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中編 カルト宗教

霊感商法(1)【元統一教会信者の独白/ゆっくり朗読】n+#3019-1220

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「とぐに、ワリイ女さ気ぃつけろよ」

しぇんしぇが言ったことはホントだった・・・
昭和54年秋、ぼくは足立区の江北橋近くで突貫工事をやっていた。3時の休憩にハコバン(プレハブの仮設小屋)で、エバラギから来ている人夫のおばちゃんたちと、スルメや漬物なぞを食べていた時の事であった。

「こんにちわー、健康管理センターから来ました田中でーす」
黒い大きなバッグを肩に掛けた女の子がいきなり入ってきた。年の頃22-3歳、目のクリックリッとした清楚で可愛らしい感じの女の子だった。だいたいこんなところに尋ねてくる奴は、おふだを押し売りする『やくざモン』くらいのものだから、彼女の訪問はとても新鮮に感じたのを覚えている。

初め、鈴木先輩のそばに行っていろいろ話しかけていたが、ハナから無視していたので、こんどは矛先がこっちに向いてきた。目が合うとスーっとこっちに寄ってきて、
「あのーぉ、健康に関心はありますか?」
「は、はい。関心あり、あ、ありますけど・・・」
「今日は健康についていろいろお話をさせてもらっているのですが、今どこか体
の具合悪いところ、ありますか?」
「いや、特に、ないっす・・・」
「でも少し顔色悪いようですね、肝臓なんかが弱っているのではないですか?」
などとやさしく声を掛けてきた。その日は少々風邪気味だったので顔色が悪かったのはたしかだ。そりゃあ、毎日コップ酒だもの、肝臓も悪くなってるだろーよ。そういえば、最近少し手が震える。

とにかく、彼女の一言がきっかけになって、あらためて自分の健康について考えてみようと思ったのは確かだ。
曰く、濁ってドロドロヘドロ状態の血液が病気の原因である。そうなった場合は体質改善をしなければならない。具体的には酸性体質をアルカリ性体質に改善する。その為には食事療法が一番いい。だが、なかなか面倒だ。だから、朝鮮人参がいい・・・みたいな話を延々と聞かされた。要は朝鮮人参は体にいいよっ、てことだろう。わかったようなわからないような。でも、まいっか、って感じ。

一通り健康に関する話を聞かされたあと、彼女はおもむろに黒いビンを取り出して言うのだった。
「これは一和の高麗人参濃縮エキスです。毎日お湯に溶かしてお茶代わりに飲めば万病を予防できます。そして、とっても健康になるんですよ」
しらんぷりして、しっかり聞いていたエバラギのおばちゃんがツッコミを入れた。
「あっちもビンビンになんだんべよー、あっはっはははー」

はじめは、自分の健康のためだけに買おうと思っていたのだが、ふと田舎のばあちゃんにでも買ってあげようかなぁ(今考えても不思議なのだが)という思いがわいてきた。これはいわゆるひとつの『ばあちゃん孝行』とでもいうのだろうか。で、6万円の大枚をはたいて、ばあちゃんのために一個買うことにした。これで一ヵ月の労賃の半分が消えた。___でも普通、親孝行しようと思うよなぁ。結局、面倒くさくなってばあちゃんには贈らずじまい。ナイトキャップがわりにウイスキーに溶かしてガバガバ飲んだりしたものだ。

そうこうしているうちに、突然ばあちゃんが亡くなったとの訃報が入った。はじめて人の死に直面したぼくは、あらゆる意味で複雑な心境になって落ち込んでしまった。
おととしの盆休み、村で成人式をするというので久しぶりに帰郷したおり、ばあちゃんに一万円の小遣いをあげたことがある。
ばあちゃんがいつも寝ているふとんの下から、和紙に包まれた一万円札が出てきたそうだ。その紙には「せいぞう、ありがとう」と書いてあったと聞いて、思わず涙が出てしまった。

