第17話:私にも聞かせて
これは実に有名な話で、ラジオで放送されたこともありますが、あなたが知らないといけないので一応語っておきましょう……
あるフォークソンググループの解散コンサートにまつわる奇怪な話です。
一人の少女がいました。
中学生だったとも高校生だったとも言われています。
彼女はそのグループが大好きでした。
当然解散コンサートのチケットも手に入れていたのですが、当日彼女は開演時間に遅れてしまったのです。
慌てて会場に向かいましたが、なんと会場前の道路でタクシーにはねられて死んでしまったのです。
さて、それから暫くしてあるラジオ番組で奇怪なテープが公開されました。
そのフォークソンググループの解散コンサートのテープです。
リーダーのお喋りに続いて観客の拍手と歓声、そして曲の前奏、イントロが始まるのですが、拍手の中で前奏が始まる部分に奇怪な声が録音されているのです……
女の子の声なのです。
「私にも、聞かせて……」
小さくかすかな声でしたが、しかしまるでマイクの目の前で言っているかのようにハッキリと聞こえます。
誰の声なのかは分かりません。問題のグループは全員男性です。
当のラジオ番組ではこの声を、会場前で死んだ少女の霊の声だと結論していました。
……さて、ここまでが広く語られている「私にも聞かせて」という話です。
ひょっとしたらあなたも既に知っていたかもしれません。
しかしこのラジオ放送では語られなかった奇怪な事実があるのです……
問題のテープは結局、ある音楽マニアの手に渡りました。
数百本のテープを持っている彼にとって、解散アルバムのまだ発表されていない伝説的なフォークグループの伝説的な解散コンサートのテープは、かなりの値打ちがあったはずです。
たとえ幽霊の声が録音されているとしてもです。
彼は友人達に自慢してそのテープを聞かせては喜んでいました。
もちろん、幽霊の声も聞かせておりました。
そうするうちにある日同じマニア仲間が、問題の幽霊の声の入っているテープを貸してくれと申し出たのです。
仲の良い友達だったので、彼は快くオーケーしました。
ところがどういうわけか、そのテープが見つからないのです。
あるはずの場所を探したのですが見当たらないのです。
最後には大掃除みたいになってしまいましたが、いくら探しても見つからないのです。
そのうち相手と会う約束の前の日となってしまいました。
「明日はとりあえず謝って貸すのは後日見つかってからということにしてもらおう」
そう思ってその日は寝ることにしました。
彼は寝るとき、いつも音楽を聞きながら寝ることにしています。
静かなクラシック音楽です。
いつもの場所から、いつものクラシック音楽のテープを取り出して、デッキにセットして、明かりを消して寝床に入ります。
だが始まったのはいつものピアノの音楽ではなかったのです。
突然観客の歓声と拍手がスピーカーから流れてきたのです。
そして……
「私にも、聞かせて……」
!!!!
あのテープだったのです。
跳ね起きた彼はテープラックを確認してみました。
いつものテープはキチンといつもの場所にあります。
間違って隣のテープでも抜いたのかと思いましたが、そうではありません。
何故ならラックにはいつもどおりテープが隙間もなく並んでいたからです。
ともあれ明くる日そのテープは、友達の音楽マニアに貸してやりました。
彼は喜んでテープを持ち帰ったのですが、その晩彼もまた怪異に見舞われたのです……
深夜です。
眠っていて突然目が覚めてしまったのです。
あれ?っと思ったとたん体が動かないことに気がつきました。
金縛りです。指一本動かせません。
この時彼は、以前知人から聞いた話を思い出しました。
”金縛りになった時は声を出したら解ける”ということです。
必死になって声を出そうとしましたが駄目です。
喉が掠れるような音がするだけで、声になりません。
だんだん怖くなってきました。
全身が汗にまみれ、呼吸も荒くなってきます。
それでも彼は必死になっては声を出そうと努力し、やがてついに彼は大声と共に、上半身弾かれるように跳ね起きて、自由になりました。
布団の上に上半身を起こしたまま、彼は恐怖に震えておりました。
金縛りが怖かったわけではないのです。
彼は自分自身が怖かったのです。自分自身の声が怖かったのです。
金縛りを解くために、何故か彼は大声でこう叫んでいたのです。
「私にも聞かせてぇぇぇぇぇぇぇぇ」
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]
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