2009年、大学のとき遭遇した『霊殺し』の話。
40 ：本当にあった怖い名無し：2011/10/30(日) 23:56:02.70 ID:a3oIxkR+0
夏休みなのに、やることねぇヤツらが集まって、肝試しに行くことになった。
メンバーは七人。男四人、女三人で、男の内一人は霊感アリの勅使河原。
その勅使河原は見た目完全にＤＱＮだけど、気さくで結構イイ奴。
頭は悪いが話が上手で、退屈させない男だった。
『笑ってるけどキレたら化け物』の典型って感じかな。
目的地は、企画した準之助の実家近くにある廃屋。
見るからにボロくて、準之助が厨房だった頃からあったらしい。
壁が黒ずんでて、回りも閑散としてる上に森に囲まれてる。
雰囲気は満点で、遠目から見ただけで全員大興奮。
けど勅使河原は、神妙な顔でしばらく黙り込んで、数秒後に吹っ切れたように笑ってた。
小声で「まぁ……大丈夫だよな」と、困ったように言ってたのを鮮明に覚えている。
二階建てで、ちょっと洋風入っててファンシー。建物自体の広さは１５メートル四方くらいだったと思う。
赤茶けてたり黒ずんでたり、風化劣化の集大成みたいな家で、立地条件は最悪を通り越して逆ヘブン状態。
ジャンケンに負けて、玄関のドアを開けようと思ってノブを引くとやたらと硬い。
全身使って力一杯引いたら、「ギッ…！ギッ…！」てな感じで徐々に開いていく。
その時、勅使河原が一緒に引いてくれたら、すんなり開いてビックリした。
これも霊力の一種なのかな？
ドアが開いた時、廊下の奥で何かがヒラヒラしてたのが見えた。
他の男ニ人はバシャバシャ写真撮ってばっかで、クソの役にも立たなかった。
中に入ると、中は意外と荒らされてなくて驚いた。
居間なんて、つい最近まで誰かが住んでたんじゃないかという気さえした。
でもホームレスとかじゃない。
家に入った瞬間から誰かの視線を感じる。
３６０度全方位から、家そのものから見られてるような感覚がした。
後になって気付いたが、開いてる窓や大きな穴が開いている箇所もなかった。
では一体、何がどうやってヒラヒラしたのか？この時点で悪寒が走りたい放題だった。
もうひとつ意外だったのは、勅使河原が案外ホイホイ入っていっちゃうこと。
霊感あって一番怖がりそうだと思っていたが、むしろ楽しんでたし、色んな所のドアをポンポン開けては、「今なんかいたぞ（笑）」とか冗談も言ってた。
しかし、二階に一部屋だけ、開かずの間があって気味が悪かった。
この家で唯一和室で障子囲いなのに、そのどれもが全力で開けようとしてもビクともしない。
俺と勅使河原以外のやつらは１階で酒飲みだして、もう完全に肝を試す気ゼロだった。
申し訳ないと思いつつ、勅使河原を呼んで開けてもらった。
頼んだときは若干嫌そうな顔をしたが、素直に楽しんでる俺に免じてか、溜息を吐きながらも手伝ってくれた。
これまた勅使河原が手伝うとスンナリ開いちまって、自分の腕力に若干不安を覚えたのを覚えている。
中は四隅が真っ暗で、一つだけある窓から月明かりが差し込んでて、一部だけ床が見える妙な感じ。
言いづらいけど、その月明かりも白々しいような、邪悪なモノのように見えたんだ。
嫌いなヤツがカラオケに突然来た時みたいな凄まじい違和感とはちょっと違うけど、とりあえず普通の気持ち悪さとは、ひとあじ違う。
なんとなく早く入らなきゃと思って先に一歩踏出したら、勅使河原も入ってきて障子を閉め、俺の隣に並んで立つ。
窓の前に机があって、置いてある小物から判断して、多分小学生くらいの女の子の部屋なんだと思った。
窓から外を見ると、ちょうど準之助の車が見下ろせる位置にあって、何故かはわからないが、もしここで幽霊が待ち構えてたら全部見えてたんだろうなーと思った。
俺はこの時点でメンタル的に負け、その時また直感的にバッと後ろを振り返ると、障子がちょっとずつ開いていく……独りでに。
俺は目が離せなかった。
音も立てず、独りでに開く障子からなんとか目を逸らし、勅使河原に視線で助けを求めると、勅使河原は未だかつて見たこともない程に冷めきった目で、その光景を眺めていた。
障子が全部開ききって、誰のかわからない息遣いが聞こえた……
その時！勅使河原が射殺すような鋭い目つきでソレを睨みつけて、ドスのきいた声で喋り出した。
「帰れよ……なぁ……」
人間同士の喧嘩と大差ない感じだったが、空気が違う。
身体が凍って動けない。
「わかってんだろ……ホラ、帰らないとさぁ」
そう言って勅使河原が拳を握り締めた瞬間！
「ドタドタドタドタ！！」
と音を立てて何かが階段を慌てて下りていった。
数秒間沈黙があって玄関が「バァァアン！」と大音響と共に乱暴に開かれ、落ち葉の上を這いずるようにしてその『何か』が家から遠ざかって行く。
下の階のメンバーは完全にパニックになっている。
疑問系の短文が飛び交っているのが聞こえる。
だがその時の俺は、混乱のあまり『菊地真カッワイイぃいぃ』としか考えられなくなっており、
『シノヅカアツト、って神だなー』とか、呆然と考えてた。
体感時間にして、約病院の待ち時間くらい。
程なくして、一階の酔っ払い達も大人しくなった。
その静けさの中で、勅使河原がボソッと「許すわけねぇだろ」と乾いた声で言った。
人生で一番強く恐怖を感じた瞬間だった。
家の付近で
「うあ゛あ゛ああああぁぁぁぁ゛ぁ゛あああああああああ！！」
という女の叫び。
何故か誰も音を出さない、耳が痛み気が遠くなる程の沈黙……
その数秒後、『ぼぎッ』と、鈍い音が聞こえて、落ち葉に何かが倒れた。
勅使河原は、帰り機嫌がよかった……
（了）
