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中編 カルト宗教

霊感商法(4)【元統一教会信者の独白/ゆっくり朗読】n+#2715-1220

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それまで、天水先生に対して「サエないせーんせ」などと侮っていたぼくだが

今はもっともっと話を聞きたい気分になっている。…不思議だ。

「それから…お武家さんというとですね、大奥などを代表として、女性関係が大変乱れていますよね。ですから、そこには女性特有の嫉妬や恨みやが渦巻いているのです。いうなれば愛の恨みですよね。このような因縁を色情因縁というのです。
ところで、たつさんの家系には淋しい思いをして亡くなった女性の恨みの念が出ていますね。男からもて遊ばれて捨てられたとか、夫の浮気で離縁したとか…ですね。また、たつ家の男性も、妾をつくったとか、不倫をしたとか、女遊びをしたとか…そういう家系ですよね。こういう女性の恨みのある血統だと、女系になりやすいんですよ。あるいは、男性の運勢が弱くなるとか、反面、女性が強くなるという結果が現れたりするんですよね」

ぼくはそのことを聞いて青くなった。
「先生!たつ家は、じいちゃんと、とうちゃん、二代続けて婿養子に迎えたんすよ。ぜんぜん、そ、その、じょ女系という家系すっよ!」
「ふむ、やっぱりそうですか…」
と、天水先生。眉間に皺を寄せて難しそうな顔をしている。

「それで、妹が二人いるんすけど、とっても気ぃ強いんすよね…」
あたっているだけに、怖い。じゃあぼくが結婚しても生まれる子供は女の子ばかりなんだろうか。かわいくていいけど、嫁にいったら老夫婦が二人っきりでさびしいだろうなあ。あーいやだないやだな。

「絶家の家系ともいいますよね。男の子が生まれないか、生まれても夭折したり病弱だったりするんですよね」
淡々と天水先生が語る。なにかこう、だんだんえらく見えてきた。キリスト様お釈迦様のようにすがりたくもなってきた。

「霊界は大きく三層に分かれています。一番上が天界といって、義人聖人クラスのイエスキリストやお釈迦さまがおられます。その下が中間霊界、良心家がいくといころなんです。そして一番下が地獄。この世で罪を犯した人がいくのです。
霊界の位置というのは実は自分で決めるんですね。天界はまばゆい光に満ちていて美しくいい香りが漂っています。地獄には閻魔大王はいませんが、暗く寒く異臭がします。皆貪り合っているんです。
たとえばエゴ丸出しで生きてきた人の魂はどす黒く、腐っています。そういう人が、世のため人のために生きてきて輝いている魂のが集まるところにはいづらいのです。場違いなんです。それで、自然と類は友を呼ぶというように、同じような魂が集まってしまうのです。たつさんは死んだらどの霊界にいくと思いますか?」

「んー、そーっすね、ぼくは深夜の交差点で車が通ってなくても、信号が赤だったらキチンと青になるまで待ってるし、40キロ制限道路ならチキンと40キロ速度を守ってますから、世のため人のためになることはしてなくても、人様に迷惑はかけてないんで、中間霊界ってとこすかね?」

ぼくは別に、罪なんて犯していないから、中間霊界にでもいくんだろろうなぁ、などと漠然と思っていたのだ。しかし、天水先生の次の言葉でまたまた青くなった。

「そうですか、中間霊界ですか。でもですね、たつさん。天法といわれる天の法律では色情の罪が一番重いのです。殺人や泥棒よりも罪が重いのです。不純異性交友、いわゆる桃色遊戯ですが、これは完全にひっかかります。また、フリーセックスや不倫などは相当罪が重いのです。実際、肉体関係を結ばなくても淫らな事を思っても罪になります。
聖書のマタイ書には『情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである』と書いてあります。また『もしあなたの右目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい』とも書いてあります。それくらい色情の罪は思いのです。どうですかたつさん、今まで地獄にいくような罪は犯していませんか」

