第13話:乗せろ
ワタシの知り合いの体験談にこんな話があるんだ。
彼が大学生時代、友人の一人が車を買ったんで、別の友人と三人でちょっとした旅行へ行くことになったんだ。
三人は土曜日の講義が終わると同時に大学の駐車場に停めてあった友人の車に乗り込んだ。
車の持ち主がハンドルを握って、彼は助手席、それからもう一人の友達は後部シートにすわって。
行き先は、山を二つ程超えた隣の県の温泉町。
ところがだ。ここでトラブルが起きちゃうんだな。
大学を出て、高速までの道を走ってる最中に車が止まっちまった。
調べてみると……異常はない。
結局派遣サービスを呼んだら「あの~これガス欠ですよ~」とか言われるんだな。
燃料メーターが故障してたわけだ。
結局二時間近くも時間をロスしちまった。
で、ようやく峠道の入口に差し掛かった。
ところがだ。
30分もいかない内にまたしても彼らは車をストップさせる。
運転している友人がウトウト~ウトウト~し始めたんだよ。
「悪い、俺眠くて仕方ないわ」とか言い出してな。
で結局、具合が悪いことに、彼ももう一人の友達も免許持ってないからさ。
「あ~ちょっと仮眠させてくれよ」
「うん、じゃあそこに止めろよ」
トンネルの手前に小さな茶店があった。
で、結局その前に停めることになった。
店は閉じられてたんだけど、缶ジュースの自販機が明かりが入ってたからね。
で、車を停めると運転してた本人はそのまま寝いちゃって。
で、彼は何をしてたかっていうと、缶コーヒー買ってきて、車の中でもう一人の友人と二人で飲み始めた。
で、どの位時間が経ったのかなぁ。
結局、運転してた奴が起きてきて
「あぁもう大丈夫だ、目ハッキリした」
「あっそうか。それじゃあ行こうか」
ということになって、そいつがサイドブレーキを倒したちょうどその時に、
『コンコン』
助手席側のドアを誰かが叩くんだ。
見ると太った中年のオバさんなんだよ。マーケットで見かけるみたいな、そんな感じのね。
で、彼は窓を下ろして
「何ですか?」
そしたらそのオバさんが言うんだよ……すまなさそうな顔でさ。
「すいませんけど、乗せてもらえませんか?。私らずっと歩いてきたもんで……」って
彼のお母さん位の歳かな。で、その彼は反射的に「良いですよ」って言ったの。
そうすると、その女性がニッコリ、ほんとに人良さそうな顔でニッコリ笑って……
で、後ろ振り返るんだよ。
「良いって言ってるよ~」
そんな風に言って、その後ろに手招きするんだよ。
で、後ろにあるのはトンネルだよ。他に何にもないんだよ。なのに後ろに向かって手招きするの。
そうすると、そのオバさんに呼ばれたソイツ等が出てきたの。
ものすっごい人数の人間。二十人位かな?
ソイツ等がトンネルの闇の中からドゥアーーっと走ってくるの。
彼等の乗ってる車に向かって……
で、それ見て、うわぁぁあああって声上げて
うわぁ何だ何だ?って、これはただ事ではないからっていうんで、そのまま車をバッと発進させて。
で、Uターンさせてトンネルに背を向けてダーーーって走ったの。
そうすると後ろからものすっごい声がするんだよ。
「乗せろぉぉぉぉぉぉ」ってさ。
で、振り返っちゃったんだよ。彼だけがさ。
そしたら、さっきのオバさんを真ん中にして、ものすごい数の人間が車に負けない位のスピードで追っかけてくんの。
「スピードだせっ!もっとスピード出せ!!」
どんどん車加速して……
で、街の灯が見えてきた頃に、ソイツ等もいなくなったんだよ。
結局そのトンネルで崩落事故があって、で、何か観光バスが押しつぶされる事故があったらしいという話を随分後になってから聞いたそうだけどね……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]