短編 洒落にならない怖い話

首洗池【ゆっくり朗読】3300

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それは八年ほど前のことになりますが、仕事で高知県の某市へ三泊の出張に行きました。

497 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2006/03/27(月) 01:48:51

現場は駅から程遠く、唯一のビジネスホテルは駅前に一件しかありませんでした。

仕事もひと落ち着きして外でタバコ休憩していると、なんと目の前に小さな旅館がある……?

現地の人へ訊くと「……まぁ、ね」とか「古いけど……ねぇ」とか歯切れが悪い。

こっちはあと二日もタクシーで現場に通うことを考えると、少々古くたって効率には代えられないものがあると判断し、駅前のホテルをキャンセルしてその旅館のお世話になることにしました。

どうせ寝るだけだ、なんてね。これが大間違いでした。

旅館の方が「三日間もお泊りですか?」とビックリした表情をしたのですが、こんな田舎に連泊することが珍しいのかな?くらいにしか考えてませんでした(普通そうだろ)

ちなみに当日の宿泊客は私だけとのことでした(観光地でもなし、そんなもんだろ)

当日の仕事も終わり、疲れた体で二階の部屋に通された時に、部屋の前で、ん?中に誰かがいる……?

そんな気配がして引き戸を開けましたが、誰もいない……

仲居さんに促されて部屋に入った途端、不思議にサァっと全身に鳥肌が立ちました。

ん?何か、ヤバい?

と直感が働きましたが、本人は霊感なんて縁が無い人生を送って来たので、仕事の疲れがひどいのかな? と気にしないようにしました。

ただ、仲居さんが去った後も何かに見られているような気がするのと、ひどく部屋が寒いんです。

すぐにエアコンを切りましたが、鳥肌は立ちっ放しで直りません。

それは気温の低さからではなく、今にして思えば何か神経に来るピリピリした寒さです。

食事を済ませてから会社への報告書を書き上げて風呂に行きましたが、夜十一時を回り、かなり遅くなってしまいました。

風呂で温まったはずなのに、部屋に入ると何故か鳥肌が立つのです。

そして、部屋の一点から誰かに見られているような視線を感じ、相当疲れているのと風邪でもひいたかなぁ?と思いながらも、気を紛らわしたくてTVでも見ようと電源を点けた時に、TVの横にある床の間の下にある引き戸を、何の気も無く見たんです。

直感が、この部屋に初めて入った時から感じている(誰かに見られている)視線とが、ピッタリ合ったことを教えました。

この引き戸、何か変だと思いながら視線をそらさず、引き戸を開けた時のことです。

開けた引き戸の中を、左から右に青白い手がフゥっと移動したのです。

一瞬、何が起こったのか理解出来ず、頭は真っ白になりながらも急いで引き戸を閉めて、ハッと我に返った途端、腰が抜けるほど驚きました。

そう、ここは二階なんだ……

しかし、あれは間違いなく人の手だった。でもここは二階なんだよ。

考えてもまともに答えが出るはずも無く、恐怖心が全身を包みました。

もう二度と床の間の方を見ないようにし、廊下も部屋も点けられる電灯は全て点灯して、朝が来るのを待ちました。

そして深夜三時を過ぎた頃、部屋の周りを、

コツーン、コツーン

とゆっくり歩くような音がしました。

それは、まるでアスファルトの道路を靴で歩く時のような音。

でも何故? 建物の中なのに……

靴音はゆっくり、ゆっくり、しかし止まらずに部屋の周りを歩き続けます。

さっきの「手」を見たこともあり、恐怖心は高まるばかりでした。

情けないですが、恐怖から来る失神か、キレる寸前だったように思います。

その間も、コツーン、コツーン、コツーン

部屋の周りを歩き続けているような靴音は止みません。

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もう恐怖心が絶頂に達したと思われた時に、私は「ふざけんなぁ!」と叫んでいました。

その途端に靴音が止み、ガシャン! と何か金属系が床に落ちたような音がしたんです。

必死の思いか何だったのか、無意識の内に私の口から念仏が繰り返し唱え出されています。

変な表現ですが、意識して唱えているのではない、そんな感覚です。

部屋の外から何者かが、こちらを見据えているかのような感じがありましたが、暫くしてフッと気配が無くなりました。

しかし恐怖から明るくなるまで念仏を唱えつづけてましたよ。

不思議なのは意識はそこまでで、その後気を失っていたのか安心して寝てしまったのか、気が付いたら時計の目覚ましが鳴っていました。

なぁんだ、夢か? とも思いましたが、部屋の電気が全部点いている。

最も不思議なのは、床の間の引き戸が半分開いたままでした。

慌ててはいましたが、確実に締めたはず……

もう朝食どころか、とにかくこの後二日間の予約を取り消す際に、旅館の方へ

「あの部屋変だよ」と言い掛けたところ、表情無くジッとこちらを見て、

「部屋が変なのではないです」とのこと。

旅館を出て仕事の現場へ行き、私の顔色を見た客先(現地の人)から真面目顔で、

「やっぱり? 見た? 誰でもやっぱり見るんだ……」

と言われました。

そして、旅館が悪いんじゃないと言う。

さっきも同じようなことを言っていたと返したら、静かな声で、

「旅館の裏にある“首洗いの池”のせいだよ」

昔、郷士と罪人が多数ここの近くで処刑されて、旅館裏にある首洗いの池で洗われて、その度に池が赤く染まったそうです。

今は旅館も廃業してしまったとのことです。

(了)

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