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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

三つの宿命 r+6570

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 俺のおかんが酔っ払ったときに話してくれた不思議な話がある。

これは、実家に帰った際に聞いたものだ。おかんが体験したという奇妙な出来事の数々を聞かされ、俺は子どもみたいにワクワクしてしまった。

おかんの話はいつもぶっ飛んでいるが、不思議と納得させられる部分も多い。たとえば、夜中に目が覚めたら誰もいないはずの廊下から足音が聞こえた話や、古い写真に知らない人が写り込んでいたという話がある。親父も昔から「あいつは不思議な女だ」と言っていたが、確かにおかんは、俺たちには見えないものや感じられないものを、普通に感じ取って生きているようだ。その独特な雰囲気が話の魅力を倍増させる。そんな話を文章にするのはもったいないと思ったが、なるべく雰囲気を壊さないように書き起こしてみる。

今回は、その中でも特に印象に残った話をひとつ紹介しよう。おかんが学生時代に体験したという、ちょっと怖くて不可解な話だ。

おかんは大学生のころ、絵を描くのが好きで、絵画サークルに入っていた。大学三年生の春、新入生歓迎コンパが開かれた。その日、おかんは一人で酒を楽しんでいたらしい。宴会のざわついた雰囲気は好きじゃないが、酒そのものは好きだったからだ。そんな中、どこからともなく一年生の女の子が隣に座ってきた。

「宴会のノリは苦手だけど、お酒は好きなんです」

その一言で意気投合し、自己紹介をしながら飲むうちにすぐ打ち解けた。どうやらその子は二浪して大学に入った同い年の子だったという。この女の子をここでは「民子」と呼ぶことにする。

民子はウィスキーをロックで煽りながら、店員に次々と酒を注文していた。飲みすぎだと思ったおかんが注意すると、民子はぽつりと「私、水で死ぬんです」と言い出した。

その言葉はあまりに突拍子もなく、場の空気にそぐわないものだった。おかんは思わず驚き、「どうして?」と聞き返した。その問いかけに民子は深く息をついてから語り始めた。中学時代、自分はいじめをしていたのだと。

民子の中学校に、質素な服装をしたおとなしい女の子が転校してきた。最初は気にも留めていなかったが、中学二年の二学期に行われた中間試験で、その転校生は学年トップの成績を取った。ずっと一位だった民子は嫉妬心を抱くようになった。

その転校生は見た目も貧乏くさく、家もまるで廃屋のようだったという。そんな子が急にチヤホヤされるのが許せなかった民子は、他の二人とつるんで転校生をいじめ始めた。貧乏をからかい、縦笛を捨てたり、教科書に落書きをしたり……典型的ないじめだ。

転校生は何も言い返さず、ただ耐えていた。しかし、ある日その子の父親が亡くなった。二週間ほど学校を休んだ転校生は、何事もなかったかのように戻ってきた。そんな彼女の態度が逆に民子たちを苛立たせ、「父親が死んだのに悲しそうじゃない!」と罵倒し始めた。

冬休みが近づくころ、民子の仲間の一人が転校生の父親の墓がある寺を見つけ出した。そして、とうとう墓を荒らす計画を立てた。寺に行き、墓石に罵詈雑言を書きなぐり、石を投げつけた。そのとき、転校生が泣きながら現れた。

「やめて!」

その声はまるで大人の男性のような低い声だったという。転校生は「私はあなたたちに何もしていない。なぜこんなことをするのか」と叫んだ。その初めての反抗に民子たちは逆上し、取っ組み合いの喧嘩になった。そして、民子は勢い余って転校生を突き飛ばしてしまった。

転校生は墓石に頭をぶつけて倒れた。慌てた民子たちが逃げようとしたそのとき、転校生はむくりと起き上がり、一人ひとりを指差してこう言った。

「お前は鉄で死ぬ」「お前は火で死ぬ」「お前は水で死ぬ」

それ以来、民子たちは恐怖からいじめをやめた。そのときの転校生の言葉とあの異様な出来事が、彼女たちの心に深く刻み込まれていたのだ。何か悪いことをすると、また同じような恐怖を味わうのではないかという思いが消えなかったらしい。それどころか、三人は次第に疎遠になった。互いに顔を合わせるたびに、過去の出来事を思い出し、気まずさと不安が増すばかりだった。それぞれ別々の高校に進み、連絡もとらなくなった。

ところが、高校二年生の夏、民子の元に仲間の一人から電話があった。「鉄で死ぬ」と言われた子が、原付に乗っていたときにトラックにはねられて亡くなったという。さらに数ヵ月後、「火で死ぬ」と言われた子が火事で亡くなった。

残された民子は恐怖に耐えられず、引きこもりになったが、どうにか大学に進学した。そして新歓コンパでおかんと出会ったのだ。

「水で死ぬなんてあり得ない」

民子はお風呂にも湯船にはつからず、プールも海水浴も避け、水に近づかないようにしていた。それを聞いたおかんは、民子に呆れながらも「まあ、何事もなく生きていけるわけがないよな」と思ったという。

その数ヵ月後、民子は肝硬変で亡くなった。若さに似合わぬ病気で、不安を紛らわすために酒を飲みすぎた結果だった。

「若いのにね。顔も黄色かったし、あのときすでに助からなかったんだろうね。ある意味、水で死んだのかもしれないね」

そう言いながら、おかんはウィスキーをグラスに注ぎ込んだ。

ところで、この話には続きがある。おかんが語るには、民子の話を聞いたとき、彼女の背後に妙な影を見たのだという。まるで人の形をしているような、それでいて実体がない何か。それは話の途中でスッと現れ、民子が部屋を出て行くのと同時に消えていった。おかんはそのとき、「この子は長くないかもしれない」と感じたのだそうだ。

後日、民子の死を聞いたおかんは、やはりあの影のことを思い出した。それが何だったのかはわからない。ただ一つ確かなのは、民子が語った呪いじみた話と、その背後にあった影が、不思議なほど結びついているように思えたということだ。

また、民子の話をきっかけに、おかんは昔の友人とのやりとりを思い出した。その友人も奇妙な体験をしており、やはり「死の予告」をされたような出来事があったらしい。彼女の場合は何事もなかったようだが、そのときの話を聞くうちに、おかんは自分も何かの兆しを見逃しているのではないかと考え始めたのだ。

こうした話を聞くたびに思うのは、人間の知らない力や、見えない何かがこの世に存在しているのかもしれないということだ。たとえば、偶然としか思えない出来事が重なったり、何かが起こる前に不思議と胸騒ぎがするような感覚。おかん自身は「科学で説明できないこともあるよ」と笑っていたが、その語り口には妙な重みがあった。

(了)

[出典:626 本当にあった怖い名無し New! 2014/01/16(木) 17:41:04.57 ID:XKpvVfzD0]

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