第23話:カシマ大明神
私は学生時代、大阪にいたんですが、ある年、同窓会に出席するため、実家のある京都に帰省したのです。
同窓会で、したたかにお酒を飲み、解散した後、私は同じ方向に帰る二人の旧友と一緒に三人で田舎の夜道を歩いていました。
途中に、かなり大きなお寺があります。
その敷地内を横断すれば近道なのです。
抜けて行こうか?ということになりました。
そのうちの一人が敷地の隅の植え込み中に何かを発見しました。
「何だあれ?」
彼が指差す方を見ると、卒塔婆がたっていました。
「なぁんでこんなとこに卒塔婆が立ってんだよ!!」
などと言いながらその旧友は、あろうことか卒塔婆を引っこ抜いてしまったんです。
しかも、「何か埋まってんじゃないか?」
などと言いながら卒塔婆をシャベル代わりにして地面を掘り返し始めたのです。
今考えたらいくら酔っているとはいえ、暴挙もよいところです。
私自身も含め二人でようやく止めさせたのですが、埋め戻すのも卒塔婆を立て直すのも怖くて、結局放ったらかしにして立ち去ってしもうたのです。
……さて、私が大阪に戻ってしばらく経った頃、卒塔婆を引き抜いて地面を掘ったあの男から電話がかかってきました。
交通事故に遭って足を骨折、入院中なのだといいます。
しかも彼はその事故の前に奇怪な夢を見たそうです。
夢枕に旧日本軍隊の軍服を着た男が立ったというのです。
その軍人は彼に言ったそうです。
「お前の足は何のためにある……」
彼は「分からない」と答えたのだそうです。
「そうか……」
それだけ言い残して軍人は消え失せた……
彼が事故で足を折ったのはその明くる日のことです。
その友人は言いました。
「お前も気をつけろよ……」
そして電話を切ったのです。
さてあの問題の夜、現場に居合わせたもう一人の友人は、私のバイト仲間でもありました。
なんとその男も夢を見たというではありませんか。
状況は同じです。
軍人は彼に「お前の手は何のためにある……」と問いかけたそうです。
彼は「わっっわっわっわっ分からない!」と答え、軍人は
「そうか」
と言って消えたそうです。
「気持ち悪いよなぁ」
などと話していたのですが、事故はその日のうちに起こりました。
その友人は指を切ったのです。
傷は深く、出血も多い……結局その男は病院へ運ばれ、何針も縫うことになってしまいました。
「残ってるのはお前だけだからなぁ、気をつけろよぉー」
「分からない」と答えてはいけないのだ……と私はそう思いました。
どう答えるのが正解なのかは分かりませんが、でも、もしも夢に軍人が現れたら、ともかく何か答えないといけないのだ……
そしてついに私も夢を見てしまいました。
夢枕に軍人が立ったのです。
旧日本軍隊の軍服姿の男です。
軍人は言いました。
「お前の首は何のためにある……」
私は夢の中とはいえ、必死になって考えました。
だが、良い答えがでない……
私は苦し紛れにこう言いました。
「ねっねっネックレスをするためです!」
「そうか……」
軍人はそれだけ言って消え失せました。
明くる日、そして明くる日の明くる日、私は結局、事故には遭わなかったのです。
そして私達は骨折した友人が退院するのを待って、三人で故郷へと出かけました。あのお寺へ……
ご住職に会い、そして三人は卒塔婆を引き抜いたことを告白しました。
すると「やはり、君達か……」
ご住職は全てを知っているような様子ではないですか。
しかも、夢に軍人が現れて質問したことや、それに答えられずに事故に遭うたことなどを言い当てました……
ご住職は言います。
「その軍人は君達の無責任な行為をいさめるために現れたのじゃ。
自分が健康で五体満足で生きているという意味も考えず、それを当然と思っているような、そんな無軌道な生き方を軍人は正そうとしたのじゃ……
そして、君らが再び無軌道な生活を繰り返すようなら、軍人はまた夢に現れるだろう……
そのときにはちゃんと、自分が生きている意味を考え、返答しなされよ……」
今のところ軍人は現れていません。
ところで一つ言っておきたいことがあります。
この話を聞いたら、聞いた人もまた軍人の見てしまうらしいのです。
現に夢に軍人が現れて質問された人が何人かいます。
貴方も、自分の生きている意味をしっかりと自覚して、そういう返答をした方が良いかもしれません……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]