第33話:前ぶれ
これは私の友人の体験だ。
現在は音信不通になっちゃってるんだけどね……
彼が、実家へ帰省した時に体験した話だそうだ。
彼の実家はかなり大きな、古い日本家屋で。
ところが、彼がその時、本郷に返った時には実家を離れてずいぶん経ってたんで、結局彼の部屋は物置になっちゃってたんだってよ。
で、彼は来客用の寝室に寝ることになった。
客間に接して仏間がある。
で、彼がその部屋に入った時には布団が既に敷かれてた。
枕元は襖を隔てて廊下、それから足元は襖を隔ててその向こうが仏間……
要するに仏間に脚向けてたんだよな。
そのせいか知らないけど深夜、真夜中に何故か目が覚めちゃったんだよ。
部屋には時計がないの。時間が分からないから枕元に置いた腕時計を見ようとして……
で、その時に気が付いた……
身体が動かない……
金縛りだねぇ。
彼、金縛りっていうのは初めての経験だったんで、かなり怖かったと。
そしたら
チーン……
ていう音が聞こえる。
足元の方から、要するに襖を隔てた隣の部屋から聞こえるんだよ。
仏壇の鐘の音なんだよこれがね。
エエッ!?と思った次の瞬間に、金縛りの状態のまんまで上半身がガバッと起きちゃったの。
誰かに引っ張り起こされたみたいに、意思とは関係なく、起きちゃったんだって……
それだけじゃないんだよ。
目の前に襖があるだろ?その襖がスパーンと左右に開いたら仏間……
その奥の仏壇の前に、お婆さんが正座してる。見たことないお婆さんだよ。
で、そのお婆さんがいきなり膝立ちになって
ガガガガガガって彼に向かって走ってくるんだよ。
激突寸前まで老婆が近づいてきて、その瞬間に彼、気失っちゃったの……
気がついたら次の朝だよ。
足元の襖っていうのは閉じてるしね……
「なぁんだ、夢かー」って思ってフッと気がついたら……
布団がめくれてるんだよ、腰の辺りまで。
丁度さ、上半身を起こすと布団がずり落ちるじゃない?
そのずり落ちた布団を、そのまま戻さないで寝ちゃったみたいな形だったの。
ところが話はこれだけじゃ終わらなかった。
帰省から帰って、街へ戻ってまた通勤の毎日になる……
問題はその初日だ。
エレベーターで自分の勤めるオフィスに向かうんだけどね、エレベーターに乗ったのは彼一人だったんだよ。
ずーっとエレベーターが上昇していって……
4階に行きたいんだけど、誰かが乗り込んでくるんだろうねぇ、誰かが呼んでるみたいで3階辺りまできた時にエレベーターがずーっと速度を落としたの。
チーン……
て鳴って目の前のドアがガーッと左右に開いたら目の前の廊下にお婆さんが座ってて、そのお婆さんが膝立ちでガガガガガガ!!
……気が付いた時にはエレベーターの中に座り込んで気を失ってたの。
でも彼はそのお婆さんが誰なのか全く知らないんだって……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]