原題:逃げ場がない
小さな頃の話で、今じゃ確認のしようのない話ですが、自分にとって洒落にならない怖い話だったので書きます。
331 :本当にあった怖い名無し:2011/03/30(水) 19:33:20.49 ID:aVPujXb6O
これは僕が小学校二年生くらいの記憶なのですが、当時僕の親は共働きで、学校内にある託児所的なところに預けられていました。
僕たちはその託児所を『学童』とよんでいいました。
普段は、しばらく学童でおやつを食べたり、宿題をやったり遊んだりして、五時になると友達と一緒にそれぞれ家に帰ります。
しかしその日は、普段の遊びにも飽き、たまたま友達の少ない日だったので、友達の勇太と誠也と僕の三人で学校を抜け出そう、という話になりました。
抜け出して向かう先は、『キューピーハウス』と僕たちの間で呼ばれている、心霊スポットのようなところです。
そこは、いつも石屋の隣にある人が、長い間帰ってきていない家でした。
その家にはガレージのようなところがあり、そのシャッターの部分には、恐らく新聞や手紙などを入れるであろうポストがありました。
僕やみんなはそこから中をのぞいていたりしていたのですが、中は壊れた椅子や人形などが散乱していて、とても怖い雰囲気が漂うところでした。
時間は三時半。
僕たちは、隣の石屋のおじいさんに見つからぬようこっそり家の敷地に入り込み、花壇や塀をよじ登り、ベランダから二階にあがりました。
普通なら、窓の鍵は締めてあるはずです。
ですが窓の鍵は開いており、すんなり中へ入ることができました。
中はとても荒れていました。
もうこのときから勇太は怖がり、
「帰ろう、先生に怒られるよ」
などと言っていましたが、僕と誠也はもう気分は冒険家で、ぐんぐん奥に進んで行きました。
僕たちは二階を全体的にぐるっと見て回りました。
部屋は三部屋。
僕たちが一番最初に入った部屋は、どうやら女の人の部屋です。
何となく綺麗で、かわいらしい犬の置物などが置いてありました。
次に見た部屋はベビーベッドが置いてあり、赤ちゃん用のおもちゃが物凄い量散乱していました。
ぱっと見た感じ、あのキューピーの人形が多かったような気がします。
おもちゃはぼろぼろで、なんだか訳の分からない黒ずんだ液体がこびり付いていました。
もう一つの部屋は、何も家具の置かれていない空き部屋でした。
そして次に、僕たちは一階に降りました。
リビングは雰囲気洋風な部屋で、立派なソファーが置かれていました。
この家には赤ちゃんがいたんでしょう。赤ちゃん用の机や椅子、食器などが床に転がっていました。
僕は誠也と大はしゃぎしていましたが、勇太は誠也の服にしがみついたままでした。
書斎やトイレ、キッチン等を一通りみて回りましたが、特に変わったところは見当たらなく、
「じゃぁもうそろそろ学童に戻らないと怒られちゃうから、最後に風呂場をみて、玄関から帰ろう。続きはまた今度にしよう」
ということになり、それに従い風呂場を見に行くことにしました。
脱衣所に入る前に、誠也が
「なにかあった時の為に玄関の鍵開けておこうぜ!」
と言い出し、風呂場からすぐ近くの玄関の鍵を開けました。
外はもう暗くなり始めていました。
その家には時計が見当たりませんでした。なので僕たちは全く時間がわかりませんでした。
風呂場に入ると、酷く何かが腐ったような臭いがしました。
果物とか野菜とかが腐った臭いではなく、もっと動物の死骸が腐った臭いでした。
鼻が曲がりそうになるくらいの酷い臭いでしたが、怖いものを求めてきた僕と誠也は、
もっと何か怖いことが起こればいい……学校で噂になればいい……最悪、誰かが死んでもいい……と考えていました。
勇太はもう怖いし臭いからここには居たくないといい、風呂場のそとに居ました。
不思議なことに、一歩でも風呂場の外に出てしまえば、全くの無臭だと勇太は言いました。
風呂桶には蓋がされていました。
白いプラスチック製の蓋でしょうが、黒く変色……というより、二階で見たおもちゃのように、何かの液体がこびり付いていました。
二人で開けようと持ち上げてみたのですが、とても重く、びくともしませんでした。
蓋は二枚あり、どちらの蓋もあきませんでした。
指を蓋と浴槽の間に入れようとしたとき、僕の爪の間に何かが入ってきました。
気持ち悪っ!と指を見てみると、細く短い髪と長い髪の二本が、中指の爪の間に入り込んでいました。
それを見て僕と誠也は怖くなり、でて行くことにしました。
当時、怖がるのは格好悪いと思っていた僕たちは、
