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中編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間 定番・名作怖い話

お守りばばあ r+5,562

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小学生の頃、俺の地元には「お守りばばあ」と呼ばれる女がいた。

誰が最初にそう呼んだのかは知らない。ただ、その呼び名があまりにもぴったりで、町の子どもは皆そう呼んでいた。

夕方になると必ず小学校の正門前に立っていた。真夏でも真冬でも分厚い赤いコートを着込み、同じく赤いフェルトの帽子を目深にかぶっていた。帽子には大小さまざまなぬいぐるみが縫い付けられていて、まるで色鮮やかな病巣のように彼女の頭を覆っていた。遠くからでもすぐに分かる姿だった。
両手はぴたりと体の横に添え、気をつけの姿勢のまま動かない。けれど、そこから漂ってくるのは甘ったるく腐ったようなアンモニア臭。通りかかるだけで子どもは皆顔をしかめ、息を止めて駆け足で通り過ぎた。

「お守り作ったけ、もらってくんろ」

その一言を、子ども達に繰り返すのだった。声の調子は無感情で、抑揚がなく、だからこそ異様だった。
親や先生は口をそろえて「あの人には関わるな」と言った。まともじゃないからだ、と。だから大半の子は彼女を見ないふりをしてやり過ごしていた。

俺もそうしていた。
ただし、ある日が来るまでは。

転校生が来たのだ。そいつはやたらと肩肘張っていて、俺たちの学年でも目立っていた俺のグループに絡んでくるようになった。意地っ張りで、俺たちに見下されたくないのがありありと伝わってきた。
ある昼休み、そいつが校庭にやってきて唐突に聞いてきた。

「なあ、夕方に校門の前に立ってる赤いコートのばあさん、なんなんだ?」

俺たちは顔を見合わせた。笑うでもなく、からかうでもなく、慎重に言葉を選びながらお守りばばあのことを話した。俺たちにとっては「腫れ物」だった。
転校生は最初、真剣な顔で聞いていたが、次第に俺たちを小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「臆病だな。そんなババア、怖くもなんともない」

その一言に、妙に腹が立った。
俺たちは言った。「じゃあ、お守りもらって来いよ。そうしたら仲間に入れてやる」
転校生は最初は拒んでいたが、俺たちが「ビビってるんだな」と囃したてると顔を赤くして承諾した。

放課後、転校生は俺たちに背を押されるようにして校門へ歩いていった。
お守りばばあはいつも通りそこに立ち、口を開いていた。

「お守り作ったけ、もらってくんろ」

転校生は何度もこちらを振り返り、泣きそうな顔を見せた。けれど俺たちが腕を組んでニヤニヤしているのを見て、意を決したのか早足で近づいた。
甲高い声で「お守りください!」と叫んだ。
その瞬間、お守りばばあの首がぎこちなく回り、赤い帽子の下から真っ黒な瞳が転校生を射抜いた。

「手作りだっけ、大切にしてくんろ」

帽子の中から取り出された赤い布の袋。それを転校生は震える手でつかみ取った。
走り寄ってきた彼の顔は青白く、唇は紫がかっていた。俺たちは声もなく立ち尽くしていた。
その背後で、突如お守りばばあが大声を張り上げた。

「ありがとな! 大切にしてくんろ! ありがとな! 大切にしてくんろ! ありがとな! 大切にしてくんろ!」

繰り返し、繰り返し、まるで壊れた人形のように叫び続けた。
恐怖で全員が裏門に向かって駆け出した。心臓が破裂しそうだった。校舎裏に逃げ込み、肩で息をしながら顔を見合わせる。怖さが薄れると同時に笑いがこみあげ、俺たちは腹を抱えて転げ回った。そこには転校生も混じっていた。

誰が言い出したか覚えていない。
「中身見ようぜ」

赤いお守りの紐をほどくと、中から一枚の紙切れが出てきた。
そこには震えるような文字でこう書かれていた。

『この子が早く死んで、敬子とあの世で遊んでくれますように』

そしてその下に「敬子が好きだったこと」と題された箇条書き。折り紙、一輪車、縄跳び。
さらに最後には『血まみれでこの子が死にますように』と赤字で書かれていた。

俺たちは全員、石のように固まった。
転校生は紙を握ったまま震えだし、目からはぼろぼろと涙が落ちていた。

その時だった。
転校生の髪が後ろに強く引っ張られ、地面に引き倒された。
振り返ると、鬼の形相をしたお守りばばあがそこにいた。ぬいぐるみだらけの赤い帽子が地面すれすれまで揺れ、アンモニア臭が息を詰まらせた。

「大切にしてくんろぉ!! 大切にしてくんろぉ!!」

ばばあは転校生の髪を鷲づかみにして振り回した。転校生は口から泡を吹き、必死にその手を引きはがそうともがいた。
俺たちもパニックになり、泣きながら「ごめんなさい!」と叫びつつ、ばばあにしがみついた。体臭で吐き気が込み上げ、それでも必死に引きはがそうとした。
やがて教師たちが駆けつけ、大人の腕力でばばあを取り押さえた。警察が呼ばれ、赤いコートの女は連行された。

その晩、俺たちは親にこっぴどく叱られた。
「だから関わるなと言っただろう!」
母親の涙混じりの平手。父親の拳骨。友人たちも同じ目に遭っていた。
そして口止めされた。「二度とこのことを話すな」

翌日、転校生は学校に現れなかった。一週間ほどして、彼の親が学校に乗り込み「いじめで子どもがおかしくなった」と騒ぎ、俺たちの親は慰謝料を払った。それから転校生は再び転校していった。
結局、名前すらろくに覚えてやれないまま。

お守りばばあも二度と校門には現れなかった。
あの紙に書かれていた「敬子」という名前が誰なのか、どうしてあんなものを子どもに渡そうとしたのか、今も分からないままだ。

ただ、あの日の転校生の泣き顔と、ばばあの壊れたような叫び声だけは、眠るたびに脳裏に浮かび続けている。

[出典:811 :本当にあった怖い名無し:2014/02/14(金) 00:53:31.00 ID:33gKkBRC0]

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