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変形玩具二十面体地獄 r+3,293

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アンティーク好きの彼女と骨董市を巡るのは、最近の週末の定番だった。

俺自身、古着やファミコンソフトに目がないから、買うものは違えど、同じ店を楽しめた。

その日もいくつか掘り出し物を手にしてご機嫌で車を走らせていたとき、錆びた看板がひっそり立つ、潰れかけの店が目に入った。彼女は眉をひそめたが、俺は思わず声を上げていた。

「うほっ、こんなとこにQ太郎の金バージョンあったりしてな」

店内はコンビニほどの広さ。古本ばかりで、家具や古着は少ない。ファミコン棚には埃をかぶった『究極ハリキリスタジアム』が一本。がっかりしかけたとき、彼女が低く「……あっ」と声を漏らした。

バスケットケースの底、見えるはずのない深さから彼女が掘り出したのは、掌大の正二十面体。鈍く光る漆黒のそれは、妙に吸い込まれる質感をしていた。彼女は言った。

「これ、凄い……こんなの、見たことない」

値札はない。俺たちがレジに持っていくと、店番の老人の顔が一瞬だけ歪んだ。驚きと、怯えが一瞬混じったその表情が忘れられない。老人は黄ばんだ紙を持ち出し、それが「リンフォン」と呼ばれる変形玩具であることを説明し始めた。

「熊から鷹、最後に魚になる。手の熱と形を感じて、姿を変えていく……そう書いてある」

確かに紙には、英語ともラテン語ともつかぬ文字でそう記され、三段階の変形図が載っていた。俺たちは面白がり、彼女がその場で撫でると「カチッ」という音と共に、面の一つが浮き上がった。老人は、それを一万円と言い、彼女は値切って六千五百円で手に入れた。

月曜日の夜、彼女から電話がきた。

「リンフォン、ほんっと凄い。熊の頭が出た。もう、これずっと触ってたい感じ」

興奮しきった声でまくし立てたあと、熊の頭部が突き出た状態の写メールが届いた。まるで、呼吸しているかのような、生々しい写りだった。

火曜日には鷹が完成。写メールには、翼を広げた異様にリアルな造形のリンフォンが写っていた。玩具の域を超えていた。正直、寒気がした。

そして木曜日。深夜、彼女から電話。

「ユウくん、五分前から三十秒おきに着信あるの。番号が……『彼方』って出る。出ると、雑踏のざわめきみたいな声が聞こえて……すぐ切れるの」

その夜、俺はリンフォンの話題を避けたかったが、彼女は言った。

「もうすぐ、魚になる」

金曜日、俺は彼女の家へ行った。リンフォンは熊でも鷹でもない、不気味な魚の未完成形でテーブルに鎮座していた。ぬめりを感じる質感。背びれと尾びれだけが、未だ引き出せないようだ。

「今日、昼にまた電話がきた。『出して』って、無数の声で……」

俺たちは携帯ショップへ行き、ついでに“当たる”と評判の『猫おばさん』の占いに予約を入れた。

日曜、猫おばさんの家を訪ねた。玄関にいた猫が、俺たちを見て「ギャッ!」と叫び逃げた。居間に入った途端、数匹の猫が凄まじい声で一斉に威嚇し散っていった。おばさんは震えながら言った。

「帰ってください……猫たちが、あれを“見た”のです。あれは……凝縮された地獄です。今すぐ捨てなさい!」

詳しい説明を求める俺に、おばさんは泣きながら叫んだ。

「リンフォンは地獄の門です!!開いてはいけない!捨てなさい!!」

その夜、俺たちはリンフォンを説明書ごと新聞紙で包み、ガムテープで巻いて、ゴミ捨て場に投げ捨てた。

数週間後、彼女が何気なく言った。

「『RINFONE』って綴り、アナグラムで『INFERNO(地獄)』にもなるんだよね……偶然だよね?」

「……まさか。偶然偶然」

あれが処分されていると信じたかった。そして――二つ目が存在しないことも。

後日談

あれから三ヶ月が経った。

奇妙な電話も夢も、今のところ再発していない。彼女も仕事に戻り、リンフォンの存在は日常から徐々に薄れていったようだった。俺もそう思っていた。つい昨日までは。

きっかけは、会社の同僚の一言だった。

「この前、八王子のリサイクルセンター行ったんすよ。ヤバいもん見ましたわ」

ヤバいもん。耳が反応した。

「何が?」

「変な立体パズル。黒くて、なんか生き物っぽい形に変形するやつ。マジで気持ち悪くて、売り場で手に取った瞬間、急に頭痛してさ、すぐ戻した。あれ、誰が買うんだろって思ったわ」

――まさか。

仕事を早引けして、そのリサイクルセンターに向かった。古道具の山をかき分けると、あった。あれだ。新聞紙にくるまれて、破れた隙間から黒い面が覗いている。

手に取った瞬間、記憶が蘇る。熊。鷹。魚。あの目が、こちらを見たような錯覚。

すぐに手を離した。

すると、店員が近寄ってきた。

「それ、買います?変なもんでね。さっきまで、勝手に動いてたっていうお客さんがいて……」

「いくら?」

俺は、口が勝手に動いていた。買う気はなかった。けれど、気づいたときには袋を手に持っていた。

その夜、彼女の家に電話した。

「例のリサイクルショップで、リンフォン見つけた」

しばらく沈黙のあと、彼女は低い声で言った。

「私のと違う」

「え?」

「私のリンフォンは、熊だった。でも今夢に出るのは……蛇みたいな何か。うねって、音も立てずに近づいてくる」

「それって……動物の変形順にないよな?」

「……順番が変わってるの。増えてるの。私、間違ってた。熊、鷹、魚じゃない。あれ、あれは順じゃなくて――階層だったのかも。地獄の」

その言葉の意味を、翌日、俺は思い知ることになる。

朝起きたとき、ベッドの脇に、ぬらりと光る黒い物体が置かれていた。昨日、買った覚えなどない。リサイクルセンターで見つけただけのはずだ。

だがそれは、見覚えのない――蛇の形をしていた。

リンフォンには続きがあった。あの三つは、入口にすぎなかったのかもしれない。

俺は今、眠れない。部屋のどこかから、乾いた「カチッ……カチッ……」という音が聞こえる。やつが、自分で変形を続けているのだ。

もし次の形が、人の姿だったとしたら。俺は、彼女のように――

……いや、もう手遅れかもしれない。

(了)

[出典:183 本当にあった怖い名無し 2006/05/13(土) 13:10:26 ID:d6nOfoGU0]

RINFON(リンフォン)オマージュ

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