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中編 集落・田舎の怖い話

お茶湯(おちゃとう)【ゆっくり朗読】2900

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今年のお盆、俺のひい婆さんの初盆だったんだ。

いろんな細かい行事がいろいろあって忙しかったんだが、その中に『お茶湯』っていうのがあった。

別に変哲もない湯飲みにお茶を入れて仏壇に供えるんだが、その回数が半端じゃない。

毎日四十九回、盆の三日間で百四十七回も供える。

送っていく日なんか半日しかないんで、間違えないように碁石で数取りしながら大忙しだ。

で、それだけ回数も増えると入れ替えたお茶の量も結構なもので、大きなバケツに一杯になる。

なんでも供えたお茶は普通に捨てたらいけないんだって。

バケツに全部溜めといて、四つ辻の真ん中に捨てに行くの。

念仏を唱えながらぐるっと円を描くようにお茶を捨てて十文字に踏みしめてから帰る。

その捨て役を俺が仰せつかってた訳なんだけど。

最初の二日間はちゃんと捨てた。

ちゃんと四つ辻まで持っていって念仏を唱えながら縦横十文字。

でも三日目、仏さんはもう帰った後だし、暑いし重いし、実を言うと見たいテレビもあったんで、こっそりバケツの中身を門を出たとこの溝に流してしまったんだ。

その翌日。

「誰や、こんな玄関に水こぼして……」とおかんが怒ってた。

その翌日は、「かき氷でもこぼしたんか」とぶつぶつ言いながら廊下拭いてた。

その翌日も、その翌日も……

毎日家の中に水がこぼれていて今日で十日目。

で、おととい気がついたんだけど。

玄関から廊下居間、台所、応接間、階段の下から二段目、五段目……

だんだんこぼれた水が俺の部屋に近づいてるのよ。

これってなんか意味ある?

ちゃんと捨てなかったのに関係あるのかな?

