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中編 洒落にならない怖い話

警備員のバイト【ゆっくり朗読】2800

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私は今年の夏はずっとバイトをしようと決めてました。

夜は警備員のバイトをしてそのまま朝、新聞配達をして寝るという生活が続きました。

ある日、社員の人が、

「一〇分ほど行った所にあるビルなんだけど、ちょっと異常があったから見回ってくれない?バイト代に色付けるから」

と言ってきたので、一緒にまわる友人吉田と、二つ返事で承諾しました。

その時はさほど変には思わなかったのですが、普通、時給のバイトに、プラスしてバイト代を出すなんて今考えればやっぱり変ですよね。

異常があったのは五階建ての雑居ビルで、見た目からしてなんか出そうな所でした。

表の鍵は掛かっていました。もちろん裏もカギは掛かっていました。

鍵を開けて私と吉田は中に入りました。

異常があったとされる一階は何もなし。

一応各フロアも回るように、と言われていたので、私と友人は各階ごとに一人が見まわり、もう一人が非常口が見えるエレベーターホールに待っていることに決めました。

そして五階は友人が見まわり四階は私が……ということになりました。

五階は普通のオフィスで、吉田が見回っている間、私は非常口のドアは?とノブを回したのですが、カギが掛かっているのか開きませんでした。

吉田が「異常ないよ。こりゃもうけたな」っと笑ってホールに戻ってきました。

次は四階、私が見回る番でした。

階段が使えなかったのでエレベーターで四階へ。

そこは倉庫として使っているのか、ホールにも段ボールが積んでありました。

さて、行くかっと思ったその時、私の携帯に会社から電話が入りました。

アンテナが一本しか立ってなく、やばいかなーと思いながら出るとすぐに切れてしまいました。表示は圏外。

吉田はここで待って、私は外に出て電話をかけ直すと言うことになり、何の気なしに非常口のノブをひねると開きました。

五階で非常階段を見回ってなかったので、私は階段で行くことにしました。

五階は異常なし。四階に戻ると吉田が「慎重すぎる」と笑いました。

三階、ここも非常口のドアは鍵が掛かっているらしく開きませんでした。

二階も同様に鍵が掛かっていて開きませんでした。

一階に着いたとき携帯がまた鳴り、表示を見ると会社から。アンテナは三本立っていました。

「あれ?」っと思い出ると、社員の人が吉田の事をしきりに聞くので、

「普通ですよ。どうしたんですか?」

と聞くと、さっきから何度も吉田の携帯番号で会社に何回も電話がかかって来ているらしく、しかも出ると必ずザーっと言うノイズ音しか聞こえないので、何かあったのか?と言うのです。

