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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

挨拶は? nw+343-0209

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近所のスーパーFに通うのは、会社帰りのほんの気晴らしだった。

安くて品揃えもそこそこで、アイスでも一つ買って帰る。それだけの場所だった。ところが、ある日を境に、どうにも居心地の悪い空間に変わった。

最初に気づいたのは、視線だった。商品棚を眺めていると、背中に粘つくような感触がまとわりつく。振り返ると、若いアルバイト風の男が、露骨にこちらを見据えている。目を逸らす気配はない。睨んでいる、というより、何かを確認しているような目だった。感じの悪い店だな、と思っただけで、その日はやり過ごした。

数日後、違和感は形を持った。

レジに並び、アイスと野菜を籠に入れて差し出した瞬間、レジ係の女が突然声を荒らげた。

「お客さまぁっ、さっきも来ましたよねぇっ!」

意味がわからず、言葉を失った。女は苛立った手つきでバーコードを読み取りながら、こちらから目を離さない。

「今度はなんですかっ!」

何かを答える前に、畳みかけるように言われた。

「木のスプーンにしますかっ、プラスチックにしますかっ!」

刺すような口調だった。私は咄嗟に「結構です」とだけ答えた。すると女は、理解できないものを見るような顔をして、アイス二つに対して木の匙とプラスチックの匙を大量に投げ込んだ。ガサッという音が不自然に大きく響き、周囲の視線が一斉に集まった。

「誰かと勘違いしていませんか」

声が震えないよう意識してそう言ったが、返事はなかった。女は私を完全に無視し、次の客を呼び込んだ。胸の奥で、心臓が異様な速さで打っていた。

それ以来、スーパーFに行くのが億劫になった。それでも、奇妙なことは終わらなかった。

日曜日、郵便を出した帰り道でのことだ。前から初老の夫婦が歩いてきた。すれ違う直前、男が低い声で言った。

「挨拶は?」

叱りつけるような言い方だった。足が止まり、思わず顔を見たが、記憶に引っかかるものは何もない。

「誰あんた」

そう言うと、男は顔を歪めた。怒鳴り出すかと思った瞬間、隣の女が蒼白になり、男の腕を掴んだ。

「違う、違う人よ」

半ば叫ぶようにそう言って、二人は逃げるように立ち去った。手のひらが冷たく濡れていた。

別の日、別のスーパーで通路を歩いていると、若い女性と鉢合わせになった。ぶつかる前に、彼女の方が先に反応した。小さく悲鳴をあげ、深く頭を下げながら「すいません」を繰り返す。私の顔を見るなり、謝るしかない何かを思い出したようだった。

偶然では済まされない数だった。反応は怒り、恐怖、軽蔑とばらばらだが、共通しているのは、私が「誰か別の人」として扱われていることだった。

鏡を見るのが、少しずつ怖くなった。会社の洗面所で顔を上げた瞬間、自分の表情が、ほんの一拍遅れて動いた気がすることがあった。夜、電気を消した洗面所の前を通ると、暗がりの中に何かが残っているような気がして、視線を向けられなくなった。

ある日、打ち合わせのために、普段とは違う服装で外出した。髪型も整え、化粧もいつもより濃かった。その帰りに、久しぶりにスーパーFへ立ち寄った。

何事も起きなかった。

店員は誰もこちらを見なかった。レジも滞りなく終わり、あの息苦しさは嘘のように消えていた。店を出た瞬間、背筋に冷たいものが走った。理由はわからない。ただ、その日は「問題が起きなかった」。

それ以来、スーパーFには近づいていない。遠回りして別の店を使っている。それでも、視線は消えない。信号待ちの背後、電車の車内、ふとした拍子に感じる、確かめるような目。

目を合わせてしまえば、また何かを要求される気がする。挨拶かもしれないし、謝罪かもしれない。あるいは、それ以外の何かかもしれない。

鏡に映る自分が、少しだけずれて見えるときがある。その瞬間、考えてしまう。

今、ここに立っているのは、本当に「私」なのか、と。

[出典:662 :本当にあった怖い名無し:2008/07/12(土) 14:25:07 ID:M5BTyOID0]

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