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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

もう一人の俺 n+

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あれはまだ中学生の頃だった。

学年もようやく落ち着いてきて、クラスの人間関係も固まってきた頃。ある朝、教室に入った途端、女子のひとりに声をかけられた。

「ねぇ、A学院通ってるんだぁ」

言われた瞬間、意味が分からなかった。A学院といえば近所の進学塾。けれど俺は家が貧しくて、塾なんて夢のまた夢。成績は良い方だったけど、親にそんな余裕は無かった。だから俺はきっぱり言った。

「通ってねぇよ」

けれどその子は笑って首を横に振る。
昨日の夕方、塾から出てくる俺を見かけた、と。しかも向こうから手を振ってきたから間違いようがない、と断言する。

俺の地元は田舎で、同じ学区の顔はみんな知っている。人違いだと片づけるのは無理がある。でも、その時間は確かに家にいた。テレビを見て、母親に呼ばれて夕飯を食べていたはずだ。

胸の奥に、ぬるりとした不安が貼り付いた。
「なんだ、それ……?」

数週間後、新しくできた古本屋に友人達と行った時のことだった。
ドアを開けるなり、店の奥から親父が血相を変えて飛び出してきた。俺を見つけるなり一直線に突進してきて、怒鳴り声をあげた。

「よくまた来れたなッ! 学校に連絡してやる!」

何が何だか分からないまま、腕をつかまれ、事務所に連れて行かれた。
「離せよ! 何すんだよ!」
必死で叫んだが、親父は聞く耳を持たない。

親父の話によれば、店のオープン初日に俺が来店して、漫画やらエロ本やらを万引きして逃げたらしい。信じられない。俺は今日初めてこの店に来たんだ。友人たちもいる。けれど親父の目は氷のように冷たく、仲間の視線も次第に疑いに変わっていく。

その後、学校に連絡がいき、担任がやって来た。平謝りしていた担任は、ふと首をかしげた。
「十一月七日? あの日は工藤の家にいただろ。文化祭の準備で」

そうだった。その日は友人たちと工藤の家に集まっていた。工藤の親も、娘の帰りが遅いと騒いでいたから、担任自ら迎えに来てくれたのだ。担任は「この子じゃありません」と証言してくれたが、親父は納得しなかった。

結局、防犯カメラの映像を見せられた。
画面に映っていたのは、俺だった。
モノクロで少し不鮮明だったが、間違いようがない。背格好も、仕草も、俺自身だった。

背筋に氷が流れるような感覚。
「……誰なんだ、これ」

中学三年になった頃、先輩から電話がかかってきた。
「Kちゃんって子知ってる?」
「いや、知らないすよ」
「嘘でしょ。昨日その子と喋ったら、アンタの話してたのよ。最近アンタから連絡なくて落ち込んでるって」

俺は思わず笑った。全く身に覚えが無い。けれど先輩の声は怒気を含んでいた。
「本人は、先月アンタにナンパされて、ヤッたって言ってるんだけど」

喉が詰まり、声が出なかった。

翌日、Kという女に会った。初めて見る顔だったのに、彼女は俺を知っていた。俺の家族構成や趣味、癖まで。俺が話したとしか思えないほど詳しく。必死で「俺じゃない」と訴えたが、涙を流しながら首を振られた。

やがてKとは本当に仲良くなり、半ば付き合っているような関係になった。彼女も次第に「もう一人の俺」の存在を信じ始めていた。

けれど高一の夏、コンビニでバイトをしていた頃に事件は起きた。
「スタッフおすすめ!」と書かれたポップカードに、自分のプリクラを貼って飾っていた。そのうち俺の分だけが傷だらけにされているのに気づいた。ふざけたイタズラだろうと外すと、裏に爪で刻まれた文字があった。

『あのおんなはおれがさいしょだったろうが』

頭の中が真っ白になった。
誰がこんなことを……? けれど、書き手が「俺」であるかのような文体だった。

その直後、Kから別れを告げられた。
「あなた達には関わりたくない」

彼女の言葉が耳に焼き付いた。
「あなた達」……俺と、もう一人の俺。

あれから何年も経ったが、街を歩いていると、時折視線を感じることがある。
振り返っても誰もいない。けれど、ガラス窓に映った俺の背後に、僅かな影が揺れることがある。
自分と同じ顔、同じ姿。けれど俺ではない何か。

俺は確かに一人のはずなのに、どこかで、もう一人の俺が笑っている気がしてならない。

――もしかすると今この文章を読んでいる「お前」にすら、もう一人が近づいているのかもしれない。

[出典:616 :本当にあった怖い名無し:2006/10/06(金) 11:23:15 ID:a28WeXKa0]

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