短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

待っていた女【ゆっくり朗読】6839-0110

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大学生の頃に体験した話

613: 2015/09/10(木) 22:59:40.98 ID:k16fs3vw0.net

ようやく決着したし、吐き出すために書いてみます。

幽霊とかじゃなくて、気が狂った人間が怖いって話だけど……

大学一年の秋頃、その日は友達と飲んで終電の一本前ぐらいの電車で帰ってきた。

俺の家は最寄駅から徒歩十五分ぐらい。

ほぼ毎日通る駅までの道の途中には、小さな神社があった。

地元の人しか知らない、何でもない神社。

俺の住んでる町は、何もないと言えば何もないけど、電車は急行が止まるし、少し大きな住宅街。

神社は駅から300mぐらいのところにある。

まだ駅の近くだし、すぐ近くに駐輪場もあるんで、まばらに人通りがあった。

そんな中いつも通り神社の前を通りがかった時、何の気なしにふと神社の中を見てみた。

正面には本堂があって、右側が小さな雑木林になっている。

昼間だと向こう側の道路が見えるぐらい、小さな雑木林。

ほんの一瞬だったけど、その雑木林で、真っ白な服を着た何者かが、木に向かって何か振りかぶるような動作をしているのがちらっと見えた。

この時点では性別すら分からなかった。

一瞬であっても、俺は大体その人が何をしているのかは察知できた。

丑の刻参り、いわゆる『呪いの藁人形』……

後々調べるまで呪いの藁人形について詳しく知らなかったけど、そんな俺でも知ってることは、

「呪いをかけてる間誰にも見られてはいけない」

という条件。

しかも、「見られたら呪いが自分に跳ね返るから、見た人間を殺さなければならない」

これは俗説らしいけど、聞いたことがあったから、一瞬で背筋が凍った。

呪いの藁人形の行為そのものより、人間が誰かのことを心の底から呪ってるっていう、人間の怨念を直に見た感覚があって、それが怖かった。

余談だけど、俺は京都の金毘羅神社に行ったことがあるんだけど、あそこに書かれてる絵馬の内容も怖いよな。

あの場にいるだけで自分まで何か悪い気に包まれる気がする。

この時もそんな気がした。

とにかく、俺は「何も見てませんよー」という振りをして、すぐに向き直り、歩幅を変えずに歩き続けた。

神社を過ぎて100mほど直進して、交差点にさしかかった時、後ろを振り返ってみた。

すると、白装束の何者かが、神社の影から顔だけ乗り出して、こちらをじっと見ていた。
その瞬間、俺は「しまった!」と思った。

俺が「呪いの藁人形」を見えていることを気付かれた!

その時初めて気付いたんだけど、髪が長かったから女だろうなと思った。

とにかく、じっとしているわけにもいかないので、俺は交差点を過ぎ、そのまま200mほど直進した。

その間ちょくちょく後ろを振り返ってたんだけど、白装束の女は一定の距離を保って俺を尾行していた。

歩き方がすごく気持ち悪かったし、女がちょくちょく電信柱とか、ゴミ箱の影に隠れるんだけど、見え見えでなおさら不気味だった。

200mほど直進する道を進み、右に曲がると歩道橋があって、その歩道橋を渡るとすぐに俺の住んでるマンションがある。

直進している途中、何度か後ろを振り返ってたんだけど、ある時振り返ると、女がいなくなってた。

「あれ?どっかに隠れてる?」と思ったけど、すぐに意味が分かった。

実は、その200mほどの道には、途中に分岐する道がある。

分岐した道はかなり細い道で住宅街が広がってるんだけど、そのまま直進すると、再び俺が歩いている道に合流する。

ラグビーボールみたいな感じ?

「女は分岐の道から先回りするつもりだ!」と思って走りだし、合流点で振り返ってみると、さっきまで100m近くは離れていた女が、もう5mほどのところまで迫っていた。

俺を見かけた瞬間、

「ああああああああああああ!!」

と奇声をあげ、追いかけてきた。

女は右手に小さなハンマーのようなものを持ってた。

表情はよく覚えてない。とにかく必死の形相だったことだけは覚えてる。

その時は、本気で怖かった。

自分がターゲットにされて、ただただ危害を加えようとしている悪意が向けられるのは
人生で初めてだったから。

俺はそのまま全力で歩道橋をかけあがった。

相手はおばさんだし、俺は大学生の男だし、逃げるのは簡単だった。

でも、このまま自分のマンションに入るのはあまりに危険だと思い、マンションの真下にあるローソンに駆け込んだ。

少しすると、女がローソンの反対側の歩道へ来た。

仁王立ちになり、ずっとこちらを凝視している。

俺は商品棚に隠れて、どうしようかと思っていた。

どうしようもないので、俺は警察を呼んだ。

少ししてサイレンの音が聞こえてた瞬間、女は逃げ出した。

俺は警察に事情を話し、その日は終わった。

それから二週間ぐらいして、警察から連絡があった。

警察曰く、女は別件で捕まったらしい。

ただ、いわゆる「気が狂ってる」人みたいで、逮捕はできないらしい。

さらにその後、女が精神病院に入れられたと聞いた。

俺は心の底から安心した。

責任能力がないのか知らんが、あんなの野放しにするのは怖すぎる。

これで一件落着!

