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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

鍵をかけた理由 rw+11,000-0118

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十数年前の夏、日が傾きかけた夕方のことだという。

蝉の声はしていたが、どこか遠く、膜を一枚隔てたように聞こえていた。

大学生だったまゆみさんは、夏休みのあいだ、お中元の配達のアルバイトをしていた。社用車ではなく自家用車を使い、配達件数に応じて報奨金が出る。単調だが、効率よく回れば日没まで稼げる。だからその日も、最後の一軒まで片付けるつもりでハンドルを握っていた。

住宅地の奥にある、ひときわ大きな門の家だった。車を玄関先に寄せ、チャイムを鳴らす。すぐに引き戸が開き、品の良い中年の女性が現れた。

「まあ、ごくろうさまね」

穏やかにそう言って荷物を受け取り、印鑑を取るからと玄関脇の部屋へ入った。
数秒後、戻ってきた女性の顔は、別人のように硬くなっていた。

まゆみさんをまっすぐ見据え、低い声で言った。

「これ、開けたでしょう。中がひどいことになってる。あなたがやったの」

意味が分からず立ち尽くしていると、女性は声を荒げる。

「正直に言いなさい。今すぐ営業所に電話するから。家の中に入りなさい」

腕を掴まれ、抵抗する間もなく玄関の内側へ引き込まれた。戸が閉まり、鍵のかかる音がした。その瞬間、息が詰まったという。

「違います、私じゃ……」

涙声で言っても、女性は聞こうとせず、固定電話の受話器を取り上げた。
警察を呼ばれる。そう思ったとき、膝が震えた。

だが、女性が告げた内容は、まったく別のものだった。

「もしもし、警察ですか。今、配達の人が来ているんですが……私が印鑑を取りに行った間に、窓から外を見たら、その人の車に男が乗り込んでいるのが見えたんです。刃物のようなものを持って、後部座席に」

通話を切ると、女性は深く息を吐き、急に声の調子を落とした。

「外で言ったら、あなたが逃げるかもしれないと思ったの。だから……ごめんなさい」

その言葉が、本当なのかどうか。まゆみさんには判断できなかった。女性の指先は小刻みに震えていたが、視線は一度も外を向かなかった。

ほどなく、複数のパトカーが到着した。警官たちが車を取り囲み、後部座席から一人の男を引きずり出した。やせ細り、汚れた病院着のようなものを着ていた。意味をなさない言葉を繰り返しながら、ただ「家に帰る」と呟いていたという。

後で、近くの病院からいなくなっていた人物だと知らされた。
事件としては、それで終わった。

だが、まゆみさんは今も、あの日のことを整理できずにいる。
女性が見たという光景は、本当にあのタイミングだったのか。
印鑑を取りに行ったわずかな時間で、男は静かに車に入り込めただろうか。
それとも、もっと前から、誰かが見ていたのか。

それ以来、車に乗る前、必ず後部座席を見る。
そこに何もいなくても、ガラスに映る自分の顔の奥を、何度も確かめてしまう。

あの家の玄関で閉められた鍵の音だけが、今も耳に残っている。

(了)

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