あまりにも不運が続く知人のため、漫画で紹介されていた霊能者にコンタクトを取った。
『依頼殺到』と書かれていたにもかかわらず、驚くほど早い返事が来た。
「命の危険がある方は優先です」とのことだった。
知人はそういう類の話を信じない人間だったが、この時ばかりは抵抗もなく私の行動を受け入れた。待ち合わせの当日、私は先に霊能者と会い、仕事を終えた知人が後から合流する予定だった。だが、知人は約束の時間になっても来なかった。連絡を取ると、仕事場でトラブルが発生し、代わりの要員も見つからず身動きが取れないという。
霊能者に謝ると、「しょうがないよ。行かせないつもりだから」と静かに言われた。まるで、その事態の理由をすべて知っているようだった。
三時間が経過し、予約していたホテルへ移動した。私は「日程を変更していただいても……」と申し出たが、「そんなことをしたら、その人、今度こそ死ぬよ」と言われた。
霊能者は続けた。「行かせないようにしてるんだよ。絶対に離れないって。かなり恨みが強いからね」
「え?じゃあ来れないんですか?」
「いや、来ないと危ない」
「??」
「他にもいるんだよ。今日、俺と会うのを知って、やっと成仏できるって待ってるのも沢山いる。それが出来なくなったら?何百年も苦しんでやっと成仏できるって期待していた分、絶望も桁外れ。その憤り、逆恨みは行かなかったその人に一斉に向けられる。今度こそ死ぬよ。殺される」
知人は昔から事故や病気で九死に一生を得る経験を何度もしていた。そして今回は癌を患っていた。だから本当に何かあると思い、霊能者に頼んだのだった。
「だから、何がなんでも今日なんとかしないといけないんだ。何時になろうと何時間だろうと待つから」
霊能者は何かの術を遠隔で行い、「大丈夫。二十一時には来れるよ」と言った。
そして、二十一時十分前、知人が現れた。そこから霊視が始まった。
知人の家は四国の閉鎖的な田舎にあり、代々の家系に問題があった。本来なら祖父の代で家は途絶えるはずだったが、無理やり養子を迎え継がれていた。そして知人には、何百もの霊体が憑いていた。特に強い怨念を持つ「リーダー」と呼ばれる霊がいた。
「……差別?」
霊能者が呟いたその言葉に、知人は驚いた。彼の田舎では未だに部落差別が生きており、彼自身はその理不尽さを嫌い、田舎を出ていた。
「貴方のご先祖……六代か七代か……前の方。この世のものとは思えない残虐な仕打ちをしてるわね」
「この人ね、悪い人じゃないの。ただ、人一倍正義感が強くて、仲間が虐げられるのが許せなかったの。悔しくて悔しくて、どうして同じ人間なのに生まれでこんなに違うのかって。泣いて訴えてるよ」
霊能者は懸命にリーダーを説得し続けた。時刻はすでに深夜。窓の外をうろつく影が見えた。霊感のない私にも、それが分かった。
「白米なんて食えなかったんだろ。成仏前にゆっくり食え」
霊能者はお握りを用意し、憑いていた霊たちに振る舞った。リーダーは暫くごねていたが、霊能者の説得により納得し、やがて成仏していった。窓の外にいた者たちも一緒に。
なぜ知人に憑いたのかを聞いてみた。
「差別による虐めを率先していたのが彼のご先祖さま。その一族の中で彼が一番強かったから。精神的にも肉体的にも」
知人の家系を根絶やしにするためか、あるいは、知人ならば救ってくれると願っていたのか……それは分からない。ただ、一つだけ確かなことは、何百年もの間、彼らは理不尽な苦しみを抱え続けていたということだった。
それから知人と親族の状況は好転したのか。劇的な変化はなかったが、悪化もしていない。知人の癌も、術後の回復が異例なほど良好だった。
長い年月の果てに、ようやく呪縛から解放されたのかもしれない。
[出典:948 :本当にあった怖い名無し:2009/11/25(水) 21:50:23 ID:BGQd7vYqO]