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これは、ある不動産会社で管理人を務める和茂さんから聞いた話だ。

仕事柄、さまざまな住人と接してきたが、この件だけは一生忘れられないという。


新築のマンション「サンライズタワー2005号室」。そこに住んでいたのは、木下香織と菅原京子という二人の女性だった。

香織はフリーターで、アルバイトの収入では家賃を払うのがやっと。そんな彼女が2005号室に住むために選んだのが、ルームシェアという方法だった。ネットで募集をかけると、すぐに同年代の京子が見つかった。京子は物静かで、話をしてもどこか落ち着いており、香織にとって理想的な同居人だった。少なくとも、最初のうちは。

ただ一つ、気になることがあった。京子の部屋には、どんな理由があっても立ち入ることを許されなかったのだ。香織が冗談半分でドアノブに手を伸ばしただけでも、京子は目をつり上げて飛びかかってきた。

「ここだけは絶対に触らないで」

その剣幕に、香織は背筋を凍らせたものだ。だが、家賃が半額になるならそれくらい目をつぶれる。香織はそう思って気にしないふりをしていた。


ところが、ある日。京子が外出中、香織はふとした好奇心に負けてしまう。あの部屋の中には一体何があるのか。手元のスマホで時間を確認し、彼女が帰る前に済ませればいいと自分に言い聞かせた。

ドアノブをゆっくり回し、慎重に扉を開けると――そこは拍子抜けするほど普通の部屋だった。きれいに整ったベッド、整然と並べられた本棚。隠し事をするようなものは何も見当たらない。

「なんだ、ただの部屋じゃない」

胸をなでおろして部屋を出ようとした、その時だった。視界の端に京子の姿が映った。

「――なに、してるの?」

京子は無表情だった。だがその瞳には、底知れない怒りのようなものが渦巻いていた。次の瞬間、彼女は絶叫と共に香織に飛びかかってきた。まるで別人だった。香織は抵抗したが、京子は驚くほどの力で香織の髪をつかみ、床に押しつける。そこへ近隣住民が駆けつけ、なんとか二人を引き離した。

京子は事件のことを覚えていないと言い、香織もそれ以上追及する気力を失っていた。


その後、京子は何事もなかったかのように振る舞ったが、香織のほうは体調を崩してしまう。誰も自分の部屋に入れることができなくなり、外出することも減っていった。やがて二人の関係はぎくしゃくし、マンション内で会話を交わすことさえなくなっていった。


事件が発覚したのは、管理人の和茂が家賃の催促に2005号室を訪れた日だ。ノックをしても返事がない。おかしいと思いながらドアノブを回すと、鍵はかかっていなかった。

「失礼します」

中に入った瞬間、和茂は絶叫を上げて腰を抜かした。部屋の中央には二体の遺体が横たわっていたのだ。どちらも首がもげ、血の池の中に転がっている。

その後の警察の調べで、遺体は木下香織と菅原京子のものと判明した。部屋には第三者が侵入した痕跡はなく、二人の死因も未だ不明だという。和茂はその事件を境に、自分の部屋に誰も入れられなくなったそうだ。

「入られるとね……嫌なんだよ。なんだか、自分が消えてしまいそうで……」

そう言って、彼は笑った。だがその瞳は、どこかおびえているようだった。

(了)

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