事故物件っていうのか、友人の親が不動産屋やってたんだが、過去自殺や不審死数件あって「出る」って話の部屋借りてみた。
家賃が格安っていうか、実質ほぼ無料(共益費と水道代のみ)
最初は友人が住んでたんだがやっぱり「出る」といい、俺が引き継いだ。
住んだ初日から頭痛、吐気、悪寒でそれが良くなった頃は鬱になってた。
部屋にいると、前の住人らしき男が生活しているのを感じた。
自分の部屋なんだが、そこに前の生活が重なってるみたいに見えた。
ベッドに寝ながらその男の生活を眺めていたりした。
完全に狂ってた。
リビングには10センチくらいしか開かない回転式の窓があったんだが、なぜかそのストッパーを工具で外して全開にしてみたりしてた。
そのころは幻聴もひどかった。
主に生活音の幻聴。部屋にラジオないのに、ずっとラジオの音とか。
で、ある日のこと。
この部屋は九階なんだが、俺はその窓から身を乗り出してたんだ。
腰のところからぐっと乗り出して、外を見下ろしたら下に人間がいた。
(いまここから落ちたら確実にあの人とぶつかるな)
そんなこと考えてたら、いつの間にか自分は窓から飛び降りていた。
下の男が顔を上げて俺たちは眼が合った。
あの顔は忘れられない。
気がついたら病院だった。
俺は五階の自分の部屋から落ちて、下に止めてあった軽自動車に落下。
(下見たときには軽なんか無かったと思う)
骨盤と足首、肘を骨折。
本来開かない窓を金具外してたので、事故というより自殺と思われている。
人にぶつかったと訴えたが、俺が目が合ったと思った下にいた男は存在せず、錯乱時に見た幻覚、ってことで処理された。
前の住人だった友人も駆けつけてくれた。
日に日に俺の言動がおかしくなっていくので心配してたとのこと。
精神的に逝ってた俺は、何故か九階に住んでいると思い込んでいた。
実際は五階だった。
五階の部屋で不審死自殺は一件もない。
ただし垂直上の九階の部屋の話は本当。
ただもうずっと空き室。
タダ同然で部屋を貸してくれたのは……
その部屋が友人の持ち物(分譲リース)で、その友人(男)は俺に下心(恋心)をもっていたからだと。
「霊が出る」と嘘ついたのは、怖がらせて泊まりに行くための口実狙いだった。
あと多少の悪ノリだったと。
部屋を出た理由は単純に、恋人(これも男)と暮らすからだった。
それで一番寒気がしたことは、俺と友人の前、五階の俺の部屋に住んでた男は、マンションの下にいて、九階から飛び降りた奴の巻き添えで大怪我をしたということ。
……本当に怪我で済んだのか?
……実はあの時死んでいたのではないか?
まぁ聞いても真実は答えてはくれないだろうし、それから友人とも疎遠になった。
俺が狂ったのか、あそこに何かあったのかわからない。
今は、幻聴とか全くない。
元気にしている。
(了)