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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

偶然の一致 n+

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人は死んでしまえば、あらゆる出来事が一本の線に収束していくのだろうか。

 ばらばらに散らばっていた点が、亡き後に結ばれて、運命のように見える。
 そう考えるようになったのは、身近な死をいくつも目にしてからだ。
 偶然だと片づけるには、あまりにも出来すぎている。かといって「運命」と口にした瞬間に、ぞっとするような冷たさが背骨を走る。

 ここから話すことは、どれも私が耳にしたり、現地で確かめたりしたことだ。作り話だと思ってくれて構わない。ただ、読み終えたあとで、ふと自分の周りを見渡してほしい。どんなに無関係に見えるものでも、死んだ後に線となって繋がってしまうかもしれないのだから。

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 最初に耳にしたのは、イギリスの田舎での出来事だった。
 農場で働いていたエドワードという男が、ある朝、畑の真ん中で発見された。体は真っ裸、皮膚は土埃と油で黒く汚れ、目は半開きのまま天を向いていたという。彼を見つけた隣人は、最初「酔って服を脱ぎ、寝ているのだ」と思ったらしい。だが近づいてみると、腕は不自然な角度に折れ曲がり、呼吸もかすかにしか感じられなかった。
 病院に運ばれて数日間生き延びたものの、やがて息絶えた。警察が調べたところ、近くにあったトラクターに巻き込まれ、衣服をすべてはぎ取られたのだという。事故であることは明らかだった。
 だが、そこからが奇妙だった。
 そのトラクターには、古くからの愛称がついていた。農夫たちが冗談半分に呼んでいた名前は「テイクオフ・ギア」……つまり「服を脱げ」という意味だ。
 裸で死んだ男と、「服を脱げ」と囁く鉄の機械。因果関係などないはずなのに、その呼び名を聞いた瞬間、私は背筋が凍った。まるで鉄塊の方が彼を選んだように思えてならなかったからだ。

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 二つ目の話は、地中海のクレタ島で起きた。
 観光客で賑わう浜辺の近く、白い石畳の小路を、ドイツ人の夫婦が並んで歩いていた。日差しは穏やかで、潮風に混じってハーブの香りが漂っていたという。奥さんが語った証言では、夫はまさに幸せそうに笑い、空を見上げていたそうだ。
 その瞬間、彼はぱたりと前に倒れた。痙攣も叫びもなく、ただ人形の糸が切れたように。最初、奥さんは日射病だと思ったらしい。しかし、頭を抱えたとき、指に赤黒い液体がついた。
 検死の結果、死因は「上空からの弾丸による直撃」。誰かが祝い事か何かで空に向けて撃った銃弾が、落ちてきて彼の頭を貫いたのだ。
 弾丸が落ちる確率、そして正確に彼の頭蓋に命中する確率。それを計算しようとすれば、天文学的な数字になるはずだ。けれど彼は、妻の目の前で撃ち抜かれて死んだ。
 その奥さんが言った言葉を私は忘れられない。
 「彼はよく『人生は空から降ってくるものだ』と冗談を言っていたのです」
 笑い話のつもりだった言葉が、命を奪った弾丸と繋がってしまった。

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 三つ目の話は、もっと背筋を冷やす。
 ジョンという名の男は若い頃、手相を見てもらったことがあった。うさん臭い占い師だったが、彼ははっきりこう言ったという。
 「四十五歳の誕生日に死ぬ」
 当時の彼は笑って聞き流した。だが年を重ねるうちに、その言葉は頭の片隅に巣をつくった。四十四歳になった年、とうとう恐怖に押し潰されそうになり、酒も女遊びもすべて断ち、健康に気を使うようになった。
 そして迎えた誕生日。家に籠り、誰とも会わず、外出すらしなかった。時刻が零時を過ぎたとき、彼は深い安堵に包まれたという。
 「占いなど、やはり戯言にすぎなかった」
 そう胸を張った二日後、新聞を開いた彼は凍りついた。そこには「ジョン・スネル、四十五歳、死去」と大きく載っていた。
 ただし、死んだのは彼ではない。同じ名前を持ち、わずか九百メートル離れた場所に住んでいた別の男だった。
 その記事を見つめながら、彼は自分が「死を他人に肩代わりさせた」のではないかと震え上がったらしい。以来、彼は家から出ることをやめ、誰にも会おうとしなくなった。

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 これらの話を並べてみると、私はどうしても「偶然」という言葉に逃げ込めなくなる。
 裸にした機械、空から落ちた弾丸、そして他人の名を借りて訪れた死。
 無関係に見えるそれらが、ひとつの冷たい網目となって私の思考を締め付ける。

 人は生きている間、自分の意思で進んでいると信じている。けれど死んだあと、その生が「物語」として回収されるとき、あらゆる出来事はあらかじめ仕組まれていた筋書きのように整列する。
 ならば私の死もまた、どこかで既に決まっているのだろうか。
 ページの端に書かれた小さな注釈のように、見えない誰かが記しているのだろうか。

 先日、古い友人から手紙が届いた。内容はたった一行。
 「おまえは五十歳の誕生日に死ぬ」
 ただそれだけだ。冗談にしては悪質だと思い、すぐに電話をかけたが、番号は使われていなかった。共通の知人に尋ねても、彼は数年前に病で死んでいたという。
 では、この手紙はいったい誰が送ったのか。

 私は今、四十九歳だ。
 来年の誕生日まで、あと十か月ほどしか残されていない。
 笑い飛ばしたいのに、どうしても胸の奥がざわつく。
 死んだあとに「意外な偶然」として語られるのは、果たして誰の口からなのだろう。
 もしかしたら、今これを読んでいるあなたの口からなのかもしれない。

[出典:181 :偶然の一致 その2:2008/02/19(火) 12:35:13 ID:bD7+iJG50]

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