短編 怪談

大学の坂道【ゆっくり朗読】

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この時期になると、階段を見る機会が増えるので思い出した話。

926 :本当にあった怖い名無し:2023/07/21(金) 15:05:52.94 ID:LE3PD82C0.net

自分が神奈川の某大学院に在学していた頃なので、かれこれ5年ほど前の話か。

うちの学校は基本的に22時には全ての棟が閉められてしまうのだが、予め利用する教室、目的を守衛に提出しておくと、0時までは残ることが出来た。

そのため、学際前には実行委員会や出し物をするサークルが準備をしたり、提出物の期限に追われている学生が居残りをしたりしていた。

かくいう自分も修士論文の提出期限が迫っており、年明け早々研究室に0時までカンヅメになっていた。

その日も一通り執筆を進めた後、戸締まりをして帰路についていた。

キャンパスが山の上にあるため、街灯以外の灯りは消えてしまっているような坂道を下りアパートに向かっていると、向こうから男女5人くらいのグループが歩いてきた。

ああ、駅前の居酒屋で飲んでいた学生グループか、これから誰かの家に泊まるのか、などと考えながらすれ違おうとすると、

「まだ、入れますか」

と、グループの男から声をかけられた。

何かサークル活動をしていて、忘れ物でもしたのか?

とは思ったが、0時を回ってしまっているので勿論キャンパス内に立ち入ることはできない。

ただ、守衛がまだ残っていれば融通を利かせてくれるかもしれないし、貴重品の忘れ物であれば守衛室宛に届いている可能性もある。

とはいえ、変な期待を持たせて無駄足を踏ませてしまっても悪いな、という想いと、明日の朝一に行っても同じことだろう、と考えたこともあり、

「無理だとは思いますよ」

とだけ答えた。

それに対して、

「そうですか」

とだけこぼし、彼らは進んでいった。

お礼くらい言ったらどうなんだ、等と少しのイラつきを覚えた。

帰路をすすむと、今度はくたびれたスーツ姿の中年男性が歩いてきた。

すると彼も

「入れますか?」

と聞いてきたのだ。

大学の職員か?とは思ったが、職員であればこの時間にキャンパスに立ち入ることができるかどうかなど解っているだろうし、そもそも学生に聞くこともないだろう。

さすがに怪しく思ったので、「入れないですよ」と、先程の学部生たちに対してよりも、少し語気を強めて答えた。

それに対して彼は特に何も答えることもなく歩き始めた。

しかし、彼はすれ違いざまに

「入りたかったのになあ」

と、ボソッと、しかしハッキリと耳に残るような声で呟いた。

全身に鳥肌が立ったのを今でも覚えているが、本当に変質者だったのか?と疑問と好奇心を抱き、10秒ほどしてから振り返った。

しかし既にそこには彼の姿はなかった。

通っている道は一本道で、しばらく歩かないと脇に入る道はなく、建物もない。

また、あのまま進むのであればそこそこな勾配の上り坂であり、そんな数秒で視界の外まで行くことは不可能であろう。

あまりにも気味が悪すぎたため、家までほぼほぼダッシュに近い小走りで帰り、その日はシャワーも浴びずにそのまま寝た。

その後特に身の回りに変わったことは起きてはいないが、今でもふと思い出すことがある経験だ。

その前にすれ違った学部生を含め、彼らはそもそも生きている人間だったのか、入りたかったのは本当にキャンパスだったのか。

そして、あの時入れますよと答えていたら、自分の身に何かが起きていたのか。

今でも、思い出すと身震いする体験だ。

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