短編 洒落にならない怖い話

入るな【ゆっくり朗読】4272

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新築マンションに住む香織は今、京子という女性と同居している。

それというのも家賃が高いせいだった。一ヶ月八万円。

アルバイトで生計を立てている香織にはとてもじゃないが払えなかった。

そこで一緒に生活してくれる人を探すことにしたのだ。

1週間ほどで案外簡単に見つかり、同じ年頃でいろいろなことを話せるので香織は大変気に入った。

しかしちょっと気になることがあった。

自分の部屋には絶対にだれもいれないのだ。

ドアノブに手をかけようものならものすごい勢いで飛びかかってくる。

だが家賃が半額になると思えばそんなことはどうでもいいように思えた。

香織は満足感でいっぱいだった。

そんなある日のこと。ちょっとした事件がおきた。

その日、京子は珍しく外出していた。私は暇をもてあましていた。

そんな時、私はあることを思いついた。

(京子の部屋をのぞいちゃおう)

すぐに決行することにした。

ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。誰もいないと分かっていても少し慎重になる。

ドアをゆっくり開けた。

(何これ……?)

と、言いたくなるほど普通の部屋だった。

とてつもなく散らかっているとか、すごく趣味が悪いとかで隠しておきたいのかと思ったけど、そこは香織の部屋と別に変わらない女性の部屋だった。

きれいで清潔そうなシーツ。きちんと整った本棚。

別にどこも恥ずかしいわけではなかった。

一通り見回したあと部屋を出ようとした。そこで私は凍りついた。

京子がいたのだ。

「……あの、京子? その……きれいな部屋ね、とても……」

京子はぴくりともしない。腕は人形のように垂れ下がったまま。顔は能面のようだ。

これは京子が切れる前触れだ。

「あの、ごめんね……京子?」

そのとたん、「ぎやあああああああああ」

突然発狂しだした。

まずい、この状態の京子は何するか分かったものじゃない。

以前、突然発狂しだしてパジャマのまま家を飛び出したことがある。

何とか鎮めないと。

「ストップ! ストーップ!」

京子を押さえつける。ものすごい力、まるで野獣のようだ。

「ぎゃああああああぁぁ! 放せええええ!」

耳が痛い。ライオンに耳元でほえられたほうがまだましだ。

「とまって京子ぉぉぉ!」

私も負けじと大声を出す。

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結局、管理人さんが止めに入り二人がかりでやっと鎮めることができた。

「ええ! 何も覚えてないのぉ!?」

京子は黙ってうなずく。

昨日の晩のことを京子は何も覚えていないのだ。

「それより、何で入ったのよ……」

低く、悔しそうな声で京子が言った。

「……いや、特に理由はないんだけど」

京子はしばらく黙ったあと

「何があっても知らないから」

それだけ言うと京子は部屋を出て行った。

その後、京子に特に変わりはなかった。それどころか少しすっきりしたようだった。

しかし一方私は体調が優れなかった。それに部屋に誰も入れたくなくなったのだ。

ある日熱を出し寝込んでいたとき、京子が部屋に入ってきた。

気が付くと飛び散った薬と、こぼれた水と、私の上に覆いかぶさる管理人と京子が目に入った。

京子が言うには、突然発狂しだしたかと思うと暴れだし、押さえつけると野獣のような力で京子を吹き飛ばし、ライオンのようにほえていたという。

いったい私はどうしてしまったのだろうか。

管理人の和茂は2005号室に向かっていた。

住人の菅原京子と木下香織がまだ家賃を払っていないのだ。

ドアをノックする。

「家賃を払っていただきたいんですけど」

部屋から返事はない。ドアノブを回してみる。ドアが静かに開いた。

あれ、おかしいなと思いながらも管理人は部屋に入っていった。

「……!う、わあああああああ!!」

そこにあったのは二体の死体だった。両方とも首がもげている。

管理人はその場にへたれこんだ。

その後の警察の捜査で、その死体は菅原京子と木下香織のものだとわかった。

その後、管理人は誰も自分の部屋に入れなくなったという。

(了)

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