第41話:手を振る銅像
ある日、知り合いの女性は友人と共にその銅像を見物に行くことになりました。
彼女は反対だったのですが、酒の席であったことも手伝って全員が盛り上がってしまったのです。
参加人数は彼女を入れて五人、内三人が男性でした。
運転は酒の飲めない一人がやりました。
車で夜道をとばします。
その道中も彼女は「もう止めようよ……帰ろうよ」と繰り返して言ったそうです。
しかし、若さに酒が加わると怖いもの無し。
車はどんどんロータリーへと近づいてゆきます。
ロータリーまで数分という辺りで彼らは前方の人影に気が付きました。
路肩をワンピースの女性が歩いているのです。後ろ姿です。
「あぁっあ、ゆっ幽霊だよ、っあ、あれ幽霊だよ」
「そんなわけないだろ」
しかも気がづくと周りに霧が湧いていました。
不気味に思ったけれども恐怖心を振り払って、運転していた男は車を減速させて女性に近づいていくと、ことさら陽気に言いました。
「ねえちゃん、乗ってかないかい?」
女性は返事をしません。無表情で、ただ真っ直ぐ前を見て歩いているだけです。
「チェッ、冷たいなぁ」
などと言いながら前を向いた瞬間!
うわあっ!!
彼は急ブレーキを踏みました。目の前がガードレールだったのです。
振り返ってみますとさっきの女性の姿はどこにもありません。
車は再発進しましたが誰も口をききません。
誰もが、さっきの女性は幽霊だったのではないかと考えていましたが、それを口にする者はなかったのです。
「戻ろうよ」とまた彼女が言ったのです。
「まずいよ、これヤバイよ」
しかし、そうはしませんでした。
ここまで来てこんなモノまで見たんだから、もう行くしかないよ。何故かそういうことになってしまったのです。
車はローターリーへと再発進しました。
やがてロータリーが見えてきます。そして、その中央に立つ銅像、通称『手振り地蔵』の姿も見えてきました。
車は滑るようにロータリーへと入っていきました。
運転の男が言いました。
「おっ、お降りないからなっ、くく車止めないからな」
「おう、そうかい。そしたら銅像の周りをグルッと一回りして帰ろうよ」
誰もが異論を挟みません。
車はロータリーに沿って、銅像の前をぐるーーっと回って行きます。
闇の中に立つ少女の像を五人は車の窓越しに眺めておりました。
やがてロータリーと車道との合流地点がやってきます。
その時、運転していた男が奇怪な事実に気が付きました。
彼は言いました。
「おっ、おい?何であの、あの、しょ少女の銅像……ずっと、しっ、し正面しかこっちに向けないんだよ?」
一同は彼の言葉をすぐには理解できませんでした。
でも一瞬後『うわあああーー!』と全員が同時に悲鳴をあげました。
車はロータリー沿いに銅像の周りを一周したのです。
それにも関わらず、どう回ってみても銅像は必ずこちらに正面を向けて立っているのです。
誰にも銅像の側面を、そして背中を見せなかったのです。
この銅像は今は取り壊されてなくなっています。
何故だったのか、その理由は分かりません……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]