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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

あなた達 nw+

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あれは中学二年の秋だった。

教室に入るなり、女子の一人が笑いながら言った。

「ねぇ、A学院通ってるんだぁ」

聞き間違いだと思った。A学院は近所では一番有名な進学塾だ。だが俺の家にそんな余裕はない。成績は悪くなかったが、塾に通ったことなど一度もない。

「行ってねぇよ」

そう返すと、彼女は首を横に振った。

「昨日の夕方、出てくるとこ見たよ。こっち見て手ぇ振ってたじゃん」

その時間、俺は家でテレビを見ていた。母親に呼ばれて夕飯を食べた記憶もある。曖昧ではない。はっきりしている。

なのに、教室の空気が少しだけ変わった。

人違いだろ、で終わるはずだった。だが地元は狭い。同じ学区の顔はほぼ全員わかる。似ている誰かがいる、では済まない。

数週間後、新しくできた古本屋に友人と入った瞬間、店の奥から店主が飛び出してきた。

「よくまた来れたなッ!」

腕をつかまれ、事務所に引きずり込まれる。

「離せよ!」

怒鳴っても、店主は止まらない。

「オープン初日に万引きして逃げたの、お前だろうが!」

そんなはずはない。その日、俺は文化祭の準備で友人の家にいた。担任まで迎えに来た。記憶は鮮明だ。

やがて学校に連絡が入り、担任が来た。事情を説明し、「この子ではありません」と証言した。それでも店主は譲らない。

防犯カメラの映像を見せられた。

そこにいたのは、俺だった。

背格好も、歩き方も、棚に手を伸ばす癖も、すべて俺だった。

だが俺ではない。

画面の中の俺は、振り返る直前、ほんの一瞬だけ笑った。見覚えのない笑い方だった。

その頃から、知らないところで俺が何かをしているという話が増えた。

中三の冬、先輩から電話が来た。

「Kちゃんって子、知ってる?」

知らないと答えると、先輩は苛立った声で言った。

「最近アンタに連絡無視されて落ち込んでるって。先月、アンタにナンパされて、ヤッたって」

息が詰まった。

翌日、Kという女に会った。

初対面のはずなのに、彼女は俺の家族構成や好きな音楽、授業中の癖まで知っていた。俺が話したとしか思えない細かさだった。

「俺じゃない」

そう言っても、彼女は首を振った。

やがて俺たちは実際に会うようになった。彼女も次第に、もう一人の俺の存在を口にするようになった。

「あなた、時々違う顔するよね」

そう言われるたび、鏡を見る回数が増えた。

高一の夏、コンビニでバイトを始めた。

レジ横の「スタッフおすすめ!」のポップに、俺のプリクラを貼っていた。ある日、それだけが鋭く引っかかれ、顔の部分だけが何度も削られていた。

外して裏を見ると、爪で刻まれた文字があった。

『あのおんなはおれがさいしょだったろうが』

字は汚い。だが筆圧の癖が、自分に似ていた。

その直後、Kは言った。

「あなた達には関わりたくない」

あなた達。

俺は一人だと言いかけて、言葉を飲み込んだ。

それから、時々視線を感じるようになった。

商店街のガラス、電車の窓、夜の自販機の反射。

振り返ると誰もいない。

だが映り込んだ俺の背後に、ほんのわずかに肩幅の違う影が立っていることがある。

瞬きをすると消える。

笑っているように見えることがある。

最近になって気づいたことがある。

俺が「家にいた」と思っている日の記憶が、ところどころ薄い。

テレビの内容を思い出せない。夕飯の味も曖昧だ。

代わりに、見覚えのない路地や、知らない部屋の匂いが断片的に浮かぶ。

どちらが本物なのか、考えないようにしている。

ただ一つ確かなのは、俺は一人で生きてきたつもりだったということだ。

もし今、背後に気配を感じたなら、振り返る前に窓ガラスを見た方がいい。

そこに映っているのが、本当にお前だけかどうか。

[出典:616 :本当にあった怖い名無し:2006/10/06(金) 11:23:15 ID:a28WeXKa0]

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