「もう飽きたし、全然怖くねぇから帰ろうぜ!」と、怖くないふりをしていました。
しかし、開けてあった風呂場のドアは、いつの間にか閉まっていました。
勇太の悪戯だろうと思って、
「おーいー勇太やーめーろーよー」「先生に言っちゃうよ」
と、ドアの外に向かって叫びました。
が、勇太の声は聞こえませんし、人の気配もしません。
ドアは曇りガラスのようになっていたので、人が前に居ればシルエットで分かります。
だんだん本気で怖くなり、半泣きになりながらドアをたたき、勇太に助けを求めました。
しかし、どんなに叫んでも気づいてくれませんでした。
ここにいれば誰かが助けてくれるだろう。
そう考えて、二人で救助を待つことにしました。
体育座りをして浴槽に寄りかかりながら、ドアの方を向いて待ちました。
十分くらいでしょうか。誠也が泣き出してしまいました。
助からないとか、死んでしまうとか、勇太はもう生きていないとか、ネガティブなことをずっと言っていました。
すると、後ろの浴槽から音がしました。
体中から変な汗が噴き出た感じがします。
怖すぎて後ろを見ることができませんでした。
また音がします。濡れた布と布をこすったような、ぬちゃ……というか、ずりゅ……という感じの音です。
思い切って後ろを見ると、しまっていた蓋が片方ずれて開いています。
もう何が何だか分からなくなり、もう一度ドアの外に助けを求め叫びましたが、勿論だれも応えてくれません。
音はまだします。蓋があいている分、直接聞こえるというか、とても聞こえやすくなっていました。
もう誠也は俯いたまま、ぶつぶつと何か言っています。
聞き取ることはできませんが、誠也の声ではなかったと思います。
誠也の声は、女の子のようなかわいらしい声をしていた記憶があります。
しかしその時の声は、低くくぐもったような、そんなような声でした。
ドアに背中をつけ、浴槽を凝視していました。何かが出てくるような気がしていたからです。
こんなところに入ってきてしまったことを、もう心の底から本気で後悔しました。
家に帰ったらお母さんと先生に謝ろう。そう考えていました。
音はずっと聞こえていたと思います。
浴槽を凝視し続けてどのくらいたったかは分かりませんが、音は鳴りやみません。
すると、小さな手、赤ちゃんの手のようなものが、開いた蓋の隙間から見えているのに気付きました。
僕は思わず嘔吐してしまいました。
誠也は未だに何かぶつぶつ言っています。
「誠也!おい!逃げようよ!ねぇ誠也!」
と、肩を掴んで揺さぶりましたが、目は虚ろ、口からは唾液が垂れていました。
僕は本気で泣いていました。
ふと、ドアの向こうに人の気配がしました。
浴槽からはさっきの音とは違い、うめき声のようなのが聞こえてきました。
うあぁぁぁ……とか、ぎぃぃ……のような感じでした。
助けに来てくれたと思い嬉々としてドアの方を見ると、曇りガラスに顔と手を押し付けた女の人がいました。
前髪を真ん中から分けた短めの髪の女が、大きな口を開けてこちらを見ていました。
顔をべったりと貼り付けているので、どんな表情なのかはっきりわかりました。
口が動きだし、何か言っているのが分かります。
言っているのは分かるのですが、内容はわかりませんでした。
僕はその女から目を離せません。
女は両手をゆっくり、物凄くゆっくりあげたかと思うと、すごい力でドアをドン!とドアをたたきました。
僕はそこで気を失ってしまいました。
目が覚めた時、僕は自宅の布団に寝ていました。
誰もいない部屋で一人でした。
急にとても怖くなり、部屋を出ると居間には母がいました。
母は泣きながら僕を抱きしめて、あの時のことを話してくれました。
どうやら僕は、一、二時間あの家にいたつもりだったのですが、二日近くあそこにいたようです。
勇太は僕たちを置いて先に家に帰ったそうですが、翌日学校に僕と誠也が来ておらず、先生から二人が失踪したということを聞かされたそうです。
勇太はその日は怖くて先生に言えなかったそうですが、家に帰り親にあの日のことを話したそうです。
警察が助けに行ったとき、僕は風呂場で気絶していたそうです。
母の話によると、左のふくらはぎにとても小さな歯形があったそうです。
そこで僕は母に、「誠也は?誠也変なんなっちゃって変なことずっと言ってて……」と泣きながら聞きました。
すると母は、「誠也君は今病院にいる。誠也君に会いたい?」
僕が会いたいというと、
「じゃぁ明日会いに行こう。でも、誠也君を見ても泣いちゃだめよ?大きい声も出しちゃダメ。いい?約束だからね?」
