あとから考えると怖い幼い記憶
5 :あなたのうしろに名無しさんが…… 2001/02/17(土) 19:46
なにせ子供のことですから、「夢でも見ていたんだろう」ってのが常識的な判断だと思うんですが……
それでも映像としてはっきり記憶に残っている、「納得のいかない記憶」ってのがひとつだけあります。
当時、ぼくは両親の仕事の都合で、大阪府門真市の親戚の家に預けられていました。
七十年代前半頃で、親戚の家のトイレは、昭和のかおりがする汲み取り式でした。
便器の真ん中にぽっかり穴が開いていて、真下に汚物が見えるタイプ。
子供心に、臭いやら怖いやらですごくイヤだったのを覚えています。
ある日のことです
ぼくは外から遊んで帰ってきて、まっすぐトイレに直行しました。
このことからでも、少なくともこの事件があったのが真昼だったのをわかっていただけると思います。
夜中に目が覚めて、とか、朝起きてすぐ、とか、そんな半覚醒状態ではなかったことだけは確かです。
きしみ音をあげる、木の扉を開けて、トイレに入ります。
たしか、便器にはプラスチック製の蓋がついていたと思います。
それをどかそうとして、ぼくは異変に気づきました。
便器の内側が、妙に明るいのです。
中をのぞきこんで、アッといいました。
便器の落し口の真下、2メートルくらいのところに、地面が見えるのです。
ええと、お分かりでしょうか?
普通、汚物しか見えない、真っ暗な空間であるべき便器の内側は、真昼の陽光に溢れ、そして眼下には、アスファルト舗装されていない、小石のちらばる地面が見えているのです。
あれえ?と思い、子供心にすごく悩みました。
このまましちゃっていいのかなぁ……って。
しばらく、呆然と、便器の向こうの別世界を見つめていたときです。
ふと、真下の地面を人影がよぎりました。
あれっと思うまもなく、人影は戻ってきました。
おそらく、ぼくの視線に気づいたのだと思います。
五十代から、六十代くらい。頭にちらほらと白いものの目立つ、中年の男の人でした。
いまでもはっきりとその姿を思い出せます。
頭にはよれよれの帽子。
テレビで、セリ市に参加している魚屋さんの姿を見たことあるでしょう?あんな人たちがかぶっているような帽子です。
首には汚れたタオルを巻きつけ、顔は日に焼けて赤銅色に染まっていました。
男は顔をあげ、パッタリぼくと視線があいました。
そのまま対峙すること、数秒。
おじさんは怒鳴り声をあげました。
「坊主、そんなとこで見てたら、危ないやろうが!」
ぼくは後ろも振り返らず、あわててトイレから逃げ出しました。
当時、親戚夫婦は、家の近くのうどん屋で働いていました。
ぼくはその店に逃げ込むと、おばさんをつかまえ、必死でこの異常事態を訴えました。
「あのねー、知らんおじさんに、危ないゆうて怒られてん」
「そうかー。危ないことしたらあかんでー」
ちゃうっちゅうねん、おばはん!(汗
あんたんちのトイレでやっちゅうねん!
しかし、ガキの悲しさ、この事態をうまく言葉で表現することができず、結局この事件はそのままお蔵入りになりました。
その後、ぼくは半年ほどその家に居候してましたが、子供心に「あれは妖怪やない、人間やから怖うない」と思い、怖がることもなく、元気にトイレで用を足していました。
怖くなってきたのは、それから十年もたってからでしょうか。
いったい、あのおじさんと、トイレの下のもうひとつの世界の正体は、なんだったのでしょうか。
(了)