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祀られざる神 r+2,576

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霊なんて、子どもの遊びか都市伝説か……そんな風に思ってた頃もあった。

ただ、今はもう違う。断言はできないが、否定もできない。
きっかけは、幼い頃の、妙な風習から始まった。

父方の家系には代々伝わる“顔見せ”という儀式がある。
それが、どういう意味を持つのか当時の自分にはわからなかったが、小学校にも上がる前のある日、父の兄が経営するホテルに一族が集められた。
私は、祖霊に“顔を見せる”ために連れて行かれたのだ。

和式の宴会場に並べられた座布団、香の香り、天井の灯りがなぜか赤く滲んで見えた。
現れたのは陰陽師……だったらしい。長い袴に不思議な模様の羽織をまとい、目はどこか焦点が合っていなかった。
彼が一族の前に座ると、儀式が始まった。
なにか呪文のようなものを唱え、私の方を見た。

「この子には、“祀られていない神”がついている」

彼がそう言ったとき、場が微妙にざわめいた。
曰く、どこかの山中、忘れられた社に、巨体をもった神が祀られている。けれど社は朽ちていて、草が生い茂り、誰にも顧みられない。
力の強い神だが、頼るほどに運を吸い取られる。守ってくれる代わりに、何かを奪う。
だから、極力頼るなと……そう言われた。

話はそこで終わり、宴会が始まった。
父たちは酒を飲み始め、陰陽師に向かって「他に何か視えないのか」とはやし立てていた。
陰陽師は笑って、姉の足に“黒い影”が見えると言った。
姉はその数年後、かかとの骨が異常に伸びていると診断され、手術を受けた。
その時、家族で話した。「あの陰陽師、本物だったんだな」と。

その後私は社会に出て、特に霊体験などはなかった。
ただ、やけに事故が多かった。十年足らずで八件の交通事故に遭い、そのうち七件は完全に貰い事故。
落石に車を直撃されたこともあった。
お祓いなど受けたこともなかったが、祖父母の家に集まるたびに、父方の親族は「また守ってくれたんだな」「次の災厄も近いな」と口にした。

そんな折、古い友人夫婦――A夫とB子から連絡が来た。
夫婦で霊障に悩まされている。ラップ音、悪夢、庭に現れる人影……。
しばらく相談を受けていたが、地元の神社から紹介された別の神社で、ついに“原因”が見つかった。
A夫がフリマで買った、竹でできた奇妙なタペストリー。それが“呪具”だった。

お祓いを受けることになった二人は、「何が起きるかわからない」と神主に言われた。
「抑えの人間が必要だ」と。
そうして、私が呼ばれた。

嬉しかった。あの二人に頼られること。
特にB子には、かつて淡い想いを抱いていたこともあって、二つ返事で引き受けた。
山奥の神社へ向かう道すがら、ナビは途中から役に立たなくなった。
本当に森の中を突き進む。空が狭くなる。鳥の声もなくなる。

神社は、こぢんまりとしていたが、どこか異様な清潔感があった。
飾りもほとんどなく、無骨な建物が三つ、四つ点在しているだけ。
通されたのは本殿ではなく、道場のような建物。
そこで祈祷が始まった。

B子とA夫は、まず酒を飲まされ、草のついた枝で打たれた。
巻物を首にかけられたA夫は、途中で意識が朦朧としはじめた。
私は「絶対に道場から出さないように」と言われていたので、肩を掴んで起こした。

「寝かせていいッ!」

神主が怒鳴った声で、背筋が震えた。

儀式は無事に終わり、出前の寿司を食べながら、神主と話をした。
「呪具は外国のものだろう。魚の骨を焼いた灰が塗ってあった」
「悪い気を吸っていたんだ。……あれは、普通じゃない」
そんな話をしているうちに、話題は“守護霊”の話になった。

神主は私を見るなり、「君の後ろに、祀られない神が見える」と言った。
「山の奥深くに、苔むした社。大きな顔、裂けた口。だが、瞳がない」
「その神は力がある。でも、代償を取る。君から、あるいは周りから、何かを」
「……あまり頼るなよ」
神主はそう念を押して、湯呑みをそっと置いた。

一年が経った。
あの夫婦には、もう霊障は起きていない。
A夫は笑顔で肥え太り、B子も元気そうだ。
私が守ったのか、あの“神”が守ったのかは、わからない。

ただ、あの祓いの日から、眠るたびに、あの“社”の夢を見る。
巨体が、こちらを向く夢だ。
眼のない顔が、ゆっくりと口を開ける。
草の香りと、血の鉄臭い匂いが鼻を突き刺す。
そして、私に囁くのだ。

「つぎは……おまえの番だ」

[出典:612 :本当にあった怖い名無し:2021/10/16(土) 22:59:16.35 ID:pi/CkkOs0.net]

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