かと思ってたら、話は終わらなかった……

そんな事件があった二年後、大学三年生の頃、再び女に出会った。

正直、事件のことはほとんど忘れてた。

女が精神病院に入れられたって聞いたから、安心してたってのもあると思う。

ある日、俺は夜バイトから帰ってきた。

最寄駅には、改札が一ヶ所しかない。

でもさっきも書いた通り、住宅街だから、結構な人数の人が下りる。

その日は夜十時前ぐらいだったと思う。

何気なく改札に近づくと、出てすぐのところに何やら怪しい人影がいた。

人ごみでちゃんと見えなかったけど、どうやら改札から出てくる人のことをジロジロ見ていたっぽかった。

最初は「変な人だなー気持ち悪……」ぐらいにしか思わず、俺は人ごみに紛れて改札を出た。

改札を出た瞬間、その女と目が合った。

ドラえもんがでっかく描かれたシャツを着て、下は臭そうな汚いロングスカート。

目を合わせたことを若干後悔したけど、女も俺のことをジロジロ見てくるんで若干腹が立って、睨み返してやった。

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すると、女は口を真横に開き、ものすごいいやらしい笑顔を返してきた。

目はイってた。

「うわっキモ!」と思い、横を通り過ぎようとしたその時、女が「あはははははは~」と笑い、俺に着いてこようとした。

さらに「あの時の、返しに来たよ!!」と言った。

意味が分からなかったが、腕をつかまれた。

当然、逃げようと思えば逃げられたけど、何となく周りの目を気にしてしまって、強引に振り払うことができなかった。

女は「ねえ、あなたのことずっと待ってたんだから、あそこでちょっとお話しましょうよ」と言った。

俺は「え?俺に用があるの?だれ?」と思いつつ、押し切られてしまい、改札の右端にあるベンチに二人で腰かけた。

正直、適当にあしらってすぐ帰ろうと思った。

こんな女のこと俺は知らない。

それに相手はオバサンだ。その気になればすぐ逃げられる。

ベンチに腰かけた後少し普通の会話を続けた。

「今何歳?」

「一九です」(嘘)

「お名前は?」

「舟木一夫」(嘘)

「どこに住んでるの?」

「さあ、そのへん」

もうとにかくうざかった。

「じゃあこのへんで帰りますんで」

と言って立ち上がろうとすると、女は「待って!!一夫くん!あの時の、返しにきたの!!!」と言う。

だから、あの時のってなんだよ……

と思い、「いや、そんなの知らないし、あの時のって何?」と強めに言った。

それでも強引に帰ろうとすると、女は急に声を低くし、「待て。殺すぞ」とだけ言ってきた。

さっきまでの女の笑みは消え、なんとなく「この人本気だ……」と思ってめちゃくちゃ怖くなった。

そして、女はポケットから小さめの包丁を取り出した。

腕はガッチリつかまれている。

この時、俺は少し二年前のことを思い出した。

純粋に危害を加えようとする悪意にあの時以来接したからだと思う。

俺は「もしかして?」って思ったし、怖かったけど、段々怒りの方が勝ってきて、

「は?やれるもんならやってみろよクソババア」

と言い放ち、強引に手を振り払った。

そして、立ち去った。

威勢のいいことは言ったが、実際は怖くて逃げただけだった。

その瞬間、女は

「うおおおおおお!!!殺してやる!!」

と叫んで階段を駆け下りてきた。

その瞬間、俺は全てを思い出した。

このオバサンが二年前の白装束の女だ……!!

この日は白装束でもなかったし、そもそも俺はオバサンの声も顔もちゃんと認識してなかったから、追いかけてくる姿を見るまで気付かなかった。

駅にいた周りの人が「何事?」って感じで見てきたけど、さすがになりふりかまってられない。

ただものすごく幸いなことに、その駅は出口を出てすぐに交番があった。

すぐに交番にかけこんだ。

女はそれでも追いかけてきて、止めようとした警官に切りかかった。

さすがに警官はサラリとかわして、すぐに女を取り押さえた。

結局、その後女と関わることはなかった。

狭い交番だったから「一夫を出せえ!!」って声は聞こえてきたけど、俺は奥の部屋で事情を聞かれていた。

警官は優しく話を聞いてくれ、大学生にもなって俺は泣きそうになった。

多分、安堵感からだと思う。

女はその後もずっと拘束されてたみたいだけど、俺はわりとすぐに帰された。

当然、二年前の出来事も全て話したけど。

俺自身必死すぎて怖くない部分も多かったと思うけど、話はこれで終わり。

後日談

警察から連絡があり、女は今度は精神病院ではなく、更生施設?か何かに入れられるらしい。

更生施設だから、健常だとみなされない限り出られないらしい。

ある意味これも怖いよな。社会不適合者を隔離すんだから。

ことが全て終わったことで、俺は女に対してかわいそうと思うようになった。

おそらく、あの女も何の意味もなく呪いの藁人形をしてたんじゃないんだろうと思ったし、何かとてつもなく辛いことがあったんだろうと思った。

けどまあとにかく怖かったし、一方では永遠に出てこないでほしいとも思った。

あれから五年近く経ち、オバサンは更生施設の中で自殺したらしい。

これでこの一件も完全に終わりだと思う。

化けてでてきたら終わらないけど……

とにかく、今回の一連の事件で一番怖かったのは、心の底からの悪意に自分がターゲットにされたこと。

喧嘩とかそんなものじゃない。

自分に本気で危害を加えようとしている人がいるってことは、とてつもなく恐ろしいことだと思った。

(了)

[出典:http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1439786982]

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