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短編 洒落にならない怖い話

呪いのファミコンカセット【ゆっくり朗読】3601-0110

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ゲーム雑誌会社で働いていました。

当時はゲームと毎日向かい合っていたので、振り返るのをやめていましたが、会社自体が潰れてしばらくたち、どこの会社かばれても支障がなくなったので、その時のことを書いてみようと思います。

仕事内容とは別に会社内でも色々な怖い話があるんですが、ソフトに関係した話を。

ゲーム雑誌には、いわゆる裏技コーナーというページがあります。

当時、私の会社では定期的に裏技集を集めた本を発行していました。

そこには最新のソフトばかりでなく、昔の……それこそ、FCやメガドラ、あるいはもっとマイナーな、滅亡機種の滅亡ソフトの技まで収録されていました。

そこに収められている技についての読者からの質問は、新人編集が電話で答えることになっていました。

収録されている限りはどんなソフトでもOKです。

ある日、いつものように読者から電話がかかりました。

ソフトはセガサターンの百物語について。

収録されている101話の怪談がどうしても始まらないというのです。

今となっては記憶が曖昧なのですが、確かあれは、全100話分をすべて見ると、見られるおまけみたいなものだったはずです。

担当者はそういうような旨を電話口で伝えるのですが、相手は『でも見られない。初期出荷分だけなのではないか』と言います。

そういう時やるのは、実際にこちらで確認してみる事でした。

「こちらで確認しますので、改めてお電話いただけますか?」

『時間がないので、明日までのお願いします』

電話を切ったのが午後6時前後。電話の相手は翌日の16時に電話をするとの事でした。

ソフトを探す時間、100話分プレイする時間、技の確認。

それを本来の仕事と平行しながら行わなければなりません。

幸か不幸か、この日はDC誌の校了日。

終わるまで誰も帰れないので、一晩中煌々と電気がつき、編集部内も賑やかです。

おまけに、手が空いた人に手伝ってもらうこともできます。

新人編集と制作部の女の子達が、交代でゲームをプレイする事になりました。

話によっては監修の稲川氏が自ら出演して、音声で進めるものもあるため、プレイをする人はイヤホンをつけました。

怖い人、興味のない人などは、内容を読み飛ばしてただボタンを押し続けるだけですが、たまに興味を持って進める人もいました。自分のように。

夜も大分まわり、4時くらいになった頃です。

ぶっ通しでゲームを進め、70話ほど進行しました。

このあたりの時間から自分の担当分が校了し、そのまま机や仮眠室で力つきる人が出てきます。

そのため、プレイ人数は減っていき、やがて自分一人でプレイしなくてはならなくなりました。

イヤホンからは、稲川氏の早口なしゃべりが聞こえてきます。

正直、体力が落ちているこの時間くらいになると、何を言っているのか聞き取ることができません。

かなり疲れてきていたのか、無意識に目を閉じていたようです。

不意に音声が途切れました。

あ、終わったのかな?と僕は目を開けました。

話が終わると消えていく100本ろうそくの画面が出るはずです。

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しかし、そこには違うものが映っていました。

顔の下半分がグニャグニャに歪んだ、老婆の顔のアップでした。

元は何かの話の、クライマックス用のビジュアルなのでしょうか。

大きく口を開けた老婆が、こちらを凝視していました。

ディスクの読み込みエラーなのかもしれません。

画面の下半分だけが痙攣したようにブルブルと震え、それに合わせて老婆の口もグネグネと歪みます。

イヤホンからは稲川氏の声。

『……ジーッと見ているんですよ……ジーッと見ているんですよ…………ジーッと見ているんですよ……ジーッと見ているんですよ……』

そこの部分だけが繰り返し再生されます。妙にゆっくりと。

ソフトのフリーズはしょっちゅうですが、こんなエラーの仕方は初めてです。

やがて、リピートしていた稲川氏の音声に、ブツブツと雑音が入りはじめました。

セガサターンはディスクを読み込もうと、ガリガリいい出しています。

未セーブ分の時間が勿体ないとは思いましたが、僕は怖くなり、電源を落とそうと手を伸ばしました。

その瞬間、稲川氏の声がブツリと途絶え、ゲームに収録されているSE(効果音)が、滅茶苦茶に再生され始めたのです。

クラクション音、風の音、カラスの声、すすり泣き、雨音、そしてゲタゲタ笑う少女の声。

老婆の画像のぶれもどんどん大きくなり、顔全体が引きつったようにガクガクと歪んでいました。

僕は電源スイッチを叩き切りました。

切る瞬間、男の声で『遅ぇよ』と聞こえたのを覚えています。

そんなデータはなかったはずですが。

僕は逃げるように席を立ち、近くでぐったりしていた同僚をたたき起こして、無理矢理コントローラーを押しつけました。

彼は急に起こされて、訳の分からないという表情でしたが、怖いから続きをやってくれという僕の頼みに、ニヤニヤしながら替わってくれました。

明らかに小馬鹿にている様子でしたが仕方ありません。

しかし、数分もしないうちに彼は不機嫌そうに戻ってきました。

「データ飛んでるぞ」

スイッチが切られ、モニタには何も映っていません。

しかし、微かに映りこみがあったようで、先刻の老婆の輪郭がぼんやり残っていました。
本体の蓋を開けた状態で電源を入れます。これでセーブデータの確認ができます。

本体メモリにセーブデータを保存していました。しかし、データが壊れていました。

正常なら、ソフト名の欄に半角カタカナで『ヒャクモノガタリ』と明記されているはずなのですが、そこには『ギギギギギギギギ』と羅列してあったのです。

僕はすぐにそれを消去しました。

「どうするんだ?」と訪ねる同僚に、僕はバックアップ用の外付けメモリロムを渡しました。

10話ほど遡るけどここにもデータが入っているから、これで100話クリアして欲しいと頼みました。

当然嫌がられましたが、何でもするからと懇願し、渋々承諾してもらいました。

(このせいで、後で別の意味での恐怖体験を味わうことになったのですが、オカルトではないので省略します)
結果的には、例の裏技は普通に始まり、電話の相手の取り残しか、データの読み込みミスだろうということで決着しました。

その一件については、これで以上です。

このソフトも何か色々な逸話があったようなのですが、残念なことに詳しいことは知りません。(録音トラブルが絶えなかったらしい、というのは聞きました)

ゲーム開発会社や出版社というのは、何かが起こりやすい所なのだそうです。

ソフトが直接のはこれだけでしたが、不可解な話は色々ありました。

昼夜の感覚が曖昧だったり、いつも人がいたり、機械が多かったり、疲れている人が多かったり、そういった要因が、『おかしなモノ』を呼び寄せてしまうのかもしれませんね。

(了)

 

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