ひぇー、そんなぁ…頭の中はいつもアチラの妄想で一杯だというのに、これじゃぁ中学時代の同級生はみんな地獄だぞ。

「先生、ぼくはやっぱり地獄っす。ということはご先祖様はみんな地獄なんすか」

「名前に現れた凶数と因縁線をみると、殆どそうですね。ご先祖さまは地獄で苦しんでおられます。もし、生きている間に何が罪なのか知っていれば罪は犯さなかったですよね。でもご先祖さまは知らなかったんです。ですからこんなはずじゃなかったと、地獄で苦しみもがいておられるのです。救いを求めておられるのです。もし、ここで悪因縁を断ち切らないとたつさんの後孫にも影響が出てきますよ」

「先生!んじゃあどうしたらいいんすか」

「それはですね、お守りを持てばいいんです。因縁が雨のように降り注いでいるわけですから、たとえて言えば雨の時に傘をさすように、それを除ける傘のような役目をするお守りを持つ事が必要なんです。三つの代表的な相、三大相というのを知ってますか」

「いいえ…」

「三大相というのは、墓相、家相、印相のことです。お墓の石が欠けたりすると良くないとか、鬼門の方角に便所をつくるのはいけないとか言われますよね。墓相にも家相にも印相にも吉相と凶相があります。良い相は幸せを呼びますが悪い相は不幸を呼び寄せますし、魔に入られてしまうのです。
墓相というのはお墓の向きや形で、氏族を守るものです。家相は間取りのバランスや方角を見ます。表札もそうです。これは家族を守るものです。
印相は個人を守るものですが、名は体を表すというように、自分自身の名前を彫り込んだ印鑑のことです。しかし、いくらお金があるからといって、個人の守りである印相をおろそかにして立派なお墓を作ったり、立派な御殿をつくったりしたらかえってよくないのです。
物事には順序があります。個人の土台をしっかり作ってこそ家族の幸福がありますし、氏族の幸せがあるのです。ですからまず個人の相、印相をよくする事が大事なのです」

「じゃあ、ハンコをつくればいいんすか」

「いえ、ただ単にハンコをつくったからといってよくなるのではありません。私がお勧めするのは"天運守護印"といいまして、私どもの大先生が断食や水行をしながら祈りを込めて彫ってくださるお守りの印鑑なんです。
たつさんの画数、ホラこの画数は凶数ですよね、ここから魔が入ってくるので、この画数を特に運勢を強めて彫るのです。例えば木という漢字は4画で凶数ですが、このように印鑑独特の書体の印相体で彫ると3画になって吉数になるんです。
凶数を吉数に変えて祈りを込めながら彫っていくんですね。ですから大先生が40日40夜、断食や水行と祈とうをされながら彫られるので時間もかかりますし、真心のこもった浄財も必要です」

「俗にいう、魂がこもってるってヤツっすか。でも、ぼくハンコもってるっすよ」

「そうですか、では印相鑑定してあげましょう。ちなみに凶相印というのはですね、小判型つまり楕円ですね、そして色が黒い、めくら判といって腹のところに欠き込みがあるもの、長さが60ミリ以下のものなどです。ちょっと見せてもらえますか」

「…はい、これ中学の卒業式のときもらったヤツなんすけど」
と、手渡したときに、またまたまた青くなった。

「たつさん…これ、凶相印そのまんまですよ」

「しぇー!ありゃー、こんなの持ってたから運勢よくなかったんすね。先生、それじゃ一本いいのつくってください」

「たつさん、その気持ちはわかりますが、"天運守護印"は一本ではだめなんです。それを説明する前に吉相印の条件についてお話します。まず、印面は正円でなければなりません。何故かというと印面は人生と宇宙を表していて、八方位に対応しています。例えば印面右上は金運を表しています。この所が欠けてる人はお金が貯まらないとか、流れてしまったりといったようなことがおきます。
次に最低三本は必要です。実用的にいえば、実印、銀行印、認印ということですが、三本ということに意味があります。宇宙森羅万象は三数(さんすう)でなりたっています。例えば、固体、液体、気体の三相とか色や光の三原色とか三度目の正直とか…ですね。また、ものを支えるには最低三点必要ですね。二点ではグラグラしますが三点で安定しますよね。
で、それぞれ彫り方があって、例えば銀行印は財が流れるのを防ぐ意味で横書で彫ります。次に長さですが、最低60ミリ必要です。還暦というものがあるように人生60年を1サイクルとして宇宙の法則は成り立っていますから最低60ミリは必要なのです。75ミリや90ミリというのもあります。おじいさんの印鑑を譲りうけて彫り直した短い印鑑とか、もともと短いものは短命相というんです。そして、材質は象牙が一番いいんです。象はお釈迦様がお乗りになった神聖な動物といわれています。神仏とご縁を持つ為にも象牙がいいんです」

