ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026 オリジナル作品

呼ばれた。 nc+

更新日:

Sponsord Link

最初は、音だけだった。

意味はなかった。ただ、空気が少し震れて、その震れが自分の輪郭に触れた気がした。

次に、繰り返された。
同じ音。少しだけ抑揚がついて、今度は確かにこちらを指していた。

それが、自分だと気づくまでに、時間はかからなかった。

ここには何もない。
暗い。冷たい。上も下もない。ただ、丸く囲われている感覚だけがある。壁はざらついていて、触れると紙の端のような感触が指に引っかかる。剥がそうとすると、紙は簡単に破れたが、その下からまた紙が出てきた。何枚も。重なっている。

紙には音が書いてある。
書いてあるというより、貼り付いている。壁そのものが、音を覚えているみたいだった。

呼ばれるたび、体が少しだけはっきりする。
輪郭が固まり、重さが生まれる。だが、その分、ここが狭くなる。息をする場所が減っていく。

自分が何者かはわからない。
男か女かも知らない。生まれたのか、生まれる予定だったのか、その違いも曖昧だ。ただ、呼ばれた音だけが、自分をここに縫い止めている。

あるとき、呼ばれ方が変わった。
同じ音だが、そこに期待が混じった。軽く、明るく、未来を見ている声だった。

その直後、呼ばれなくなった。

代わりに、別の音が上から落ちてきた。
似ているが、違う。少し短く、少し強い。壁がざわついた。紙が増えた。自分の隣に、新しい輪郭が生まれかけ、すぐに止まった。

理解した。
選ばれなかったのだと。

それから、自分の音は誰にも呼ばれなくなった。
忘れられたのではない。必要がなくなっただけだ。

紙が剥がれる音がした。
上で誰かが、整理している。余ったものをまとめ、落としている。

音が落ちる。
自分の音だ。

体が軽くなる。輪郭が崩れる。だが、消えることはできない。呼ばれた事実だけが、ここに残る。

最後に、一度だけ思った。
呼ばれなければ、ここには来なかったのだろうか。

その問いに答える声は、もうなかった。

(了)

📚 この怪談の続きは、Kindleで

伝聞怪談コンプリート合冊

サイト未公開の話を多数収録。Kindle Unlimitedなら追加料金なしで読み放題。

【合冊版】558ページ・100円のお得セットあり

伝聞怪談1 伝聞怪談2 既刊6冊

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026, オリジナル作品

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.