私の姉は、首吊り紐に付きまとわれている。
今も続いている話だ。
最初にそれを見つけたのは、姉が小学校五年生の時だった。校庭の隅にある、懸垂用の背の高い鉄棒。使われていない時間帯だったはずなのに、その一番上の横棒に、太いロープが固く結びつけられていた。先端は、はっきりと人の首が通る大きさの輪になっていて、誰が見ても用途を誤解しようがなかった。
姉は気味悪がって先生を呼び、ロープはその場で撤去された。悪質ないたずらとして全校集会で注意があり、それで終わったはずだった。
二度目は半年後、家族で石川県を旅行していたときだ。道を間違えて入り込んだ集落の外れ。電信柱の足場用ボルトに、同じような輪のロープが下がっていた。これは私も見た。風は吹いていなかったのに、姉が指差した瞬間、ロープが一度だけ強く張り、ぶらりと揺れた。
三度目は一年ほど後、姉の友人宅近くの公園だった。ブランコが二つ並ぶあいだに、まるで最初からそこにあったかのように、一本だけ余分な紐が吊られていた。姉が立ち止まると、また同じ動きをした。
それからも、姉の前には年に一度か二度、決まったように首吊り紐が現れた。場所に規則性はない。学校、観光地、公園、道路脇、工事現場。どれも「たまたま誰かが結べそうな場所」ばかりだった。
姉には共通点があると言った。
「いつも私が最初に見つける。で、見た瞬間に紐がぴんって張るんだよ。それから、誰かがさっきまでぶら下がってたみたいに、ぶらんぶらんって揺れる」
周囲に人はいない。風もない。それでも揺れは収まるまで続き、最後に張っていた力が抜ける。
「そのあとね、輪の高さがちょうどになるの。私の頭より、ほんの少し上」
姉はそう言って、首の後ろを押さえた。
二十年以上、その現象は続いた。姉は驚かなくなったと言う。ただ気分が悪いだけだと。実害はないし、見つけたら離れればいいだけだと。
だが数年前、姉はぽつりとこう言った。
「もし、もう何も考えられない日に、あれが出たらさ。そのまま行く気がする」
昨年、姉は結婚した。暮らしは落ち着いている。特別な不幸があるようには見えない。
つい先月、久しぶりに姉と二人で出かけた帰り、駅前の立体駐車場で、私は先にそれを見つけてしまった。
輪は、低かった。
私の肩のあたりに来るはずの高さに、姉の首の位置にぴたりと合っていた。私は声を出せず、ただ立ち止まった。姉が一歩遅れて気づき、私の視線を追った瞬間、ロープは張り、揺れた。
その日は、それ以上何も起きなかった。
姉は何も言わなかった。私も言えなかった。
それ以来、姉はまだ一度も首吊り紐を見ていない。
[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「ほしな ◆YZpuwgGc」 2019/02/12]