短編 洒落にならない怖い話

霊山の猿【ゆっくり朗読】770

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四国では、あまり全国的に有名な心霊スポットがない。

265 :霊山の猿1/5:2006/06/11(日) 23:16:31 ID:fDhKkYUt0

超常現象が起きても、殆ど噂にならないのです。

仕事がてら地域のご老人に話を伺う事が多く、みんな様々な不思議体験を語ってくれますが、
皆、口を揃えて「狸に化かされたんだ」と言います。
不可解な事があっても、自然現象だと納得する。不思議な事など何も無い。そんな国民性があるように思います。
以前、山怖スレで投稿し損ねた話。

祖父が亡くなった次の年の夏、山開きの日と同時に霊峰、四国では有名な霊山に登ってきた。
死んだ爺さんが毎年熱心に参拝していたので、後を継いで私が行く運びとなったのだ。
相方も行きたがっていたが、初日は女人入山禁止という事で、お留守番して頂いた。
祖父の遺品には、修山服の他に参拝札みたいな物があって、
何回訪れたのか、というのが分かるようになっているのだが、
曽祖父の頃から続けているらしく、山麓で札を奉納すると、今年で64回目との事だった。

ツアーバスで来ているワケではないので、移動には時間が掛かる。
最低2日必要な日程だっただが、宿泊費も惜しいので、中腹の山小屋で泊まる事にした。
山小屋といっても、管理者が一人居るだけの簡易休憩所で、広さ4畳しかない。おまけに何か臭い。

初夏の蒸し暑さと薮蚊に、ウンウン言いながら寝ていると、
深夜、いきなり「ドーーーーン!」という音がして飛び起きた。
続けて「ゴゴゴゴゴ」や「ドドドドド」と、地響きの様な音が聞こえる。(JOJOじゃないです)

「飛行機か何かですか」と管理の爺さんに聞くと、
「山では良くある事」とのことだった。
私がしつこく食い下がると、
「まともに何度も聞いたら寿命が縮む。早よ寝れ!」
慌てて目を瞑った。

次の日、日が昇る前から立つことにする。

爺さんが「朝はやめとけ」と言うが、私が正午までに登って下山したい旨を云うと、
「猿に気ィつけろ」とだけ念を押された。

しばらく歩くと、高さ100メートル、角度は70度を超える崖に着く。
べらぼうに高い。下から見上げるだけで眩暈がする。
そこには2本の長い鎖が打ち込まれており、それだけを足場にして登れというのである。
実際、祖父に連れられ何度か来た事はあり、いつもは迂回ルートを通っていたが、
今年こそは……と、若さ故の過ちか、鎖場のルートを選んでしまった。

朝露で鎖が湿って滑りやすい。
四苦八苦しながら半分くらい登った頃、足元で「お~い」と呼ぶ声がした。
うっかり下を見てしまう。霧でよくは見えないが、高さで頭がクラクラする。
もう一度、足元で「お~い」と呼ぶので、返事をしようとした――
瞬間。背中がズシッと重くなった。身体全体がガクンと揺れた。
何かが、何かが背中にしがみ付いている!

私を落とすつもりか、背中に乗ったソレは、身体を揺すり始める。
続けて、頭に巻いている絞りをグイグイ引っ張り始める。
こんな態勢では振り向くことも出来ないが、確かに腰に絡みつく毛深い足が見えた。
「猿!?」
この高さで落ちて、只では済まないだろう。
鎖の隙間に手、足、としっかりはめ込んで、なんとか振り落とされないようにする。
下で怒号がする。
甲高い声で、今度は「落とせ~落とせ~!」と。
そして背中のヤツは、私を何度も揺する。
ハチマキが脱げると、今度は髪の毛を引っ張り始め、何本もブチブチと抜かれる。
あまりの恐怖に、私は目を瞑ったまま泣き喚いた。

何分経ったろうか。

私がじっと我慢していると、下の方で「チッ」と舌打ちが聞こえ、フッと背中の重みがとれた。

その後、ビクビクしながら鎖を登り終えると、一番近い宮社まで駆け込んだ。
爪でガリガリになった修山服を見せながら、一部始終を説明する。

宮司は難しい顔をして、
「腐っても霊場だ。今から私が言う話は聞かなかった事にしてくれ」
そう前置きし、語り始めた。

これだけ険しい道な為、確かに落下事故も起こりはするが、死傷者などは滅多に出ない。
稀に起こる事故の大半は、独りで登った者が遭うのだそうだ。
落ちた人間は揃って、「猿に襲われた」という。
何でも、この山の猿の中には、人間そっくりの声で叫ぶ猿が居て、
早朝や夜、独りで登ろうとすると、だれもいないハズなのに、自分を呼ぶ声がするという。
それが本当に猿なのかどうかは分からないが。
前々年も一人、早朝に登った参拝者が崖から落ちた。
発見された時には、まだ息が有ったらしい。が、病院に着く前に亡くなったのだという。

「もう少し見つけるのが早かったら」と、宮司は呟いた。
私が「まるで見たかのように話しますね」と聞くと、
「……見つけたのはワシだからな。
猿ども、割れた頭から脳みそ掻き出して食っていやがった」
宮司は吐き捨てるようにそう言った。

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