埋める方式に変わった時期を境に、ヤマガミ様を目撃した人がいなくなったということだ。この事実から、山を信仰する儀式が薄れていったため、人々がヤマガミ様を信じなくなった、つまり集団催眠の効果が消えたのだと考えられる。

そして二つ目。それはヤマガミ様の外見が一部分を除いて一致していないということだ。あるときは猪の体をしていたり、人型だったり、羽があって飛んでいたりと、多様な姿をしているが、共通する特徴が一つだけあった。それが「顔」だった。

すべての目撃談において、ヤマガミ様の顔は石のような丸い形状をしており、白い苔のようなものがフサフサと生えていた。そして目の位置には触角のようなものがあるという記述が共通していた。この特徴は非常にインパクトが強いため、人々の記憶に強く刻まれたのだろう。

さらに、ヤマガミ様は基本的に遠巻きに人を見ているだけであり、追いかけてくることはなかった。逆に、こちらから近づくと逃げていくという。遭遇した人々は皆、「ただ見ただけ」であり、直接的な接触はなかった。

ここまで調べると、あとは実際に儀式の場所を訪れてみるだけだった。俺は「ヤマガミ様なんていません」という結論を出すために、翌日その場所へ行く計画を立てた。

翌日、俺は午後2時に出発することを予定し、準備を始めた。近場のスーパーまでバイクで20分かけて行き、スポーツドリンクやポテトチップス(うすしおとコンソメ)、ガム類、チョコレート、おにぎりなどを購入した。そして、祖母から渡された線香をリュックに詰め込み、いざ「聖域」と呼ばれる場所へ向かうことにした。

砂利道を歩き、沢を越えたところで本格的な森の中に入った。周囲は荒れ果て、道はほとんど使われていないようだった。俺はイヤホンを耳に差し込み、携帯で音楽を聴きながら進んだ。笹を避け、木の根を踏み越えながら地図を確認し、目的地への道筋を確かめた。途中、スポーツドリンクを取り出してラッパ飲みをしながら進む。

すると、前方30メートルほど先に「ヤマガミ様」が立っているのが見えた。全身が真っ白で、人型をしていた。顔はフサフサとした白い苔のようなもので覆われ、目の位置には触角のようなものがある。口は見当たらなかった。

その瞬間、時間が止まったような感覚に襲われた。イヤホンから音楽が流れているはずなのに、音が聞こえない。手足の感覚が失われ、目を逸らすこともできずに硬直していた。ただ頭だけがかろうじて動き、金縛りにあったような状態だった。

ヤマガミ様もじっとこちらを見つめていた。その間、時間が異常に圧縮されたような感覚を覚えた。やがて、ヤマガミ様が徐々にこちらに近づいてくるのを視界で捉えた。

近づいてくるヤマガミ様を見て、俺は初めて異変に気づいた。これまでの目撃談では、ヤマガミ様が人間に近づいたという話は一度もなかった。もし、ヤマガミ様が人を食う存在だったとしたらどうだろう。これまで崖に投げ込まれた棺桶の中の死体を食べていたのだとしたら? あるいは、集落に食料をもたらしていたのも、人間がいなくなり死体を食べられなくなるのを防ぐためだったとしたら?

そんな考えが頭をよぎり、全身が震えた。距離は5メートルほどに縮まっていた。ヤマガミ様の体は俺の2倍以上もあり、その顔の下にあたる部分がモゴモゴと動いているように見えた。俺は死を覚悟しながらも完全に恐怖に支配され、ガタガタと震え続けた。

ヤマガミ様の顔が視界から消えた。次の瞬間、目の前にはその石のような体が立ちはだかり、触角が俺の顔の前まで近づいてきた。そして、頭に何かが触れた瞬間、覚悟を決めた俺の耳に声が届いた。

「さむしい。さみしい。さびしー。さむしい」

俺には、そう聞こえた。

気がつくと、俺はペットボトルを手にしたまま立ち尽くしていた。イヤホンからは変わらず音楽が流れていた。恐る恐る地図を確認し、割れ目のある場所まで歩いていった。そこには石碑が立っているだけで、谷のような光景が広がっていた。

俺は持参したポテトチップスを開け、一枚食べてから割れ目に撒いた。続けてコンソメ味も同じように撒き、線香に火をつけて地面に立てた。そしてチョコレートを半分ほど供えた後、俺はその場を後にした。

帰り道、俺は自分が体験したことを振り返りながら歩いていた。ヤマガミ様の存在を否定するための調査だったはずが、結局何も結論を出せないまま終わってしまった。俺が体験したものは一体何だったのか。あれが本当にヤマガミ様だったのか、それとも調べているうちに自分も催眠にかかってしまったのか。

すべては謎のままだ。ただ一つ言えることは、この集落の信仰が持つ力は、今でも何かしらの形で残っているのかもしれない、ということだ。

(了)

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