「はぁー、それじゃ三本セットでいくらくらいするもんなんすか」

「いろいろな種類がありますけど、その人によって違います。たつさんの場合、特に色情の因縁が強いので因縁消滅の祈願をして先生に彫っていただくことになります。たつせいぞうさんの総画数は27ですから、27数以上のものを授かられたらいいですね」

「しぇーっ、そんなするもんすか」

「たつさん、私も授かったんですよ。授かられたらいいですね」

今まで黙っていた、ていうか少しコックリコックリしていた彼女が急にフォローしだした。口と目を半眼にしながらも、時折、眠気を振り払うように天水先生の話にやけに大きな相づちを打っていた彼女だった。が、今こそ私の出番!とばかりに目を輝かせて話し出したのだ。パンフレットをめくりながら

「この福寿印のセットは30万円ですよね、あ、この天慶印は40万円ですよ。たつさんは天慶印なんかいいじゃないですか。40というのは魔を切る数なんですよ。この天宝印は75ミリでとっても立派なんですよ。100万円の多宝印は90ミリで胴の部分に多宝塔が金で象嵌してあるんです、家宝になりますよ…」
などと、すごい金銭感覚の話をする。

「あ、あ、じゃ、この福寿印でいいっすよ。これお願いします。で、彫ってくれる大先生は今どこにいるんすか」

「杉並区、浜田山の天運観相協会というところにおられまして、日夜修行をされておられるんです。橋本研臣(ハシモトケンシン)先生といわれまして、私は大先生の弟子です」

「あ、そうすか。じゃ、よろしく言ってください」

「たつさん、ではこれに書いてもらえますか」

お壷さまの会場で見たのと同じ契約書が彼女の鞄から出てきた。
「大先生が四十日四十夜、祈りを込めながら彫ってくださいますので、お届けできるのは一ヵ月半後くらいになります。また、特に祈願することがありましたら、この用紙に書いてください」

差し出された"天運祈願用紙"なるものに、ぼくはためらわず「お金が貯まりますように」としっかり書いた。三分の一以上入金しないと、印材を仕入れられないというので頭金として10万円を支払い、残りは明日払うことにした。

契約書の控えをもらって、ふーやれやれ、長い話だったがこれでまたいい買い物をしたぞ、天水先生、田中さん「じゃ、どうもぉー」とお別れの挨拶をしようとしたのだが、なにやらまだ話があるらしい。

「それから、たつさん。大先生が四十日四十夜の御祈祷をされている間、初水行(はつみずぎょう)をしていただきたいんです。この2つのグラスに朝一番の水を汲んで、お壷さまの前において手を合わせるんです」

彼女は鞄から半紙に包まれた小さなグラスを差し出した。どうりで女の人の鞄にしてはデカかったわけだ。さっき見た印材の見本とかいろんなものが次から次と出てくる。

「細かい泡粒がコップにつくことがあるんですけど、これは、御先祖さまが喜ばれているときなんですよ」

「へぇーそうなんすかぁ」

「あ、それから、魔に入られない為に、黙示行(もくしぎょう)をやっていただきたいんです。素晴らしい印鑑を授かったのに、人にこのことを話してしまうとせっかく頂いた"徳"を逃がしてしますのです。誰にも話さないというが黙示行なんです」

「んーと、じゃぼくは初水行と黙示行を四十日間やればいいんすね」

「ええ、そうです。頑張ってください」

「じゃ、どーも」

長い話がやっと終わった。ぼくはとうとう豪華な印鑑を買ってしまった!いや、授からせていただいた。懐は淋しくなったけど、これでやっと運勢が上昇するんだ、するんだ、するんだ!と自分に言い聞かせながら寝床についた。
とうとうぼくは、30万円也の福寿印のセットを買ったってしまった。
んー、なんとも誇らしい気分だ。

これでぼくは因縁罪障消滅されるんだ・・・

つづく……

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