人間の命ってはかないな。何のために生まれてきたのかな。人生の目的ってなんだろう。死んだらどうなるのかな。あの世ってあるのかなあ・・・
それ以来ぼくは、人生というものを深く考えるようになり、がらにもなく哲学するドカタになってしまったのである。
今日も、西川口(フーゾク)に行く先輩を横目で見ては「世界は一家、人類は皆兄弟姉妹。先輩とぼくは○×兄弟」と、悟ったとか思えば毎日毎日おなじことの繰り返しに「ぼくは食うために生きてるのか、生きるために食ってるのか」などと悩んでみたりしたものだ。

しばらく経ったある日の事

例の朝鮮人参売りの彼女から電話があった。なんでもお客様にアンケートをとっているのだという。その後の体調はどうだとかこ
うだとか、ひとしきり商品と健康に関する質問を終えたあと、突然、異質な質問をしてきた。

「運勢や占いに興味ありますか?」
「はあ、よく雑誌の占い欄をみてますけど・・・」
「そうですかぁー」
「人生の目的や死後の世界について、関心はありますか?」
「うん、すごく関心あるっすよぉ」
「へぇーそうなんですかぁー」
こころなしか彼女の声が明るくなったように思えた。
「霊界ってあると思いますか?」
「んー、あるんじゃないすかねぇ」
会社の関連で、韓国から有名な霊能者の先生が来ているので、顧客サービスの一環として特別に占ってくれるらしい。ただで占ってくれるなら、と軽い感じで申込んでみた。

次の日、早速、彼女から電話が入った。

「たつさん。先生に顧客カードをお見せしたら、しばらく黙って、じーっと見ているんですよね。どうかしたのかな、と思っていると『この人は今、転換期ですね』とおっしゃるんですよ・・・なんだか、すごい転換期みたいですよぉ」
「ほお、人生の節目ってことなんすかねぇ。実は、ぼくもそう思っていたんすよ。いったいどんな転換期なんすかねえ」
「それは、プライベートなことなんで、直接本人にしかお話できないそうです」
「あ、そうすか、じゃ是非お話聞かせてくださいと先生に伝えてください」
「わかりました。先生は今、大理石の壷の展示即売会の会場におられますので、私が案内します。それじゃあ、今度の木曜日夕方7時はどうですか?」
「あ、いいっすよ。お願いします」
「そのお壷さまは『幸福の壷』と呼ばれていて、授かった人がとても幸せになる壷なんですよ。たつさんも是非見てくださいね」
「あ、それから先生が印鑑の相も見てくださるそうですから、今使っている印鑑も持ってきてくださいね」
子宝じゃあるまいし、授かるとはなんとも不思議な表現だが、その時はそれだけアリガタイお壷さまなのだろう。と、単純に思っていた。

当日、山の手線大塚駅で待ち合わせをしてタクシーに乗り、会場までお導きをうけた。

「たつさん。働いて何年になるんですかぁ」
「休みもとれないんじゃ、疲れがたまりますよね」
「でも、お金は貯まりますよねぇ(笑)」
「ホントお仕事大変なんですね」
車中であれこれ世間話などを交わしているうちに会場に近づいてきた。
「今、貯金はおいくらくらいあるんですかぁ」
「親方んとこに通帳預けてあるんで、はっきりわかんないんすけど、100万くらいかなぁ」
(この時、しっかり財産の把握をされていたことも知らないで・・・)

会場について来場者名簿に記帳したあと、ビデオのある部屋に通された。巫女さんのような格好をした人がお壷さまの説明をしてくれた。このお壷さまは韓国にある霊山の大理石で出来ていて、大変霊験あらたかなものであるらしい。有名人もこのお壷さまを授かっているらしく、大山倍達総帥や古賀政男先生がお壷さまと写っているパンフレットも見せられた。

次に「しあわせのお壷さま」とかいうビデオを見せられた。壷にイエスキリストが現われただの、病気が治っただの、急に金回りがよくなっただの、独身の息子に嫁が来ただの、お壷さまのおかげで、こーんなにいいことがありましたという奇跡の体験談が次から次へと語られる。いいことづくめで、このお壷さまさえ手に入れれば世の中恐いものは何にもないんですぞ、とでもいいたげな内容だった。出された寿司をほお張りながら、2-3万円もするのかなあ、などとお壷さまの値段にあれこれ思いを巡らしていた。

