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盗聴器に棲む声 r+4,402-4,761

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今でも彼女から聞いたその話を思い出すと、耳の奥に何か湿ったものが残るようで落ち着かない。

華やかな照明の下でモデルのように立ち続ける仕事に疲れ果て、今ではすっぴんで日々を過ごすという元キャンギャルの彼女が、声をひそめて打ち明けてくれた出来事だ。

話の中心は、彼女の友人だった。同じように派手な仕事をしていたその女性が、ある夜、自分のマンションに空き巣が入ったという。壊された窓の鍵を除けば、財布も宝飾品も手つかず。警察も訝しげに首をかしげ、不動産屋は鍵を取り替えるだけで片をつけた。そのときはただ気味が悪い事件、そう思っただけだった。

だが三か月後、空き巣の正体が自ら警察に出頭したことで、話は別の色を帯び始めた。盗聴器を仕掛けていた、と犯人は語ったのだ。だがその小さな装置を通じて聞こえてきたのは、部屋の住人の声だけではなかった。赤ん坊の泣き声、女の囁き、そして最後には「赤ん坊を抱く女」が夢に現れるまでに至った。

前の住人は赤ん坊を連れた母親で、ある日、家財を残したまま忽然と姿を消していた。盗聴器が拾ったのは、果たして生きた人間の気配だったのか。それとも残留した声の断片なのか。真相は誰にも分からない。ただ、犯人はその幻に追いつめられて自首するしかなかった。

彼女は冗談めかして「守護霊なんじゃないの」と言ったが、友人は蒼白な顔で首を振り続けた。しばらく泊まり込んだあと、逃げるように別の部屋へ移り住んだ。その後はまたレースクイーンとして表舞台に立ち、人々の視線を浴びているらしい。表の光と裏の闇の境界線が、どこかでひずんでいる。

そして彼女はもうひとつ、似た話を持っていた。十年以上前の同僚が、新居へ移ってすぐに無言電話と不審な手紙に悩まされた。業者を呼んで調べた結果、寝室や浴室のコンセントから盗聴器が見つかったのだ。設置したのは不動産屋の担当者。彼女を監視するために部屋をあてがったと白状した。

けれども供述にはさらに奇妙な一文があった。「毎晩一時半頃、『ただいま……帰ったよ』という男の声が録音されていた」――。住人は女一人。出入りする男の影もない。声はどこから来たのか。

彼女は恐ろしくなってお祓いを受け、やがて良縁を得て結婚した。二児の母となり、幸福な日々を送っている。だが夫が仕事から帰ってきて「ただいまー、帰ったよー」と明るく声をかけるたび、胸の奥で小さな違和感がざわめく。十年前、盗聴記録から聞かされた声にどこか似ている気がしてならないのだ。

温和で誠実な夫の笑顔を見れば、疑念は馬鹿らしくも思える。けれど一度耳に焼き付いた声は、消えない。あの夜な夜な囁かれていた「ただいま……帰ったよ」と同じ声色が、今、家の中を満たしているのだから。

それが偶然の一致なのか、過去と現在を繋ぐ見えない糸なのか、彼女自身にも説明がつかない。ただ、その声を聞くたび、微笑んで返事をしながら、心の底ではひとつの疑問が燻り続けているのだ。

――本当に「帰ってきた」のは、誰なのだろうか。

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