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三十秒おきに鳴るもの rw+3,900-0217

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アンティーク好きの彼女と骨董市を回るのは、ここ最近の週末の習慣だった。

俺は古着やファミコン目当て、彼女は古い玩具や置物。見る棚は違っても、同じ空気の中にいるのが楽しかった。

その日も一通り見終え、帰ろうとしたときだった。会場の外れ、解体寸前の倉庫のような店が目に入った。看板は錆びて読めない。

彼女は足を止めなかったが、俺が声をかけた。

「ちょっとだけ覗こう」

店内は狭く、湿った紙の匂いがした。棚は古本ばかりで、奥に小さなケースが一つあるだけだった。
彼女がしゃがみ込み、何かを拾い上げた。

黒い正二十面体。掌に収まる大きさ。
光沢はなく、吸い込まれるような質感だった。

「……これ、変」

変、と言いながら、彼女は目を離さなかった。

レジに持っていくと、店番の老人はそれを見た瞬間、わずかに視線を逸らした。
値札はない。老人は奥から古びた紙を持ってきて、それを俺たちに見せた。

読める言語ではなかった。ただ、三つの図形が描いてある。
多面体。
何かの頭部。
そして、水中の輪郭のようなもの。

「触れると、変わるらしい」

老人はそれだけ言った。

彼女が撫でた。
乾いた音がした。
一つの面が、わずかに持ち上がった。

俺たちは笑いながらそれを買った。

月曜の夜、彼女から電話が来た。

「動いた」

開口一番、それだった。

写真が送られてくる。
確かに変形している。だが、紙に描かれていた形とは微妙に違う。

火曜、また写真が来る。
今度は翼のようなものがある。だが昨日の写真と比べると、角度が違うだけでは説明がつかない。

「これ、昨日と形違くない?」
そう送ると、彼女はすぐ返信した。

『同じだよ』

写真を見比べる。
同じ、と言われれば同じに見える。
だが、何かがずれている。

木曜の深夜、彼女からの着信。

「三十秒おきに電話がくる」

表示は番号ではなく、文字だけ。

『彼方』

出ると、ざわめきのような音。
遠くで何人も同時に何かを話しているような、言葉にならない音。

「ねえ、リンフォンってさ」

彼女がぽつりと呟く。

「変形、順番じゃないかも」

金曜、彼女の家へ行った。

テーブルの上にそれはあった。
もう多面体ではない。
だが完成もしていない。

触れていないはずの面が開いている。
ぬらりとした質感に見えるのは、照明のせいかもしれない。

「昼にも電話きた。今度は声、聞こえた」

「何て?」

彼女は少し考えてから言った。

「出して、って」

俺たちはそれを新聞紙に包み、テープで巻き、ゴミ捨て場へ持っていった。
彼女は振り返らなかった。

数週間、何も起きなかった。

電話もない。夢も見ない。
彼女も笑うようになった。

俺も忘れかけていた。

三ヶ月後、会社の同僚が言った。

「この前、リサイクルセンターで変なの見ましたよ。黒い立体。触ったら気持ち悪くて」

その日の夕方、俺はそこにいた。

古道具の山の下から、新聞紙が覗いている。
破れ目から黒い面が見えた。

触れていない。
触れるつもりもない。

だが、店員が言った。

「それ、さっきまで向き違ったんですよね」

俺は何も言わなかった。

帰宅してから、彼女に電話した。

「似たの、あった」

沈黙のあと、彼女は言った。

「私のは、もうないよ」

「捨てたろ」

「ううん。なくなった」

その言い方が気になった。

「昨日、棚に置いてあったのに、朝見たら空だった。代わりにさ」

彼女は少し笑った。

「私の部屋、三十秒おきに音するの」

乾いた音。

カチッ。

そのとき、俺の部屋でも鳴った。

机の上。
何も置いていないはずの場所。

そこに、黒い影がある。

触れていない。
持ち帰っていない。

なのに、形が一つ、増えている。

それは熊でも、鷹でも、魚でもない。
名前をつける前の形だった。

今も、三十秒おきに鳴る。

音のたびに、何かが開いていく。

俺はもう確かめない。

ただ一つ、分かっているのは。

あれは、捨てられるものではなかったということだ。

そしてたぶん。

最初から、俺たちのどちらの物でもなかった。

――あなたの部屋にある黒い物も、いつからそこにありましたか。

[出典:183 本当にあった怖い名無し 2006/05/13(土) 13:10:26 ID:d6nOfoGU0]

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