どうしたらいい?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

後日談

あの日、俺は寺から貰ったお下がりの水を廊下において、これで大丈夫かなって思って寝た。

だけど、結局大丈夫じゃなくて、気がつくと俺は縛られてて上から干物みたいな爺さんが覗き込んでた。

「あ、戻った。よかったよかった」

と言われて、縄を解いてもらったけど、ほとんど裸に近い状態で、体にはやけどとか打ち身の跡とかいっぱいついてた。

ぜんぜん知らないところだったし。

ものすごい山の中の寺?道場?みたいなとこ。

前が谷川になってて結構深い。

で、九月半ばになってました。

初めて訊いたときは信じれんかったけど山の中はもう結構寒かった。

俺はあの後何かにとりつかれて暴れまわったらしい。

寺から連絡が行ってすぐここに連れて来られたけどなかなか戻らなくて、オシさんはもう無理かと思ったんだって。

オシさんて言うのは最初に覗き込んでた爺さん。

寺の中にはオシさんとミツさんとヤツさんがいて、俺はヨイチと呼ばれてました。

オシさんはいつもにこにこして優しいけどあんまり詳しいことはおしえてくれない。

ミツさんとヤツさんは俺とはほとんど口を利かないし。

それでいていつも探るような目で見てくるからあんまり気分はよくなかった。

その他にも何人か居るみたいで、トラックで運んできた食料を時々どこかへ運んで行ってる。

一度は姿も見た。

怪我をしたらしくてヤツさんに手当てをしてもらってた。

俺は戻ったから家に帰してくれるのかと思ってたらなかなかそうはいかなかった。

「もうちょっと様子を見さしてな」ってオシさんが言ってた。

普通の憑きものならここへ来るだけでも落ちるはずじゃけど、お前のはしぶとかったからって。

それと家筋の件があるから。

後出しになって悪いけど、俺の家はちょっとそういう家系がかかっているらしいです。

屋号も地元の人が見れば解るのがついてる。

だからここでお盆の作法が『因縁があるんじゃないか』って言われたときは正直びびった。

けど家ではみんなあまり気にしてなくて、死んだひいばあちゃんがちょっとうるさかったくらい。

俺自身もこんなことがあるまで意識したことなかったんだ。

半月くらい様子を見てみると言われたけど、結局その間に俺はまたおかしくなった。

普通に寝て、起きたらまた一週間くらいたってて、新しい傷が増えてた。

後もう一回そういうことがあってしばらくは帰ったらいけないって。

俺もおとなしくしていたわけじゃないです。

だって普通こんなん信じられんだろ。

家に連絡も取れない。

昼間は自由にしていいって言われて手伝いみたいなこともするけど、寝るときは足ぎっちり縛られるし。

ものすごく中二的な妄想全開で、薬盛られてんじゃないか~とか秘密組織が~とか、一度は脱走もした。

トラックの通る道を谷川に沿って下っていけば人里に出るだろうと思って逃げたけど、2キロくらい下ったとこで道が山の中で迷路みたいになっててわけがわからなくなった。

山の日暮れってめちゃくちゃ怖いな。

半泣きになってたらミツさんが俺をみつけてくれた。

遠くから様子を伺って俺がまともな状態だとわかるとそばに来て連れて帰ってくれた。

「夜は出歩くな」

「迷い込むといろんなもんが居るから危ない」

とか怒られて、なんかいろいろ落ち込んでしまって、夜になると布団の中でべそべそ泣いてばかりいました。

そしたら十日くらい前。

いつものように布団をかぶってうとうとしていたら、なんかどわっと布団の中が生臭くなって金縛りになった。

足元からぐわ~っと、蛇に巻き疲れるのってあんな感じかな、ものすごく気持ちの悪い嫌な感じ……うまく言えない。

体中のさぶいぼが逆立ってからだのなかでにゅるにゅる……みたいな……

ごめん、表現力なくて。

んで手足がひとりでに動くんだわ。いやひとりでにじゃないな。

夢の中で動く時みたいなの。

痛さとか感覚とか全然ないんだけど、そこらじゅうにあるものを全部めちゃくちゃにしたいってことだけはわかる。

もう片っ端からクラッシュクラッシュ。すごく気持ちよくて。

駆けつけてきたミツさんとヤツさんもクラッシュ。

ひとごとみたいにあ~だから嫌われてたんだ~とか思った。

でもほんとに現実感がない。

それからオシさんにのしかかって、首絞めたときにはじめてあ、これはいかんと思って。

でもどうにもできなくて、あせってたら、それまで飄々としてたオシさんがちょっとびっくりした顔をして俺を見た。

それからまた記憶がないです。

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次に目が覚めたとき、オシさんに呼ばれた。

「お前目覚ましとったな」って言われた。

俺についてるものがしつこいのかと思ってたけど違うかもしれんって。

もともとそういう家筋のところに一度『迎え入れて』しまったものだから、俺はもう『門が開いてる』状態なのかもしれんって。

なんなのそれ。

もしそうなら俺は『山』に入った方がいいかもしれないそうです。

『山』にはそういう行をしている人たちが居て、そこでちゃんと行を積んで心を強くすれば悪いものに憑かれることがなくなる。

そしたらいつかジンカンに戻れるかもしれんって。

※今なにげなしに変換したら『人間』って出てびっくりした。ジンカンってそういう意味なんだろうか……

とにかく一度家に帰って相談して来いと言われて、今日帰ってきた。

帰る途中、『門が開く』って言う言葉の意味が解った。

少しでも道を覚えとこうと思って最初は外を必死で見てたんだけど、人家が見え始めたころからへんなものばかり見える。

交差点に近づくたびに気分が悪くなって、結局目をつぶってよこになるしかなかった。

送ってくれたのはミツさんとヤツさんと、それから『山』の人がひとり。

悪寒がするごとにその人がさすってくれたからありがたかった。

家に帰ったらおかんとばあちゃんに泣かれた。

ばあちゃんがすごくやつれてて「私がちゃんと教えんかったからじゃ、ごめん、ごめん」と謝ってかわいそうだった。

ばあちゃんのせいじゃない。

お寺の和尚さんが来てて、土下座されたのはびっくりしたけど、すぐミツさんが連れて行った。

山の人ににらまれて縮み上がってたけど、あんまり怒られないといいな。

風呂に入ってご飯を食べてから、俺がおかしくなったときの話を聞いた。

最初に姉ちゃんが廊下でぴちゃぴちゃ音がしてるのに気がついたんだと。

ドアを開けたら俺がうずくまって犬みたいに水を飲んでてびっくりして悲鳴を上げたら暴れだしたんだと。

ちょうど盆休みで兄ちゃんも父さんも居たからなんとか総がかりで取り押さえて、救急車か警察かと言うところで、ばあちゃんが俺が言ってた話を思い出して、あわてて和尚さんを呼んだ。

でもとても手に負えんというので、寺からあそこに知らせがいったみたいだ。

みんなでしゃべってるときは笑い話みたいだったけど、俺が覚えてる時みたいな暴れ方だったのなら相当ひどかったんだろうと思う。

冗談交じりに父さんが見せてくれた腕にはまだ傷があったし。

食べ終えてからわざわざ帰ってきてくれてた兄ちゃんと、父さんと話をした。

「俺はそういうオカルトみたいなことは信じてない」って兄ちゃんは言った。

このひと理系だからね。

「けど今度俺や父さんがおらん時にああなったら、笑い事じゃすまんと思う。お前には悪いけど、病院なり、ほかの施設なり、管理のしっかりしたとこに行ったほうがいい」

父さんは、

「このごろはええ薬ができてるらしいから、どっちにしても病院に一度行ってみたらどうか」

って言った。

今、これ書きながら考えてる。

俺の状態は一般的な見方をすれば『発狂した』ってことなんだろう。

俺が見えたと思ったものや、あの金縛りの感覚ももしかしたら全部病気のための妄想で、薬とかで抑えることができるのかもしれない。

このままここで暮らして、前のように学校に行ったり、友達と遊んだり普通に暮らしていけるのかもしれない。

だけど車の中で山の人にさすってもらったら楽になって息ができた。

山から降りた途端に気分が最悪になった。

これは妄想や思い込みではない、と思う。

友達からのメッセージもチェックした。

俺は病気で入院してることになってるけど、中学が同じで家のことを知ってるやつはうすうす感づいてるみたいだ。

近所ではだいぶ噂になってるらしいし。

担任からはすごい勢いの勘違いメールが来てて笑えた。

相談しろって……何をどう相談すんの。

正直に言う。

俺帰ったら、父さんを拝み倒してでも山には戻らないって思ってた。

でも何とかしてここにいられるようにしようと考えてくれてる父さんや、引き気味の近所の友達のこと、それからあの金縛りのときのことを考えると、俺がここに居たらあんまりいいことにはならないと思う。

俺は山に入ったほうがいいんだろう。

少なくとも家族にこれ以上迷惑をかけちゃだめだ。

もう余り時間がない。

おかんたちはしばらく俺が居るものと思ってるけど、本当は出る前に昨日と今日、日がいいのはこの二日だけだと言われている。

今日の日没までに昨日泊まった寺まで戻らないといけない。

これを書き終えたら父さんと兄ちゃんともう一度話しをする。

ばあちゃんや母さんや姉ちゃんはだめだ。

俺が泣く……

(了)

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