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中編 カルト宗教

霊感商法(2)【元統一教会信者の独白/ゆっくり朗読】n+#1841-1220

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気がつくと日付が変わっていた。

ぼくは、桐の箱に入れたお壷さまを抱えながら、車で寮まで送ってもらうことにした。
寮に着いてさっそく折りたたみテーブルの上に台座を敷き、その上にお壷さまを置いてみた。一緒についてきた彼女が言う
「たつさん、よかったですね。ご先祖さまも喜ばれていますよ」
「この布で、このように円を描くように、毎日40回づつ思いを込めて磨かれるといいんですよ」
「へぇそうなんすか、なんかいいことあるんすかねぇ」
「ええ、ご先祖さまが守ってくださるので、運がどんどんよくなってくるんですよ」

彼女の話が続くなか、ぼくはある一つのことに思いをはせていた。彼女が言ってることなんか、もう聞いちゃいない。思いをどんどん膨らませていくうちに自然と顔がほころんでくるのが自分でもわかる。んふふふふ・・・
「・・・たつさん、たつさーん」
「は?」
「ご浄財のことなんですが、いつ奉納されますか」
「あ、そ、そうっすね。じゃとりあえず、明日用意しますんで取りに来てください」

ぼくは、それどころではなかった。今度の日曜日が楽しみで楽しみで、それどころではなかったのだ。さあ、どう料理してくれよう。一点買いにしようか、流しにしようか、んー迷うなぁ・・・でへへへ。

彼女が帰ったあと、お壷さまを40回、いや300回以上は撫で回しただろうか。ぼくは、満ち足りた気分で深い眠りについた。朝鮮人参エキスの焼酎割りが、ことさらうまく感じたことはいうまでもない。

翌日の昼休み

預けておいた通帳をとりにスーパーカブでひとっ走り、親方の自宅へ向かった。
奥さんが、なんでおろしちゃうの?と聞くので、とっさに
「ばあちゃんの仏壇買うんすよ」
と、うまい方便が出てきた。壺買うと言わなかったところがまた大人だな、などとと自己満足にひたっていた。(あとで自分からバラシてしまったが)
通帳を見てみると、なんと!ぴったり120万円+利息が入っていた。やはりこの日の為に用意されていたんだ、と思うと感動と驚きで鳥肌が立った。こういうのを『導かれた』というのだろうと思った。

成和信用金庫の窓口で
「全部おろしたいんすけど」
と申し出ると、通帳を見ながらおろす理由をあれやこれや聞かれた。自分のカネなのにいちいち理由をいわなければならないのには少々むっとしたが、これも決まりなんだろうと思って素直にこたえることにした。
「高級美術品を買うんすよ」
「絵画かなにかですか?」
「いや、大理石の壺っす」
「つ、ぼ、ですか」
「はい」

窓口の人はけげんそうな顔をしながらも、少々お待ちくださいといって手続きをしてくれた。冷静になって考えてみると有名な画家の絵ならともかく、美術工芸品の大理石壺で100万円以上もするものはそうざらにあるものではない。一般的な常識では骨董品か人間国宝が作ったものだろう。ましてや土とコンクリでうす汚れた作業着を着て、くるくるパーマで不精ひげの20代のあんちゃんの趣味としては少々不似合いである。

まあ、そんなことはどうでもいい。めでたく預金を全額おろすことができたのだ。これで浄財ができる、罪(ざい)を財(ざい)で浄(きよ)めてもらえる。いろんな奇跡がおこる、幸せになれる、浄財したお金もすぐに何かのカタチで戻ってくるそうだし、願いもかなえられるし。そう思うとうれしさがこみ上げてきた。

夜、朝鮮人参エキスの焼酎割をチビチビやっていると、彼女が浄財を預かりに来た。しゅっしゅしゅぱしゅぱしゅぱっ、ぱちん!まるで銀行員のような手さばきでお札を数えている。ぼくにはそういう芸当はまったくできないからおもわずみとれてしまった。ばあちゃんの葬式で、香典を数えるとき初めて左の小指と薬指と中指でお札をはさんで数えるやりかたを試してみた。が、もたついてうまくいかなかった。それ以来、ぼくのお札の数え方は『トランプを配る方式』に決定したのだった。
「・・・ひゃくじゅうはち、ひゃくじゅうく、ひゃくにじゅう」

待ちに待った日曜日がやってきた。

サンデーハズカムである。うきうきした気分で、竹ノ塚から東武線で浅草駅へ向かった。
目指すは、そう、浅草場外馬券場である。さあ、どこからでもかかってきなさい!って感じ。
昨日の夜は、お壷さまにばっちし祈ったし、400回も磨いたからなー、もう恐いものなしなのだ。
で、全レースにトータル10万を突っ込んでみた。今までは、多くて1万円くらいだったのに、今日は10倍の投資だ。迷いもなく10万円分の馬券を買い込んだあと、ぼくは意気揚々と鼻歌なぞを歌いながら寮に帰ってきたのだった。
______Wish on a TUBO!

ぼくは、もういとおしいお壷さまの口に馬券を突っ込んで一心不乱に拝んだ。
あとはテレホンサービスでレース結果を確認するだけである。

ところが、ところがである!ものの見事にハズレていたのである。拝みかたが悪かったわけでもあるまいし、磨き方が足りなかったわけでもあるまい。なんでそうなるの?んー、なぜじゃなぜじゃー!?んーわからんわからん。
悩みながら、ふとお壷さまの方へ目をやると"製造番号00385"とか書いてあるシールが目に止まった。

「ふーん、ぼくって全国で385番目の果報者なんだぁ」
「フフッ、このシールがお壷さまのパワーに封印をしてるんだな!」
などと、意味不明なことを口走りながら、そのシールをベリベリっと剥した。
壺さまの封印を解いたぼくは、気分爽快。次の日曜日が待ち遠しい。

つづく……
■次話 ⇒ 霊感商法(3)
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