短編 怪談

こけし御殿【ゆっくり朗読】

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こけしの話、もしくは青山(仮名)の話。

549 本当にあった怖い名無し sage 2012/08/15(水) 23:38:16.20 ID:AJ106kq50

俺の地元(糞田舎)の友達で、親の医院をついで産婦人科医になった奴がいる、まあ、仮に青山としておこうか。

青山とは小学校、中学校のころの同級生だった。

勉強が出来たし悪い奴ではなかったがちょっと変わった奴で、なんというか、天然系で男のくせにオカルト大好きな奴で、俺含めて男子の奴らからはちょっと浮いている存在だった。

中学二年くらいの有る日の放課後、教室でだべっていた俺と数人のクラスメートに、そのオカルト大好きの青山が話しかけてきた。

青山「なあ、お前らよ、こけしって何でこけしっていうか知ってるか? この名前の由来はな、昔飢饉の時とかに口減らしで生まれたばっかりの子供を口減らしで殺して、その慰霊のために作られた像なんだぜ。つまり子供を消して子消しってわけだな。」

まあ、いわゆるお馴染みの「こけし=子消し」説の話を俺らに振ってきた。

ネット上で今では完全にガセだと広がってきたけど、当時の俺らはそんなことは知らないし、何気に地元の特産の工芸品でも有ったので、俺らは、「へー」と頷いて聞いていた。

青山「でさ、俺の家って産婦人科やってるだろ? だからうちで赤ん坊を一人堕胎するたびに一体ずつこけしを作って貰って奉ってあるんだぜ。もうそろそろその部屋から溢れるくらいの数になるけどな。」

その話を聞いて俺は思わずその様子を想像して身震いしてしまったが、他の奴らが面白がって見て見たいというので青山の家にこけしを見に行く事になった。

青山の家は医院部分と居住部分に分かれているのだが、居住部分の内の一部屋がこけしを奉ってる部屋で、その部屋はまさにこけしに埋め尽くされていた。

俺の記憶では、八畳ほどの広さにこけしの数は二百以上は有ったと思う。

最初は面白がっていたクラスメートとかも、その光景にどん引きしていた。

しかし、それを尻目に青山は「あ、このこけしはD組のXXXさんが、去年の夏休みに子供降ろしたときに作ったやつだぜ」とか嬉々として説明していた。

俺らは、大人しく青山の話を聞いた後帰宅した。

その後俺は中学を卒業し、高校、大学を出て、地元から離れて県庁所在地の有る市で就職した。

社会人になって十数年たった頃、遊びで未成年の女の子を孕ませてしまった。

俺にも相手にも産む気はなかったので、俺たちは相手の親にばれる前に堕胎しようということになった。

しかし、近場の産婦人科だと知り合いに見られるかもしれない、そこで俺の頭に浮かんだのは青山の実家の産婦人科だった。

幸い俺の実家も地元から引っ越しているし、今でも友達づきあいしてる奴はそこに残っていない、それにあそこは青山が跡をついで医院長をやっているはずだ。

俺は古いアドレス帳を調べて青山に連絡を付けてから、その次の休日に相手の女の子を連れて、青山の実家の産婦人科へ向かった。

しかしなんとなく、年下の女の子を連れて産婦人科の扉をくぐるのを他人に見られたく無かった俺は、近くまで来た所で、青山に電話をして居住部分から、中に入れてもらうことにした。

青山の家に着いた。

中学の頃来た時には感じなかったが、酷く陰気な雰囲気を醸し出していた。

これから自分の子供を殺すというおれ自身の気持ちが、そう感じさせたのかも知れないが。

青山に招き入れられ家に入ると、玄関から廊下に無数のこけしが見えた。

俺が、「このこけし・・・」と思わずつぶやくと、

青山は「ああ!繁盛してるお陰でこんなに増えちゃったよ。どこの部屋にも入りきらずにこの有様さ、そろそろ部屋を増築しないとなー。」

連れの女の子は夥しい数のこけしと、青山に怯えていたが何とか宥めてそのまま処置してもらった。

ちなみに、青山の病院で処置してもらったあと、この女の子とは会ってない。

更に数年後、中学の同窓会が地元で開かれることになった、

俺は行く気がなかったが、口の軽い青山がもしかしたら子供を堕胎したことをぺらぺら喋るかもしれないと思い、口止めする意味で参加することにした。

しかし、同窓会に青山は参加していなかった。

まだ地元に残ってる奴に聞くと、一昨年交通事故にあって大怪我をしてから会ってないという事だった。

そしてどうやら産婦人科も閉じたらしい。

翌日も休暇だったので、同窓会の後一晩ビジネスホテルに泊まって、翌日青山の家をたずねることにした。

事故にあったという青山は、意外にも以前と変わらぬ調子で俺を迎えてくれた。

ついでに、家中に溢れてるこけしも相変わらずだった。

ただ一点、青山の両腕が失われているところだけが違っていた。

やはり両腕は事故で失ったらしい。

現在はヘルパーと母親に、身の回りの面倒を見てもらって生活してるらしい。

両腕を失った姿が、まるでこけしみたいだったので俺が青山にそう告げると、青山は少し笑って語りだした。

青山「いつか、こけしって言うのは、間引きされた子供の慰霊のために造られたっていう話しただろ? あれって本当はちがくてさ、口減らしで子供を何人も殺してきた産婆が、罪の意識で自分の両腕を切り落とした姿がモデルらしいぜ。両腕が無くなればもう子供を殺さなくてもすむってな。だからお前の言うとおり俺は、まさにこけし人間なのさ。俺もこの状態じゃ、腹の中の子供を処置できないからね。」

俺「うーん、でもこけしが、子供を消す「子消し」だっていう説自体が、「こけし」っていう名前が定着しだした昭和の中ごろ以降から出てきた、都市伝説みたいなもんだぜ? お前の言う説はどっちもガセだよ、ガセ。」

俺がそういうと青山は一言「そうなのか・・・」といってつまらなさそうにしていた。

俺はお土産に、俺の子供を堕胎した時に作ったこけしを貰って帰った。

それから定期的に、背中におぶったぐちゃぐちゃの肉塊に「お父さん」と呼ばれる夢を観る様になったことと、疲れたときに視界の隅にその肉塊の幻を見るようになった事の他に異常はない。

青山はこの翌年死んだ。

なんか、事故の後遺症らしい。

あの家では青山の母親が、千近いこけしと一緒に今でも住んでいるらしい。

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