霊能者を探したのは、知人の不運があまりにも続いたからだった。
事故、病気、災難。どれも致命的にはならないが、確実に命を削る出来事ばかりで、偶然と片づけるには多すぎた。
漫画で紹介されていた霊能者に連絡を取ると、拍子抜けするほど早く返事が来た。
「命の危険がある方は優先です」
それだけだった。
知人は霊や呪いを信じない性格だったが、この時ばかりは反対しなかった。待ち合わせ当日、私は先に霊能者と会い、仕事を終えた知人が後から合流する予定だった。
だが、約束の時間になっても知人は来なかった。電話をすると、職場でトラブルが起き、代わりの人間もおらず抜けられないという。
謝ると、霊能者は少し考えたあと、静かに言った。
「しょうがないよ。今は行かせないみたいだから」
誰が、とは言わなかった。理由も説明しなかった。
三時間後、予約していたホテルに移動した。私は日程変更を申し出たが、霊能者は首を振った。
「今日じゃないとまずい」
それ以上は何も言わなかった。
深夜近く、霊能者は突然「二十一時には来る」と断言した。根拠を聞く前に、話は終わった。
二十一時十分前、知人は現れた。疲れ切った顔だったが、なぜか少し安心したようにも見えた。
霊視が始まった途端、部屋の空気が変わった。説明はない。ただ、霊能者の視線が、知人ではなく、知人の背後を追い続けているのが分かった。
「……多いね」
それだけ言って、霊能者は黙り込んだ。
しばらくして、ぽつりと呟いた言葉が耳に残った。
「白い飯、久しぶりだろうな」
霊能者はコンビニで買ってきたおにぎりを机に並べた。誰に向けているのか分からないまま、包みを開いて置いていく。知人は何も言わず、ただ座っていた。
窓の外で、何かが動いた。人影のようでもあり、影だけのようでもあった。霊感のない私にも、それが一つではないことだけは分かった。
霊能者は低い声で話し続けた。内容は断片的で、筋を成していない。誰かをなだめ、誰かに謝り、誰かを宥めているようだった。
やがて、部屋の空気が軽くなった。窓の外は静まり返り、影も消えていた。
知人はその夜、何も聞かなかった。ただ「終わった気がする」とだけ言った。
後日、知人の病状は回復に向かった。理由は分からない。親族の不幸も、ぴたりと止まった。
ただ一つ、変なことがあった。
知人はそれ以来、白いご飯を残せなくなった。
理由を聞いても、「なんとなく」としか言わない。
そして私は今でも思い出す。
あの夜、机の上に置いたおにぎりが、一つだけ、確かに減っていたことを。
(完)
[出典:948 :本当にあった怖い名無し:2009/11/25(水) 21:50:23 ID:BGQd7vYqO]