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曾祖父の葬儀赤い鬼【四つ年上の姉シリーズ03】

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俺には四つ年上の姉がいる。

幽霊やらそれ以外のモノらが見えて、対処したり、交流したりという日々をごく普通に暮す、やや奇妙な人生を送っている。

今日も姉が過ごした日々から一つ、俺にとっても忘れられない出来事があった日の事を話そうと思う。

『赤い鬼』と姉が初めて接触した冬から、約半年後。

姉が小学校一年の一学期半ばに、俺達一家はとある家の事情で父方の本家があるS市から、母方の実家があるN市へ引っ越した。

それまで住んでいたS市のある県と母方の実家のある県はそれなりに遠い。

父方の親族ともかなりもめたそうだが、結局父の母が許可を出したため(俺と姉にとっては祖母にあたる人だ)、その土地を離れることを許されたらしい。

大人の事情はつゆ知らず、姉はせっかくできた新しい友達と離れることを寂しがっており、俺も同様に保育園の悪ガキ仲間と離れたくなくて、引っ越しと聞いてからは泣いて嫌がる毎日だった。

両親にとってはさぞかし大変な時期だったろう。

あとから聞いた話では、一つに当時父の事業が限界だったこと。

一つに父が自分の親族を嫌っていることが理由だったそうだ。

言われてみれば、物心ついてからこっち父方の親戚とまともにあった覚えが無い。

母方の親戚とは盆・正月を初め、様々な行事で顔を合わせるのに、父は己の血筋と異様なほどに交流を絶とうとしていた。

父方の親族からの連絡は全て母が受けており、まっとうに父が話すのは父の母相手の時のみだった。

姉はすぐに転入先の小学校でもなじみ、新しい環境と新しい友達に毎日楽しそうだった。

野山に分け入り探検したり、友達の家の桑の実をみんなで食べたり、田舎でもとかく新鮮で楽しい毎日を送っていた。

俺もやがて姉と同じ小学校に入学し、田舎のガキ大将に連れ回されながらもおもしろ可笑しい日々を過ごしていた。

朝の六時にはサイレンが響き渡り、起床を知らせる。

太陽が山際からちょうど顔を出し、山の稜線が光り輝く朝陽の白っぽいオレンジ色に染まる。

老人達はそれよりも早く起きて畑や田んぼの仕事に精を出す。

子供にも家のお手伝いが割り振られ、ちゃんと生活できるようにいつの間にか様々な事が身についてゆく。

見たことの無い花々、草木、食べられるキノコとそうでないものの見分け方、皆が小学校に集まっての折々の祭行事。

日本の原風景のような暮らしがそこにはあった。

俺が小学校に上がった夏休み、その知らせはけたたましい電話の音と共に訪れた。

俺は眠い目をこすりながら姉に手を引かれて二階から一階へと降りる。

祖母が電話に出て、急ぎ母が変わった。

母の顔色が変わる、母は一旦受話器を置くと、二階にいる父を慌てて呼びにいった。

嫌そうに電話をとる父、しばし口論が続く。

ぴりぴりと緊迫した空気であることが子供心にも理解でき、俺は握ったままの姉の手をぎゅっと握った。

姉は、見たことも無いような張り詰めた顔をして、電話口に立つ父と、その話す内容を一言も発さずに見ていた。

まるで観察しているように。

父方の曾祖父の容態急変を知らせるものだった。

父にとっての祖父。俺の記憶にはいない人だ。

どんな人なのか、想像もつかなかった。

最終的に「おそらく葬儀になるから、せめて最後に顔を出してちょうだい」と父の母に直接告げられたのが決定打になったらしく、両親と俺達姉弟はその日のうちに懐かしいS市へ向かうこととなった。