さて、霊場といわれる部屋に通され先生を待つことになった。

現れたのは40代とおぼしき女の先生、おだやかな口調で話をはじめた。
親や兄弟、おじ、おば、祖父母の事をあれこれ聞かれ、知っている範囲で答えていきながら簡単な家系図を書いた。さあ、これを元にいよいよ『霊感トーク』が始まるのである。

トークの内容は実にシンプルなもので、要約すると次のようになる。
あなたの家系には殺生因縁、色情因縁、財の因縁がある。武家の血を引いているので特にひどい。その因縁ゆえに先祖は地獄にいる。地獄で苦しんでいる先祖があなたに救いを求めている。因縁から解放するためには出家をしなければならない。というものであった。

「たつさん。出家はできますか?」
と尋ねるので
「はい、先祖が救われるなら、出家でも家出でもします」
と答えたら、驚いたような顔をして、ぼくを見つめた。ぼくは、先祖が救われるなら家を出る!といってるちうに、
「でも、罪(ざい)は財(ざい)で清めることができるんですよ。神社の賽銭箱に浄財と書いてありますよね。あれは、ざいはざいで清めるという意味なんですよ」
などと少々ピントのズレた話になってきた。

「じゃあ、お金を出せば解決するんすか?」
「いえ、お金で罪を消すというのではありません。出家のような覚悟で財を天に捧げるということが大切なのです」
「はあ・・・」
「たつさん。あなたは身を切るような思いで天に財を捧げることはできますか」
「はあ…出家よりは楽っすから」
「その決意を天が認められたら、天は霊石を授けてくださるでしょう。でも、な
かには授けられない人もいるんです」
いつのまにか横に座っていた朝鮮人参売りの彼女が言った。
「授かるといいですね。私も先生から授けていただいたんですよ」
「はあ・・・」
「先生!是非たつさんに霊石を授けてくださいっ!わたし、断食でも水垢離(みずごり)でもなんでもしますから、どうか授けてください!!先生!お救いください!先生、どうか御願いしますぅー!うう・・・」
絶叫状態に、たっちゃん、しばし唖然。

なんと大袈裟な、涙まで流して先生に御願いしてくれるとは・・・
もしかしたら、先生。出家の代わりに幸せのお壷さま、霊石をはじめから勧めるつもりだったのでは?
先生ってばホントにもう、みずくさいんだからぁ。回りくどく言わないで、最初から言ってよ、って感じ。
「では、祈ってきますので、黙とうして待っててください」
先生退場。ぼくは片目をあけて、彼女の方に目をやる。何やらぶつぶつ祈っている。

・・・先生再入場。先生がお座布団にお座りになられるまで、彼女は大名行列の時の百姓のようにへへぇー状態。ぼくもつられて、へへぇー。
「たつさん。よかったですね。授かることができましたよ。天は120と210の数字を示してくださいました」
「へ?」
「たつさん!ホントによかったですねぇ。先生ありがとうございます!!」
ぼくは特別嬉しくもなんともないが、彼女はホントに喜んでいる、ように見えた。
「たつさん。120数(すう)と210数(すう)、どちらを選びますか?」
「????」
「120万円の浄財と210万円の浄財、どちらを選びますか?」
どうやら、120万のお壷さまと210万のお壷さまとどちらを買いますか?ということらしい。
「・・・じゃ、120とゆーことでお願いします」

しばらくすると、先生のお付きの人がお盆になにやら載せてすーっと入ってきた。襖の陰に待機してたような絶妙のタイミングだ。
「たつさん、それではここにあなたの住所と名前を書いてください、印鑑はここに押してください」
よく見るとそれは、契約書だった。それには
販売店:株式会社 世界のしあわせ
代理店:日本パナックス
などと名前が書いてあった。いまにして思えば、『世界しあわせ』とは霊感商法の先祖みたいな会社である。して、日本パナックスとは、他でもない朝鮮人参売りの彼女の会社なのであった。

つづく……
■次話 ⇒ 霊感商法(2)
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