小学生のころ、同級生二人と一緒に、町外れの離れに忍び込んだ。
理由は単純で、二階が「宝部屋」だという噂があったからだ。
ガンプラや古い玩具が山ほど積まれているらしい。鍵も塀もない家で、誰もいない時間帯なら簡単に入れると聞いた。
実際、簡単すぎるほど簡単だった。
ドアは開き、階段も軋まなかった。二階は建てかけのまま放置された空間で、埃の匂いと一緒に、箱に詰まった玩具が並んでいた。
欲に任せて三人で奪い合い、一人三箱ずつ持ち帰った。
数日後、すぐにばれた。
親に連れられて謝りに行くことになった。
そこで初めて、家の主に会った。
四十代半ばの、痩せた男だった。怒る様子はなく、淡々と話を聞き、謝罪を受け入れた。その代わり、生年月日と生まれた時間を聞かれた。
理由を尋ねる前に、男は自分の掌をじっと見つめ、指を折り、何かを数えていた。
その後、男は言った。
ガンプラは返さなくていい。だが、私だけは明日から毎晩ここに来なさい。
他の二人は解放された。
理由は説明されなかった。
翌日から、私は通うようになった。
だが教えられたのは学校の勉強ではなかった。紙に描かれた四×四の升目、意味の分からない配置、時間や方角の話。
理解できなくても構わないと言われた。ただ、覚えろと。
ある日、私は聞いた。
「あの二階、そんなに大事なものがあるんですか」
男は少し考えてから言った。
「あそこは守っているんじゃない。選んでいる」
誰をか、と聞く前に話は終わった。
不思議なことに、その家だけは町で起きる空き巣被害から外れていた。
鳥が異様に集まり、電線や屋根にとまっていた。理由を聞いても、男は笑うだけだった。
数年後、私は引っ越した。
大学に進学し、その家とも男とも自然に距離ができた。
変化が出たのは、それからだった。
知らない場所なのに、何度も「ここを通ったことがある」と思う。
人の顔を見ると、生年月日を知らないのに、頭の中で勝手に並びが浮かぶ。
駅の構内や建物の中で、同じ通路を何度も歩かされている感覚に襲われる。
最初は気のせいだと思っていた。
だが、ある夜、夢の中で四×四の升目を見た。
どこを進んでも外に出られず、壁が増え続ける。
目が覚めたとき、私は思い出した。
あの離れの二階で感じた広さが、現実よりもずっと大きかったことを。
最近、地元の知人から聞いた。
あの家は数年前に取り壊されたが、二階だけは最後まで入れなかったらしい。
中に入ろうとすると、何度も同じ場所に戻ってしまうと作業員が言っていたそうだ。
私はもう、あの男に会う気はない。
けれど、ときどき考える。
あの日、選ばれたのは本当に私だったのか。
それとも、今もまだ、二階の中にいるのは——。
[出典:55 :本当にあった怖い名無し:2011/05/18(水) 08:25:08.40 ID:u1r0CsJ60]