と、とても怖い顔をして言いました。
翌日誠也に会いに行くと、案の定あの時のまま、不気味な言葉をベッドに座ったまま言っていました。
僕はそれ以来、怖くて誠也には会っていません。
なんだかとても申し訳なく、また、あの時のことを思い出してしまうからです。
勇太とはまだ連絡をとっていますが、誠也の話はタブーみたいな雰囲気があり、話すことができません……
後日談
僕が通っていた小学校に今弟が通っているので、去年の夏あたりに、授業参観に行ったついでに見てきました。
その家は取り壊されていました。
隣の石屋のお孫さんと仲が良かったので、挨拶のついでに家の事を聞いたら、僕が小学校を卒業して二年くらいしてから取り壊され、一度家が建ち、三人家族が住んでいたそうです。
しかし、その家族の娘さんがおかしなことを言ったり、奇妙な行動をするようになったので、実家に帰ってしまったそうです。
あと、小学校卒業のとき、誠也のお父さんが挨拶にきて、誠也のお母さんがショックからか体調を崩して入院している、勇太が誠也の見舞いに来た日があったが、その日誠也が居なくなり、探すのが大変だった。
という話を母が聞き、それを母から聞かせてもらいました。
その後僕には何の異変もありませんでした。
脚の歯形は三日ほど消えませんでしたが、消えた後は本当に全く何もありませんでした。
事の顛末
いろいろな友達に勇太の連絡先を聞いて、誠也のことについて聞いてきました。
893 :本当にあった怖い名無し:2011/07/02(土) 21:47:42.20 ID:InDngvdq0
勇太はもう殆ど誠也の家族とは連絡をとっていなかったそうですが、まだ連絡できるそうなので、アポをとって会いに行きました。
誠也は昔住んでいたところにはもういませんでした。
だいぶ前に引っ越してしまったそうです。
電車に乗って一、二時間くらいの距離のところに誠也の家はありました。
誠也の家のインターホンを押すと、すぐにお父さんがでてきました。
誠也の部屋は二階にあり、あまり人が出入りしないからか、埃が廊下の隅に溜まっていました。
誠也の部屋は昼間だというのに真っ暗で、最初どこに誠也がいるのか分からないくらいでした。
誠也は昔見たときよりも回復しているように見えました。
会話は出来ました。
あの事件の後の話を聞かせてもらいました。
あの事件の後、しばらく病院に入院をしていたそうですが、毎日早朝の五時半ごろと、夜の七時くらいになると、誰かに話しかけられると言っていました。
何を言っているかは理解ができないような言葉で、毎日全く同じことを言われるそうです。
相手が誰で、何を言っているのか分からないし、自分にしか聞こえないので、あの頃は本当に発狂しかけたそうです。
退院してからもその声は聞こえたそうで、だんだんとその言葉ははっきりと、鮮明になっていったそうです。
最終的に何を言っていたのか理解できたころには、もう十六歳だったそうです。
その声は女の声で、
「いつか……そこに……迎えに……行くから……」
と、毎日毎日言い続けたと誠也は言っていました。
今はもう聞こえないそうです。
しかし、その声の女がどこかに居るのではないか、来るのではないかと不安になり、家からも部屋からも出られないそうです。
窓のカーテンを開けたら、窓の外に居るような気がして、カーテンも開けられないそうです。
僕は誠也に聞いてみました。
あの時、曇りガラスに張り付いていた女のことを覚えているかどうかを。
しかし、誠也はもう覚えていないと言っていました。
そして物凄くおびえたような声で、その女の顔がどんな顔か聞いてきます。
短い髪で、前髪を真ん中から分けた女。
その特徴を教えると、誠也は大声をだして大暴れしだしました。
もうそこに僕と勇太は居られません。
急いで出て行き階段を下りようとしたを見ると、誠也のお父さんが不安そうな顔でこちらを見ていました。
下りてみると、
「最近は結構落ち着いてたんだよね。まぁときどきああなるから気にしないでね」
と言って、奥に行ってしまいました。
なので、もう僕達は帰ると告げ、玄関に向かうと、玄関のすぐ横の部屋の扉が、少し開いているのに気付きました。
人様の部屋を勝手に覗くのはどうかと自分でも思いましたが、覗かずにはいられず、覗いてしまいました。
そこには、机の前の椅子に座っている誠也のお母さんがいました。
こちらに完全に気付いていて、目が合ってしまいました。
短い髪で、前髪を真ん中で分けていました。
だから、誠也は発狂してしまったのでしょうか……
(了)