短編 ほんのり怖い話

孩子(がいじ)

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この墓標を見るたびに変だなぁと思っていた。

48 :本当にあった怖い名無し:2006/03/21(火) 00:52:58 ID:QZDE2QMF0

俗名 清三郎 昭和52年10月12日 享年四拾九歳
孩子 昭和52年10月12日

がいこさん……?

葬式の記憶はあるんだけど、亡くなったのは叔父だけだし、叔父の娘はふたりだけど存命だし……

今年の正月、たまたまこの叔父の娘、従姉妹と会う機会があったんで、永年の疑問をぶつけてみた。

「ねぇ、きみたちにほかに姉妹いたの?」

すぐにピンと来たらしく、話してくれた。

従姉妹たちは、なんで父が一緒に風呂に入ったり、海水浴にいっても一緒に泳ごうとしたりしないのか、不思議で仕方なかったんだって。

そりゃ妙齢の娘ならば話もわかるけど、幼児のころから父の裸を見た記憶が全くないらしい。

ある日思い切って尋ねたが要領をえない返事。

しばらく経ってまた母親に尋ねた。

母親は最初「さぁなんでかねぇ」ととぼけていたが、執拗な問いかけに音をあげたか、「お父さんはお腹にでき物ができててね、それを人にみられるのが嫌なんだよ」と教えてくれた。

幼い姉妹はそれで納得したらしい。

翌年の夏、下の方の娘が遊びを終えて帰ってくると、珍しく父がパンツ一枚で横になっていた。

おできの話を思い出して、急にそれを見てみたくなった。

そっと近づくと、右脇腹あたりにウズラの卵大のほくろのようなものがあるのを見つけた。

ただそれは皮膚の上にではなく薄皮一枚の下にある感じで、よく見ると緩やかに動いていた。

なんとなく触ってみたくなって、手をそーっと伸ばそうとした瞬間!

部屋の外からタッタッタッと誰かが駆け寄る音がして、下の娘を突き飛ばしたそうだ。

尻餅をついた娘が見上げると、紺色の着物を着て白い帯を巻いた三歳くらいの男の子が、父の脇腹をかばうようにそっと撫でていた。

「痛いじゃないの!なにするのよ!!」

娘は大声を上げた。

実はここで、彼女の記憶は途絶えていた。

父も母も姉も、「夢でもみたんでしょ」と取り合わない。

もともとあまり物事を深く考えない妹も、そうかなぁとこの出来事を忘れてしまった。

その後しばらくして、叔父は体調の不良を訴えだし即入院。

手術後の経過は順調だったが、結局家に帰ることなくして亡くなってしまった。

四九歳の若さだった。

そして今年の正月の話に戻る。

「父はもともと双子で生まれてくるはずだったのね。肉腫として診断されたものは、もうひとり生まれてくるはずだった兄弟だったのね。もちろん人間としての姿はなかったそうだけど、数センチの脊椎とおぼしき骨や、未形成の四肢のようなものもあったそうよ。それが袋状の組織の中で、『外に出たい、出たい』というような形で、父の体内にずっととどまっていたみたい。顔があったとは聞いていないけどね」

と姉が語ると、妹の方が、

「だからね、お父さんのお葬式のときに、みんなでいっしょに弔うことにしたんだって」

叔父の死因は肝硬変である。この肉腫自体は死因ではない。

「あの日のことを思い出したの、高校生のとき。なぜか授業中に。お父さんのでき物は、まるで眼球のようだった。怖いと言うより、そこになんで目があるのか不思議で仕方なかったのよ。そしてあのとき突然現れた男の子、目がなかったの。その部分は肌色がひろがっているだけ。ひょっとしたら、あの子の目だったのかもしれないねぇ。お母さんに話すときっと泣き出すから(とてもなかのよい夫婦でした)、おねえちゃんにだけ話していたの。他人に話すのはあんたが初めてよ」

(了)

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