夜の中庭にある雨樋と落ちる水滴

短編 怪談 不動産・物件の怖い話 n+2026 オリジナル作品

雨樋の順番 iwa+

更新日:

Sponsord Link

雨がやむと、中庭の四本の雨樋が順番に鳴った。

角の一本が、ぽん、と鳴る。二秒ほどして、その隣。さらに向かい側、最後に私の部屋の前。古い二階建てのアパートで、雨樋の下には排水用の小さな枡があった。水滴が枡の蓋を打つ音だと思っていた。

引っ越したのは六月だった。夜に雨が降ることが多く、私は窓際の机で仕事をしながら、その四つの音を聞いた。最初の音から最後までが六秒。そのあと、二十秒ほど空いて、また同じ順番で鳴る。雨が強かった夜ほど、長く続いた。

一度、最後の音だけ鳴らないことがあった。窓を開けてみると、私の部屋の前の枡に、風で飛ばされたレジ袋が張り付いていた。部屋を出て袋を剥がすと、蓋の上に水滴が落ちた。ぽん、と鳴って、角の雨樋が次の音を出した。

袋を取るまで、ほかの三本も止まっていたことに、そのとき気づいた。たまたま水が切れただけだろう。そう考えて部屋へ戻った。

七月の雨のあと、最後の音が変わった。ほかの三本は、いつもの軽い音だった。私の部屋の前だけ、ぼん、と低く響いた。蓋の下に空洞が広がったように聞こえた。

昼間に蓋を見たが、割れも、がたつきもなかった。管理会社へ連絡すると、数日後に業者が来た。私は在宅していたので、中庭で立ち会った。業者は四つの枡を開け、溜まった砂と葉を取り除いた。

「水は通っています。音が気になるなら、蓋の上に薄いゴムを置くといいですよ」

帰り際、余ったゴムの切れ端を一枚くれた。私はそれを最後の蓋へ載せ、端に石を置いた。次の雨の夜、音は三本目までで止まった。最後の水滴はゴムに吸われ、何も聞こえなかった。

仕事がしやすくなったと思った。ところが、二十分ほど経って、窓のすぐ下から低い音がした。ぼん。今度は枡ではなく、壁の中だった。

机を離れ、耳を壁へ近づけた。角の一本が鳴る。次の一本、その向かい。三つ目のあと、耳を当てた壁が鳴った。掌にも振動が伝わった。外へ出てゴムをどかすと、最後の音は蓋へ戻った。

翌朝、管理会社には壁が振動するとだけ伝えた。前に来た業者が、もう一度見に来た。雨樋を外して中を確かめてもらったが、管の内側には薄い泥が付いているだけだった。壁を指で叩いても、音は普通だった。

「古い管なので、交換しておきましょう」

その日のうちに、私の部屋の前だけ新品になった。外した管は長く、細いので、業者は二つに切った。軽トラックへ積む前に、切り口から茶色い水が少し出た。雨は三日前にやんでいた。

交換した日の夜、私は窓を開けていた。雨は降らなかった。中庭の角から、ぽん、と音がした。次の一本、その向かい。最後に、新しい雨樋の下で低い音が鳴った。

懐中電灯を持って出た。新しい管の先も、枡の蓋も乾いていた。触っているあいだに、角の一本が鳴った。二本目、三本目。掌の下で、蓋が下から押された。水滴の音ではなかった。

私は蓋から手を離した。四つの音が止まった。部屋へ戻り、窓を閉めた。翌日には実家へ泊まり、週末に荷物を取りに戻った。

部屋の前の枡だけ、蓋が新しくなっていた。管理会社に聞くと、交換した覚えはないという。角が丸く、滑り止めの模様も浅い。靴で押しても動かなかった。

荷物を詰めていると、窓の外で最初の音がした。二本目、三本目。最後を待ちながら、私は机に手を置いていた。机の下から、指先へ小さな振動が来た。

外へ回って確かめる気にはなれなかった。鞄を持ち、玄関を出た。中庭では四本とも音を出していなかった。駐車場まで歩くあいだ、鞄の持ち手を握った手だけが、二十秒おきに下から押された。

順番の最後が、もうあの蓋ではなくなっていた。

[志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

Sponsored Link

Sponsored Link

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村

-短編, 怪談, 不動産・物件の怖い話, n+2026, オリジナル作品

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.