「いや、何もないです。吉田の携帯の故障じゃないんですか?」

っと笑いながら言うと、「なにも無いならいいんだ」と言って切れました。

階段で四階まで行くのは疲れるので、エレベーターで行こうと上ボタンを押したのですが、一向にエレベーターは四階から動きませんでした。

私は吉田が悪戯してるのだと思い、仕方なく階段で四階まで戻りました。

吉田はエレベーターホールにはいませんでした。エレベーターを見ると一階に。

吉田が私を驚かそうとしてどこかに隠れているのかな?と思い、一応四階を見回ったのですが、何処にもいませんでした。

先に三階を見に行ったのかな?っとエレベーターを呼び、乗り込むと吉田の携帯がエレベーターの中に落ちていました。

吉田の奴帰ったのか?と思い、私一人で残り三フロアを見回りました。

終わったー疲れたーもう帰ろう……

このとき重要な事を思いだし脱力しました。

この場所には会社の車で来たのですが、運転は吉田が、私に至ってはバイクなら運転できるのですが車は運転出来ない。

これじゃあ帰れないじゃないかーっと思い外に出ると、案の定会社の車はそこにありませんでした。

仕方なく私は歩いて会社へ戻りました。

その日、吉田は私を置いて会社へ帰り、そのまま仕事を辞めてしまったそうです。

会社の人は私に、もう帰っていいよと言いました。

何か釈然としないものを感じましたが、臨時収入をその場で渡されたので「まぁいいか」と結局そんなふうに思ってしまいました。

制服を仕舞うときポケットの中に吉田の携帯が……

返すの忘れてたのを思い出しました。

忘れてたというのか会えなかったってのがホントの所なんですが……

吉田は自宅に電話を引いてないので、携帯がなきゃ大変かな?なんて思い、文句ついでに 届けてやろうと新聞配達後吉田の自宅へ行きました。

吉田の家はかなりボロいアパートの二階の階段前。

寝てるけどいいよねっとチャイムを押しましたが出てくる気配なし。

何回も押すと近所迷惑だろうなぁーと思ったので、夕方にでも来てみようと私は家に帰って寝ました。

私は電子音で叩き起こされました。

時計を見ると7:30。鳴っているのは吉田の携帯でした。

仕方なく私が出ると、電話相手は吉田の母親でした。

吉田が家にいないそうなので、まだ眠かったのですが吉田の母親に携帯を渡せばいいかと思い、また吉田のアパート に行きました。

チャイムを押すとすぐに吉田の母親が出てきました。

ドアの隙間から吉田の部屋の中がチラッと見えたのですが、変な柄の壁紙が張ってありました。

私は携帯を渡してそのまま帰るつもりだったのですが、誰かが階段を登ってくる音が聞こえると、吉田の母親は「ここじゃなんだから」っと私を部屋に入れドアを閉めたのです。
中に入った時、私の顔は真っ青だったと思います。

それは、その変な柄の壁紙……は、壁紙だったのではなく、指から血が出ても壁紙をかきむしり続けた……そんな痕だったからです。

それが、壁一面にあったのです。

吉田の母親は「ペンキでも塗らないとダメね」と雑巾でこすりながら苦笑しました。

吉田の母親の話では、吉田はあの仕事中人を殺してしまった と吉田の母親に電話を入れたそうですが、途中で叫び声と共に電話が切れてしまったそうです。

その後何度電話しても話し中で、父親と話し合い、彼の母親が始発電車で吉田の所へ来たそうです。

そして管理人さんに電話を借りて吉田の携帯へ電話したそうなのです。

それを、僕がとったというわけです。

あいにく吉田の部屋の両隣は留守で、中で何があったかは分からないのだと言っていました。

 

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そして先日。吉田から電話があり、会うことになりました。

吉田はまるで別人の様な顔つきになっていて、はっきり言って喋るまで本当に吉田なのか?とさえ疑うほどでした。

実は吉田から電話があった後、彼の母親から電話があり、「息子があなたに何を言っても、すべて『おまえが疲れていたせいだ。只の幻覚』だと言ってくれ」と言われていました。

その言葉に、吉田は普通では考えられないような事を言うのだろうと、覚悟は決めていました。

彼が語った話とは……

あの日、私が吉田と四階で話し、階段で下に向かっているときエレベーターが一階に降りていったそうです。

吉田は、私がダッシュで階段を下り、自分を驚かせる為にエレベーターで上に上がって来るのだと思い、逆に驚かせてやるつもりになったそうです。

そして、エレベーターの前で扉を背にして立っていました。

エレベーターが開く音、誰かがゆっくり吉田に近づく感じ……

しかしそのとき非常口のドアが開く音がしたんだそうです。

吉田はあれ?っと思い振り返りましたが、その目には非常口が閉まったところしか見えなかったそうです。

まさか泥棒!? と思った吉田は、急いで非常口のドアを開けたそうです。すると、扉が何かに当たったそうです。

懐中電灯で見ると、そこには髪の長い女が倒れていて、しかもその女の体はうつぶせであるにもかかわらず、頭はほぼ上を向いていたそうです。

吉田は怖くなってエレベーターに駆け込むと、その中から、母親に電話をしたそうです。「人を殺した」と。

その時スーっとエレベーターのドアが開いたそうです。

そこには頭がいやな方向に曲がった女が、はいつくばりながらいたそうです。

エレベーターのドアは閉まる……が、女の腕に邪魔をされてまた戻る。そんなことが何回か続いたそうです。

そして女は立ち上がり、「曲がった頭を吉田の方へ向け、憶えたからね」と言ったそうです。

吉田は女を突き飛ばしたそうです。

そして、私が一階でボタンを押していたのでエレベーターは一階に。

吉田は無我夢中で会社へ逃げたそうです。

いきなり会社を辞め、バイクで急いで家に帰ったそうですが、部屋にいても女がやってくるのでは?と言う考えが頭を離れず、部屋から逃げ出したそうです……鍵もかけずに。

吉田が後になって下の住人から「朝までガタガタ何やってたの?」と言われたときは、あの女が来たのだと思ったそうです。

その話を聞いて私は嫌な汗が出ました。

下の住人の話からすれば、私が吉田の部屋に行っ たときも吉田の部屋にはソレがいたってことですよ?

玄関には鍵が掛かっていなかったんです。これがサスペンスドラマなら、私は必ずドア開けてますよ!

もしも、本当にそうしていたら、私はソレを見てしまったのかもしれないんです!!

……吉田は今はそのアパートを出て違う所に引っ越したそうです。

臨時収入をつけてくれると言った会社が、このことを知っていたかどうか……それはわかりません。

けれど……ソレが人間でなかったとすれば(そうとしか考えられませんが)、結局は何をしても無駄なのかもしれません。

そこの扉を開けたとき、ソレに当たらない保証が、あなたにはありますか?

(了)

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