車の中の空気は、どんよりと重かった。

父があからさまに不機嫌なのが原因だ。

俺達子供は、後部座席を倒して、うつらうつらと眠りながら移動した。

次の日の朝には、もうS市内に入っていた。

休みもあまりとらずにきた、車での強行軍だった。

体中のあちこちがミシミシして、一刻も早く広い部屋で大の字になりたかった。

不謹慎だろうが、事情をろくに理解していない子供なんてそんなものじゃないだろうか。

久方ぶりに見る父方の本家は大きかった。

二階が無く、全て平屋作り。重厚な門に、立派な庭は隙が無いほど手入れがされている。

野花や山に慣れた俺には、あまりに人の手が入って綺麗な場所は何だか逆に気味が悪かった。

その立派な家に何台もの車がならんでおり、見たことも無い人達が、大人も子供も大勢が集まっていた。

曾祖父のためにこれだけ人が集まったのか。すごいなと、なんだか普通に関心してしまった。

知らなかっただけで、もしかして父方の曾祖父はすごい人なんだろうか、そんな空想を広げながら、俺達一家は案内された部屋に入って、急ぎ身支度をした。

びしりとしたスーツを着た大人達は病人を見舞うというよりは、おとぎ話の王様に謁見を伺う国民のようだった。

子供達も身ぎれいにしっかりとした衣服を身につけさせられている。

もちろん、俺と姉も例外じゃない。

そんな、人々が緊張して曾祖父を案じる空気の中でも、父は不機嫌丸出しだった。

さすがに父の母に久しぶりに会った時には笑顔を見せたが、曾祖父の話になった途端、苦虫を噛みつぶしたような表情に変わる。

いくらか父と祖母は問答を繰り返し、まずは父の兄弟へ挨拶することになった。

父は三人兄弟の末子で、しかもいわゆる『直系』と親族内で分類される立場にいる人だったらしい。

俺と姉はそこで初めて、父に関する親族と家の情報を得ることになった。

長男が家を継いではいるが、それは形式的なもので祖母が一族を取り仕切っていること。

しかも嫁をとっていないことから、まだ重要な立場では無いこと。

次男は他県に婿に出ており、妻と男子を二人授かったが、いずれも脳に障害を抱える身であること。

その従兄弟達が姉よりも遅くに授かった、しかも男子であるから、長男と同じく重要な立場では未だ無いこと。

そして同じく県外に婿に出たが、兄弟の誰よりも早く長女を授かったこと。

だから重要な立場であり、今までのわがままも許されてきたということ。

長女を産んだ母も本来であれば父の実家に直系の一員として迎えたいこと。

父の母は男児しか授からなかったため、曾祖父からみると産まず女(石女)に等しく、かなりキツい扱いをうけていること。

それが元で父が曾祖父及び親族と絶縁寸前の関係だったこと。

きけばきくほど、ドッキリか何かに聞こえる話を、大の大人達が真剣そのもので話し合っているのが、殊更異様だった。

そして、危篤状態であとは家で死ぬのを待つ身なのだから、最後に一家揃った姿を見せて曾祖父を安心させて逝かせてほしい、というのがおおむね祖母の言い分だった。

患いから曾祖父が人払いを命じていて、父と姉が来るまで他の親族には会わないと言っていることがそもそも呼ばれた原因だったらしい。

「母さん、俺はあのクソじじいが母さんにした事を絶対に許さないし、今でもぶち殺したいぐらいだ。死ぬって聞いてせいせいする」

「T、お前が私を心配してくれてるのも、それでお祖父様を嫌ってのもよおおく承知の上での母からのお願いだ。お祖父様が安心して逝ってくれれば、私が何も角はたたせん。親族のことも、今まで通り干渉せずとできる。私もお前が可愛いんだよ、T。お前の自由のためと母の気を楽にすると思って、この通りだから」

ついには祖母が父に向かって頭を下げ、ようやく父は折れた。

一度きり、ごく短時間でなら、と。

曾祖父の寝る寝室は、薬の清潔な匂いと、老人から発せられているのだろう死臭のような、相反するもので満ちていた。

老人が一人、眠るように布団に横たわって浅く呼吸をしている。

思っていたよりずいぶんと大柄な老人だというのが、俺が曾祖父に初めて抱いた印象だった。

父の兄弟達も背が高かったし、背の高い家系なのだろう。

父が姉を連れて曾祖父の側へ近寄る。俺は母に手を引かれてその後を追う。

「よう、じいさんようやく冥土行きだってな」

「ちょっと、お父さん!」

「良いんだ、こんなヤツにはこれで!俺はこいつが許せないし、大嫌いだし、殺したいほど憎いんだ!手にかけないだけマシだと思え!」

俺は怒鳴りつける父を見るのも初めてだったので、その時はすごく驚いた。

 

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父の大声に、老人が薄く目を開いた。

「ほら、見えるか。あんたがさんざん馬鹿にし続けた俺が、あんたがずっと欲しかった長女を授かった。けどな、絶対に家は継がさせない。あんたが望むことなんかぐちゃぐちゃにしてやる。だから婿にいったんだ、直系の字も名につけなかった!ざまあみろっ」

「か、か、か」

と、老人の枯れた喉から声が出た。

表情を見ると、先ほどまで衰弱した様子の曾祖父の眼にぎらぎらとした力が宿っていた。

横たわったまま、老人は嗤い、だがはっきりとした声で父へ言った。

「うつけが何ぞほざいておるわ。その年までわからなんだら大うつけじゃ、それだからお前は駄目なんじゃ。未だに何もわかっておらんで、逃れた気になっておる。か、か、愉快じゃ」

姉を曾祖父の側に寄らせ、見えるように父が曾祖父の胸ぐらを掴みあげる。

「見えるか?名前も知ってるか?直系にはなんら関係無い、うつけはてめえだ!呆けじじい!」

「よう見えるわ。おい、T。この娘を授かったこと、名をあれにしたことだけはお前を褒めてやる。初めて、一つだけ褒める価値じゃ。立派な良い直系じゃ」

とうとうぼけたかと、呆れて父が曾祖父を布団へ投げ出す。

母は病人になんて真似をと曾祖父を慌てて介抱していた。

体勢と衣類を直されて、満足げに曾祖父は父へと笑んだ。

「T、確かに『T』の一字は入れなんだなぁ。それで資格が消えると思いこんでいるのが、お前の本当にうつけなところじゃ。お前は我々の何を知っているというのだ?拒み続け、逃げ出した、不出来も不出来な無知の塊が」

