短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

配置の一致 nc+

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品子叔母は、いつも唐突にやってきて、唐突に去っていく人だった。

連絡も予告もない。呼ばれた記憶もない。気づくと玄関に立っていて、気づくともういない。家族の誰も、そのことを不審に思っていなかったのが、今思えば一番おかしい。

私が保育園に通っていた頃の話だ。
ある日の午後、母が玄関で誰かと短く言葉を交わす声がして、すぐに足音が遠ざかった。居間に行くと、品子叔母がいた痕跡だけが残っていた。

品子叔母は変わった人だった。
いつもタンポポみたいな黄色い服を着て、落ち着きなく小刻みに歩く。人と目を合わせるのが苦手で、話すときは必ず少しうつむく。ほとんどの時間を絵を描くことに使っていたくせに、人の噂や家族関係には妙に詳しく、誰と誰がうまくいっていないか、誰が何を隠しているかを、なぜか正確に言い当てた。

顔立ちは整っていたが、「ウヒヒ」と喉を鳴らすように笑うので、全部台無しだった。

その日、叔母は一枚の絵だけを置いて帰っていった。
私は玄関まで追いかけて、母の真似をしてチョコパイを差し出した。

「おばちゃん、チョコパイあげる」
「いいの?」
「またきてね」
「ウヒヒ」

それで終わりだった。

絵は、大きなキャンバスに描かれた油彩だった。
ウエディングドレス姿の女性が、正面を向いて立っている。知らない顔だった。白いはずのドレスは、どこか黄みがかって見えた。シルエットは当時としては珍しく、裾の広がり方も、首元の空き具合も、子供心にも「見たことがない」と感じる形だった。

姉も私も、その絵を気に入った。
理由は分からない。ただ、見ていると落ち着いた。両親はそれを子供部屋に飾った。以来、私たちは毎日その絵を見て眠った。

二十年以上が過ぎた。

兄が結婚することになり、式当日、私と姉は並んで新婦入場を待っていた。
扉が開き、ベールに包まれた新婦が歩き出した瞬間、私たちは同時に息を止めた。

ドレスが、あの絵と同じだった。

色、形、広がり方。
髪型も、耳元のアクセサリーも、首の角度まで、あまりにも一致していた。
似ている、ではなかった。配置が同じだった。まるで、絵の中の女性が、向きを変えてこちらに歩いてきたようだった。

式の最中、私は何度も絵のことを思い出そうとしたが、頭の中で映像が歪んだ。
絵の背景が、思い出せない。白だったはずなのに、何か描かれていた気がする。

後日、実家で絵と当日の写真を並べた。
一致していない部分を探すほうが難しかった。
兄に聞くと、絵の存在自体を覚えていなかった。兄嫁は、初めて見ると言った。ドレスは自分で選んだ。誰の影響も受けていない、と。

その夜、私は久しぶりに子供部屋で眠った。
絵は、なぜか壁から外されていた。母は「古くなったから」と言ったが、代わりの絵は掛かっていなかった。
私は布団の中で、あの女性の立ち方を思い出そうとした。どうしても、顔だけが曖昧だった。

品子叔母は、兄の結婚式の五年前に亡くなっている。
癌だった。発見された時点で手遅れで、数ヶ月で坂を転がるように衰弱した。
遺言は一つだけ。「お墓にはタンポポを供えてね」。

形見分けで、私は叔母の最後の絵を受け取った。
一面にタンポポが咲く丘で、ピクニックをしている人物が描かれている。黄色に埋め尽くされた画面の中央に、白い布を敷いて座る一人の女性。顔は描き込まれていない。

最近、その絵をよく見るようになった。
理由は分からないが、視線がそこに吸い寄せられる。

昨日、ふと気づいた。
丘の奥に、もう一つ白い影が描かれている。最初からあったのか、分からない。
その影は立っていて、こちらを向いている。ウエディングドレスの形をしている。

思い返すと、兄の結婚式の日から、家の庭にタンポポが増えた。
季節外れでも、刈っても、翌日には同じ場所に咲いている。

今朝、鏡の前で髪を結んでいて、首の角度が気になった。
無意識に、あの絵と同じ向きになっていた。

品子叔母は、もう来ない。
けれど、あの絵だけは、いつの間にか私の部屋に戻ってきている。

いつ、置かれたのかは分からない。

[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「ほしな ◆YZpuwgGc」 2019/03/14]

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