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白蛇の招魂【ゆっくり朗読】833

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いつぞやの6月。

743 :白蛇の招魂1/4:2006/06/24(土) 02:04:02 ID:fWU+tbEx0
その日は相方とロードワークで、石鎚山のふもとのある集落にやって来ていた。
何でも彼女曰く、「歴史的に有名な史跡がある」と云うから付いて行ったんですが、
現地に着いて史跡とやらに行くと、まぁ辺鄙な所だった。
木、山、家、木、田、畑、家、川、家、山。
「また騙された」と気付くまでに、大して時間は掛からなかった。

私の課題は、地元の風土、郷土史に関するモノで、四国中いろんな所へ行く。
ただし、いつもオカルトチックな場所ばかり。
先日も、古代人の霊が出る鍾乳洞とやらに行ってきた。
元来ビビり性な私が、好き好んでそんな所に行ったりはしないのですが、
研究室の相方や助教授が画策して、心霊スポットばかり行き先に選ぶ。
そんな話。

棚田の坂を登りながら、相方は史跡にまつわる話とやらをしてくれた。

「――かつて、この地で大暴れした白蛇の精がいた。
普通、白蛇といえば、神の使いだとか守り神だとか相場が決まってるが、
相当の荒神だったらしく、村々にい多くの災いを振り撒いた。
その時、集まった石鎚山の山伏達が、死闘の末これを封印したのだという。
大正10年9月12日の出来事だった――」
「えらく最近だな。日付もハッキリしてんのかよ」
「ソレを封印した塚の跡が、此処なんよ」
指差す先には、盛った土の上に鏡餅状に石が3つ置いてあるだけの、しょぼくれたモノだった。
とても何かを封印しているとは思えない。
「何もないんだけど」
「塚の跡って言うたやん。
先の戦中のうやむやで、よく分かってないんちて。
誰かが塚を壊して封印を解いちゃったんだとかで、コレはその塚の名残だけ。
今では、白蛇の精は自由に動き回ってるんだってサ」
「それはヤバいんじゃないのか?」
「まぁ、一度封印したときに前牙を抜いちゅうとかで、力はかなり弱くなってるんだけど。
ただ、今でもこの塚周辺の家では、白蛇の瘴気に当てられた子が生まれて来るんだちて。
犬神憑きならぬ蛇神憑きの子が。
発症すると、舌が異常に長かったり、ウロコが出来たり、
階段を這いつくばって昇り降りするようになるっちゅう」
「それは……一生そのままなん?」
「ん―簡単に治せるらしい……いや治すのとは違うか」
「治すのと違うとは?」
「伝染(うつす)んだよ。他人に」

そう言うと相方は、足元に落ちてる枝を拾って、地面にカリカリしはじめた。

蛇憑きの者に般若心経を唱えてやると、たいそう苦しむらしい。
ただ、たんに苦しむだけで、蛇は消えてくれない。
放っておくと、憑かれた者自身、その内衰弱死してしまう。
だが、お経を聞いて苦しんでいる時に、じっと視線を合わせてやると、
たまらず飛び出してきて、眼を合わせたその人に伝染るんだという。
かわりに抜け出たおかげで、元の方の害は消える。
だから、白蛇憑きの子が生まれると、老人が身代わりになるんだという。
「……生い先短い順にね」
「じゃあ、もしいっぺんにたくさん生まれたとしたら?」
「周りの家々で交代で伝染つしていくらしい。
なんでも、長い間憑かれると剥がれなくなるから、一年とか半年周期で。
死にそうな者が出るまで、回していくんだってサね」
「なんか凄い話やな……その、二重人格とか、集団ヒステリーとかじゃあ?」
「まぁ、大抵の事はそれで説明がつくんだろうね」
そうだ、うそ臭い。
大体、何でそんな話こいつが知っているというんだ――

「じゃあ、試してみる?」
相方は親指を立てて、『お前ら表へでろ』のポーズをとった。
指の先、塚の真後ろには、立派な蔵のある家が佇んでいた。
「今年はこの家が“持ち回り”なんだ。奥行って会ってくるといい。
―――ちなみに、ウチは遠慮しとくよ」

私は、「すいません。勘弁して下さい」と言う他なかった。

相方はにっかり笑って、
「まぁ、本人に聞かんでも話は聞けるサ。
なんせここの老人で、憑かれた事のない者は一人も居ないんだから」

その後、畑仕事をしているお爺さんに出くわした私は、先程の話をおっかなびっくり聞いてみた。
お爺さんは、「しらはぶのしょうこん(白蛇の招魂?)か、そりゃ有名よ」と、にこやかに答えてくれた。
ただ、「どこから来たんか?まぁ、茶でも上がっていけいな?」と、なぜかやたらと自宅に招こうとする。
老人の誘いを丁重にお断りした私と相方は、逃げるように集落を後にした。

お爺さんが腰にぶら下げていた鉈(ナタ)が、鈍く光っていて怖かったからではない。
「家でゆっくり話し聞かしたるけに」
そう言いって麦わら帽子を脱いだお爺さんは、にっかり笑った。
その禿げ上がった頭には、びっしりとウロコ状のアザがあって――――

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