声も無く激高した父を、母が止めようと必死なのを、姉と俺は近くで見ているしかなかった。

早くこの怖い部屋から出たい。それだけが、その時の望みだった。

曾祖父の声はまだ続く。

「字体をばらばらにして己から一つ、愛する己が母から一つか。愚かしい、本当に愚かしい。部首に考えが至らなんだか。お前の母に、つまり儂の娘に何の意味も無い名をつけると思うたのか」

「何が言いたい、耄碌じじい」

「直系が持つ正当な古字はな、こう書くのよ。『りっしんべん』ぐらいお前が阿呆でも知っとるじゃろうて。常用では部首は別だが、当家ではコレが引き継ぐべき字のありよう。お前の母にも別な形で入っているじゃろう」

「……こころ」

「心を引き継ぐが習わし。りっしんべんの意味に、まさに心を与え、直系であるお前の一字を以って完成と成すよくぞ強めたのお、うつけが」

曾祖父の悪魔のような歪んだ笑顔は今でも鮮明に思い出せる。

その後は酷かった。

父が唸り声を上げたのをさすがにいぶかしんだ大人が三人がかりでようやく父を押さえつけ、落ち着くまで別室で軟禁された。

その後の曾祖父はうって変わったように上機嫌で親族と別れを楽しみ、早晩、眠るように穏やかに息を引き取った。

俺達は本家に滞在する時、必ず仏間が部屋にあてがわれる。

別室にいる父を除いた三人で、葬儀の終わる夜までを過ごした。

葬儀は、それは盛大なものだった。

元々葬式の派手な土地柄らしいが、近所の人が葬式行列を見て「さすが御方のご葬儀ともなると違うねぇ」と言っていたのが聞こえた。

『御方』が何を指すのかもわからない。

父のように、俺も何も知らない。知らない方が、それでも幸せな気がした。

長男のおじさんに子供ができれば。その子が家を継ぐだろう。

末子の息子になど、用は無いらしいのだ。

盛大な葬式のあと、俺はぐったりと疲れて眠っていた。

気がつけば、姉が暗がりの中、窓を開いて外を眺めていた。たぶんまだ真夜中だ。

背後の天井近くには歴代の遺影が飾ってある。

俺は写真に見られているようで怖くなり、姉の隣へとタオルケットを被って並び座った。

眠っている母を起こさないように、

「ねーちゃん、何してんの」

「蛍見てた」

言われて窓の外を見ると、夏の深い夜に蛍の光がいくつも点滅していた。

「そっちお墓の方だよ。夜見てると呪われるよ」

「見てるぐらいじゃ呪われないよ」

俺の言うことをまったく聞かず、姉はぼんやりと外を眺めていた。

そういえば、この騒動の最中、姉は身を潜めるようにほとんどしゃべりもせずにいたのだ。

「とうま、知ってる?人魂って青いんだって」

「ひとだま?」

姉の指差す方を見るとお墓の方に確かに青白い光があった。

ゆらゆらと、なんこも漂うようにしている。

俺は血の気が引く思いだった。

「燐とかいうのが燃えるから、青く見えるんだって。人間の身体にも入ってるから、その燐が燃えたら火の玉で人間の魂らしいよ」

「ねーちゃん、ヤバいよ。ほんとにお化けが来るって」

「やばくないよ。理科とかで習うもん。今度あんたも百科事典見てみなよ。燃えるモノで色が違うんだよ。写真綺麗だったよ」

「理科とか科学とか苦手だって知ってんじゃん」

「恐竜ものってるから見なよ。面白いよ?」

「まじか!」

俺はその頃恐竜にハマッていたので、家に帰ったら夏休み図書で図鑑を借りようなどと、一気にのんきな気分になった。

だから、ぽつりとそれを口にした時の、姉の顔は見ていない。

「でもさあ、だったら・……あの赤い火の玉は何が燃えてるんだろうね」

蛍を見ていたんじゃない。姉は最初からそこを見ていたのだろう。

葬式が終わって、今は曾祖父が眠る墓の上に他よりも大きな赤い火の玉が浮かんでいた。
「本当は人魂は赤いのかなあ」「赤い鬼、赤い人魂……」

どんな気持ちで、姉があの光景を眺めていたのか。俺にはわからない。

そのそも姉にはあの騒動の間、頑なに口を閉じていた姉には一体何が見えていたのか。

同じものを見れない俺にはわかることのない、ナニカ。

『ナニカの世界』は今日も姉と共にあるのだろう。

「境界線なんて無いんだ」

蛍の飛び交う夏、ぽつりと姉が呟いた……

投稿者「とうま ◆xnLOzMnQ」2014/06/02

(了)

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