今はもう取り壊されたホテルで、バイトしていた時の事
425: 名無しのスコールさん 2008/03/14(金) 11:12:37 ID:+ywhFPhN0
そのホテル、老舗の高級ホテルで、建物は古いが格式は高く、プロ野球チームの常宿でもあった。
俺はルームサービスとして、お客さんの対応をしていた。
まあ、古いホテルと言うのは、必ず何かしらある物で、先輩から色々聞いていたが、幸い怖い思いは殆どした事が無く、いくつか知らされていたヤバイ部屋に行っても、何も怖いと思う事はなかった。
二十二時頃フロントから、お客がわけの分からない事を言ってるから見てきてくれと、連絡が入る。
名簿で調べるとその部屋は、航空会社の利用、すなわちお客はキャビンアテンダント。
部屋は、先輩から知らされていた、ヤバイ部屋の一つ。
ヤバイ部屋というより、CAの部屋と言う事でドキドキしながらノックをすると、裸にバスローブを着たCAがガバッと扉を開け、兎に角入ってお風呂見て!と言う。
違う意味でドキドキしながら部屋に入ると、まるでお風呂の湯気で押される様な、圧迫感を感じた。
どうせゴキブリでも出たのだろうと
風呂場に入ると良い匂いが……いやいや、別に何も問題は無さそうだ。
ゴキも居ないし、何だ?
「洗面台の鏡見て!」
曇っていて気が付かなかったが、良く見ると鏡に十cm位の無数の髪の毛が貼り付いて、思わずうわっと声が出た。
「この部屋嫌な感じがするし部屋換えて欲しい」と言われた。
この状況を見て拒否する事も出来ないので、フロントに電話をして別の部屋を用意させた。
「準備が出来るまで一人じゃ怖いから一緒にいて」と言われ、CAが言うには、業務用で割り当てられる部屋は曰く付きの事が多く、色々怖い思いをしたけど、ここまではっきり変な物が見えたのは始めてだと。
髪の毛以外にも見えた物があるけど、怖がらせるから言えないと。
部屋を移った後の片付けは俺の仕事、風呂場の掃除も俺の仕事。
鏡を見ると髪の毛は増えていたし、ぞっとした。
顔型に曇りが残り、その頭部に髪の毛が付いていたのだ。
それも、三~四人。
目を閉じ、口を大きく開けた、何とも無念そうな、例えれば突然の事故で死ぬ瞬間の様な顔。
俺は腰を抜かしそうになり、掃除もほったらかしにして逃げ出した。
スタッフルームに逃げ帰り暫くすると、またフロントから例のCAに連絡する様に言われ、電話をした。
”本当は黙っているつもりだったけど、どうしても気になったから言うね”
”気が付かなかったみたいだけど、実は鏡には髪の毛の他に5人の顔が写ってて”
”あなたが風呂場に入ったらその5人が一斉にニヤと笑った”
”そしてあなたが風呂場から出てきたらその中の一人だと思う人が付いてきて”
”あなたを上から見下ろしていた”
”今日は塩を身に着けて、出来れば線香の1本でもあげて”
と言いやがった。
泣きそうになった。
(了)
怖い本(5) [ 平山夢明 ]