97 :怖いお話ネット:2024年06月10日(月) 14:22 ID:7GHJ91
小学五年の時、俺にはちょっとした冒険心があった。家の近くに「UFOの基地がある」と噂されている山があり、その噂を耳にする度に胸が高鳴ったものだ。友人たちも「山の上空に奇妙な動きをする光の球を見た」と言っていた。俺はそれを信じて、UFO博士を自認していた。その噂の山で基地を発見してやろうと心に決めた。もちろん、友人たちには内緒だった。自分ひとりで発見して、後でみんなに自慢しようという、非常に幼稚な発想だった。
ある日曜の朝、俺は一人で山を登り始めた。200メートルほどの高さで頂上に神社があるだけの、小さななだらかな山だった。険しい場所はない。神社へ続く山道をだらだら登っていった。中腹あたりで、道を外れ山の中に踏み込んだ。UFO基地を見つけるためには、ただの神社に行っても仕方がない。未知の場所を探検しなければならないと思った。
しばらく木々の間をわけいりつつ歩いていると、急に妙な気配が漂っているのを感じた。なんとも言えない嫌な気配だった。何かが近づいてくる。音がするわけでもないし、臭いがするわけでもないのに、山の下の方から何かが登って来る気配を感じた。大人だったら、見つかったら怒られるかもしれないと考え、岩陰に隠れて様子をうかがった。
すると、気配を感じた通りに下の方で音がした。枯葉を踏みしめる音だった。やっぱり大人が登ってきたんだと思い、俺は身を小さくして隠れていた。しかし、音が近づいて来るにつれ、奇妙なことに気がついた。足音が変だった。普通、大人が登ってくるなら、かさっ、かさっというリズムで登って来るはずだ。それが、この音は一度かさっと枯葉を踏んだ後、しばらく間があいてからもう一度かさっ、と音がする。まるで一本足でけんけん飛びをしながら登ってくるような音だった。
俺はパニックになってしまった。何が登って来るのか確かめたかったが、人間じゃない何かが登って来る気がした。絶対に見つかってはいけないと、口を手で押さえて必死に息をひそめていた。やがて足音は俺の隠れる岩の少し向こうを通り過ぎて行った。俺には気づかなかったようだ。足音が山頂の方向へ去って行ったのを確かめてから、俺は岩陰からそろそろと這い出た。そして山の上の方を見た。
……いた。
山頂に向かって一本足で登って行く影。ゆらゆらと体全体をくねらせながら、ぽーんとジャンプするように登って行く影を俺は見てしまった。すぐにその影は木々の間に消えて見えなくなったが、間違いなく一本足だった。怖いという感情を超えて錯乱状態のようになりながら、俺は山を駆け下りた。その日の夜には発熱し、数日小学校を休む羽目になった。
……あれが何だったのか、いまだに説明がつかない。
友人たちにはその話をしていない。彼らは信じてくれないだろうし、笑われるだけだろう。俺はその後も山に行くことはなくなった。UFOの基地が本当にあるのか、それともあの日見た影が何かの悪夢だったのか、答えを知ることはできない。だが、あの山で見たものは、俺の心に深く刻まれたままだ。あれ以来、俺は奇妙な現象や不思議な出来事には敏感になった。今でも、あの日のことを思い出す度に背筋が凍る。